第104話 異種族恋愛の遥かな障害
エルフは本来不老長寿だという。
そのエルフが死ぬ為に必要なストレスの量は個人差があるけれど、決まっており。
それを超えると死ぬ。
ストレスへの耐性はエルフよりニンゲンの方が強いけれど、ニンゲンは他の原因ですぐに死ぬ。
エルフとニンゲンのハーフである私の寿命は、果たしてどれくらいなのか。
「エルルさん。このまま森へ帰って、静かに暮らすことが一番エルルさんの長生きに繋がるよ」
「それは分かっているわ」
「…………あくまで冒険か」
「ええ。あとどれだけ冒険していられるか。それが知りたいのよ」
「……ふむ」
ルフは普通のエルフだから、それに当てはまる。ジンも普通のニンゲンだから、基準は判明している。
私は。
ジンより長生きできるのか。それとも誰よりも早く死ぬのか。
「分からないね」
「えっ……」
モークス先生は、肩を竦めた。
「何しろ前例が無い。亜人とニンゲンのハーフはすぐに死んでしまうことは知っているね」
「ええ。最長でも3ヶ月ほどで、と」
「その原因は、魔力侵蝕だ。体内で正常に作られた魔力が、基本的に身体に害を及ぼすという矛盾。エルルさんも例外じゃない」
「……なら私は」
「才能だね」
「!」
「魔力をコントロールする技術が高い。恐らく生まれつき、感覚で分かっていたんだろう。だから、死ななかった」
「…………!」
母だ。
私の母が、大魔法使い、エルフの賢者である、女王エルフィナ・エーデルワイスだから。退いてはエルフの王、大長老ルエフ・アーテルフェイスの直系だから。
それを受け継いだからだ。
「産まれて間もない赤ん坊が、自身の魔力をコントロールする。…………才能とか奇跡としか言えないな」
「………………じゃあ」
「うん?」
ここで。
私は自分のことより、気になったことができた。
そうだ。どうするのか。そもそも。
「……私は、子供を、産めないのかしら」
「…………」
私は奇跡の存在で、異例尽くしの存在。まだまだ分からないことだらけ。
もう16歳なのに、思春期が来ていない。月経は毎月来るのに、私は未だに『エロい』ということを理解できない。男性を見ても性的興奮というのをしない。分からない。
けど。
私はいずれ産むつもりだ。それは昔から、あのクレイドリを見てから考えていた。いずれ、オスと出会って。恋に落ちて。子を授かると。産むと。
メスとして。メスを全うしたいと。
「……意中の相手が?」
「………………」
「ああ、いや、すまない。プライベートなことだったね。ふむ。全く不可能とまでは言わない。けれど、エルルさんの例を前例とすなら。……言いにくいけど、言っておかなくちゃな」
私達は結婚するつもりだ。子も当然欲しいと思っている。特にルフが望んでいる。
「エルルさんと亜人男性との間なら、エルルさんが産まれてきたことと同じだけの奇跡が必要だ」
「!!」
私の人生に。私達の運命に。
「そして、エルルさんがニンゲン男性との間に子を授かりたいなら。エルルさんの時よりも遥かに大きな奇跡が必要だよ」
どれだけの障害があるのだろう。
「さらに言えば、産まれてからが問題だ。魔力侵蝕で死なない保障なんて無いんだ。そこを乗り越えられるかどうかは、誰にも分からないんだ」
ジン。
私はできるならあなたと恋仲になりたいし、あなたの子を産みたいのに。ルフにも。あなたの子を産んで欲しいのに。
今更あなた以外の男性は考えられないのに。




