第101話 自身を知る為の入院
時間、というのは、人工物だ。
1日という時間は人が考えたものだ。
1秒という時間は人が考えたものだ。
人類が誕生する前に時間はあったのか、無かったのか。
あった。
けれど、無かった。
既に存在している『何か』に、名前を与えること。言葉というのはコミュニケーションの円滑化が目的だ。それは人が社会に『ある』ことを意味する。
人は生まれ、そして死ぬ。必ずだ。しかしその長さには個人差がある。100年で死ぬ者、200年で死ぬ者。中には、1万年生きてもまだ死なない者だって居る。
私に残された時間は、どれくらいなのだろう。
◇◇◇
「エルルさんっ!」
現在私が入院している、レドアン大陸北西部ウラクト王国首都ウラク、王立多様種族総合病院。……通称、『亜人病院』。
個室のドアを開けた途端、その来訪者は私に向かって抱き着いてきた。
「…………ディレ!? あなた、エソンのギルド職員じゃ」
「あははっ! やったー。また会えた。エルルさん!」
ニンゲンの女性。人懐こい表情は相変わらずだ。黒髪はウェーブロングにしているらしい。4年振りだ。ここの看護服を着ている。
キャスタリア大陸南シプカ、エソンの街で。冒険者ギルド支部の受付をやっていた少女だ。当時私は魔力汚染と魔力侵蝕、そして初潮が重なって大変だった。その時にとてもお世話になった恩人のひとりだ。
「…………夢だった看護師になれたのね。おめでとう。久し振りね、ディレ」
「はいっ! 私、エルルさんに会ってから亜人の人に興味が出て。ここで働きたいなって思ったんです」
「そう。……なんだか嬉しいわ」
「エルルさん、綺麗になりましたね」
「ありがとう。私ももう16よ。ニンゲンからすれば結婚適齢期よね?」
あれから。
ジンと別れ、エデンを出港した私達は無事にレドアン大陸に着いた。ここは大地の殆どが砂漠地帯で、とても乾燥している。このウラクト王国は北の方にあるからまだマシだけれど、私達が次に目指すのはもっと南だから、しっかり準備をしなくてはいけないと考えていたところだ。
「エルルさん、入院なんですか? 大丈夫ですか?」
「ええ。ちょっと腰を据えて色々調べて貰っているの。今すぐにどうということでは無いのよ。異種間ハーフって、やっぱりここでも珍しいらしくて。特に短命種のニンゲンと長命種のエルフだからか、魔族を除けば最も子供ができにくい組み合わせらしいのね」
「あー……そうですね。フーエール先生もそう言ってました」
「フーエール先生、元気かしら」
「今もお元気で、シプカに居ると思いますよ。見た目はおじいちゃんですけど、エルフですからね」
「……そうね」
懐かしい。なんだか、とっても昔のことのように感じる。たった4年前のことなのに。
「エルルさんは本部の冒険者になったんですね」
「ええ。というか、エソンに居た時点で既に登録はされていたのよね。結局気付かずに本部に行っちゃったわ」
「まあ、ファルさんの所で例外的に依頼をしてただけなので気付きませんよね。……あっ。私が説明すべきだったのか。ごめんなさい」
「あはは。今更ね。どっちでも良かったし」
旅をしていると、このような不意の再会があったりするのだろう。それも楽しみのひとつだ。
やはり会う人皆と、仲良くなっていきたい。




