第112話 誇り高き高級娼婦達
ルフはそう言って、ひとつの娼館にするりと入っていった。慌てて私も付いていく。
なんだかんだ、初めて入る。
娼婦の居る館に。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
国や地域、はたまた店によって異なるらしいけれど。この店は入るとすぐに広い部屋があった。少し薄暗い部屋。
壁に沿って、部屋を囲むようにソファが続いている。そこに女性達が並んで座っているのだ。ここの従業員だろう。皆、綺羅びやかで色とりどりのドレスを着ている。それも露出が多く、身体のラインが分かりやすいぴったりとしたもの。
6人ほど。4人がビーストマンで、ふたりニンゲンだった。
「お客様。レズプレイが可能なキャストは現在このふたりが空いてございます」
案内人はスーツを着た男性のニンゲンだった。彼に呼ばれてふたりの女性が立ち上がる。ふたりともビーストマンだ。犬と猫だろう。
この部屋で、女性を選ぶのだ。次に、あそこの階段から2階へ上がり、個室で交尾をするのだろう。
「ごめんなさい。私達、人を捜しているの。お金は払うから、情報を貰えないかしら」
「…………はぁ。聞くだけ聞きましょう」
目的を伝えると、間の抜けた返事をされた。そりゃそうだ。娼館に来て娼婦を買わないなんて意味不明だから。
◇◇◇
「…………いやあ、居ませんね。というか、ありえません」
「?」
シェノの特徴を伝えると、男性はかぶりを振った。
「当店は結構『ちゃんと』してましてね。キャストは法に則ってニンゲン20歳、ビーストマン18歳、エルフ16歳以上の子しか雇っていません。年齢を証明出来ない子はそもそも門前払い。17歳のビーストマンはそもそもアウトですね」
「…………なるほど」
高級店は、『ちゃんと』している。従業員の待遇や衛生面などもそうなのだろう。今見ても、キャスト達の表情は悪くない。彼女達は自分で選んで、誇りを持って働きに来ているのだ。
そして、身分証明が必要。奴隷の子はそもそもここでは働けない。誰でも娼婦になれる訳ではない。
娼婦は別に、この世の底辺などではないのだ。
「分かったわ。ありがとう。ではもし、そういう子がそれでも働いているとしたら?」
「……もう少し、奥の方でしょうね。旧市街地に近く、道も建物も荒れてきますので分かりやすいですよ。南西に向かって行くと、見世物小屋のように外から『商品』が見える店が増えてきます。あの辺は法律も何も関係無い感じですね。正直、ここいらの普通の娼館とは別世界と思ってください。ガチの奴隷、性病、犯罪者、子供。空気も悪く、気分が悪くなります」
「…………そう」
「ですが、他の亜人はともかくビーストマンはそこでも居ないと思いますよ。ご存知とは思いますが、この国はビーストマンを過剰に保護する法律がいくつもあって。特に奴隷は殆ど禁止……どころか、頻繁に国の機関によるチェックが入りますから」
「……そうなのね」
「保護施設を見て回るのが良いかもしれませんね」
「保護施設……」
彼はよく教えてくれた。私が最初に、金を払うと伝えたからだろう。ただの冷やかしと思われてはいけない。
レドアン大陸に着いて真っ先に換金した、この大陸の共通通貨がある。それを取り出して手渡した。貨幣で320レドル。壁に書かれていたこの店の相場の、半額だ。このくらいだろう。
「親切にありがとう」
「いえいえ。何かあれば当店をご贔屓に。あっ。次のお客様が見えました。それでは、これで。はいいらっしゃいませー」
彼も笑顔だった。正直少し痛い出費だけれど、もうこれ以上高級店で聞き込みをする必要が無い。
私達はそのまま、店を出た。




