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エルフの姫  作者: 弓チョコ
第5章:誇り高き戦士達
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第106話 リスクを負う亜人達

 反応は無かった。けれど私はそのまま、私達のことを話した。

 私達がエルフの冒険者であること。噂にあった魔族を探していること。私達がいずれ魔界を冒険することを目標としていて、少し話をしたいだけだということ。


『…………』


 反応は無かった。けれど、手応えはあった。

 道行くビーストマン達が、私達の方を見ていたからだ。


 人の顔。獣の四肢。獣の耳。獣の体毛。獣の尻尾。


 古代九人種の内、『獣人族』を始祖にするヒト種。


「……駄目ですね。聴こえてはいると思いますが、これで反応をくれるような性格ではないか、魔法の範囲内に居ないか、そもそも存在しないか」

「そうね。まあ駄目で元々だったし。新しい魔法もできた。ウラクトの旅はこの辺りかしら」

「次はどこで何をしますか?」

「まだ、レドアンを見て回るわ。次は南の方へ行きましょうよ。一度、ニンゲンの『都会』から出て。魔界までは行かずとも、ニンゲン界にある亜人の集落なんかを訪ねてみたいわ。そう。砂漠のエルフも居るのよね」


 オルスの巨大森のように保護区に指定を、されてすらいない土地が沢山ある。昔ながらの生活を続ける土地だ。私はこれまでニンゲンの国の都市周辺だけを旅していた。もっと、国の領地だけれど、殆ど管理も行き届いていないような場所。そんな所だって沢山あるし、広い。そこにはニンゲンの村だってある筈だし。


『…………ああ、俺を呼んでたのか。さっきのは』

「えっ」

「エルル!」


 なんて思っていると。

 魔法の会話に、返信が来た。男性の声だ。場所や距離は分からない。私の声の場所はビーストマン達にバレたのに。

 慌ててルフと目を合わせる。


『……返答ありがとう。あなたは、魔族なの?』

『…………答えづらいな。お前はニンゲンの味方なのか?』


 ルフと頷く。この彼で当たりだ。


『ごめんなさい。訊き方が悪かったわ。私達はエルゲンとエルフのメスふたりなのだけど。あなたの種族を訊きたいの』

『……なんだと』

『えっ』

『…………それ、こんな、皆が聴いている魔法会話で言って良いのか? エル……。エルゲンなどと』

『…………』


 異種族間ハーフにとっての禁句。最大限の侮辱。それを自分から自己紹介した私を、気遣って心配してくれた。彼は良い人だ。


『ありがとう。けれど、他に適当な言葉を知らないのよ。エルフと言うと本当のことではないし。私の外見はニンゲンではないから。それに、私は混血児であることを悲観していないの。前向きに考えようと思っているのよ』

『…………』


 私達はまだ屋根の上に居る。ビーストマン達は視線をくれるだけでなく、立ち止まって私達の会話に耳を傾けていた。


『……リスクを承知で、俺に用か。分かった。だが俺もお前達と会うならリスクを冒すことになる。交換条件だ』

『分かったわ。ありがとう。何かしら』

『俺も人捜しをしている。協力しろ』


 ルフを見るけれど、答えは決まっている。


『勿論。寧ろ協力させて。私達は冒険者なのよ。あなたを手伝うことが本業だわ』

『…………驚いたな。ニンゲン界にはこんな奴が居るのか』

『えっ』


 そこで。

 街行くビーストマンから、拍手が起きた。


「!?」


 ひとり。ふたり。拍手は伝播していった。私達を。


 讃えるように。


「えっ。えっ。どういうこと?」

「エルル。ちょっと寄り添い過ぎですね。まあエルルにとってはいつも通りかもしれませんが」

「えっ。えっ」


 なんだか恥ずかしくなった。

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