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へっぽこ忍者

作者: 葉沢敬一

毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。

Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)

それがしは里一番のへっぽこ忍者である。いや、正確に言えば里の中で一番「何もしない」忍者である。


「忍者は隠密行動が基本。だから動かないことが究極の忍術だ!」と自らの行動を正当化し、いつも隅っこで休んでいる。それがしの目標はできるだけ目立たずに、静かに日々を過ごすことであった。しかし、運命のいたずらはそう簡単にそれがしを見逃してはくれない。


ある日、里で大騒ぎが起こった。どうやら隣国の武士団が里を襲撃しに来たらしい。すべての忍者たちは即座に動員され、里の防衛に向かった。しかし、それがしは一人、こっそりと逃げ出し、いつもの隅っこに隠れようとしていた。


「な、何とか見つからずにやり過ごせれば…」と考えていたその瞬間、声が響いた。


「そこにいる忍者!助けてくれ!」


振り返ると、そこには泣きそうな顔をした若い農民が立っていた。彼の足元には壊れた籠があり、中には赤ちゃんが入っていた。「この子を助けてくれ!武士たちが追ってきているんだ!」


それがしは内心で叫んだ。「えぇー!?なんでこんなときに限って!」


だが、赤ちゃんの顔を見た瞬間、彼の心に何かが突き刺さった。それは恐怖ではなく、妙な決意だった。「もし自分がここで何もしなければ、この赤ちゃんと農民は…」


それがしは決断した。「いいだろう、それがしに任せよ!」


正直、何をすればいいかは全くわからなかった。忍者のくせに武器の使い方もろくに知らない。それでも、農民と赤ちゃんを守るために行動しなければならない。それがしは、周りにあるものを必死で見回した。そして一つの計画が頭に浮かんだ。


「竹の枝、干し草、これを使えば…」


彼は竹の枝と干し草を利用し、素早く人形を作り上げた。それを自分たちの代わりに道端に置くと、すばやく農民と赤ちゃんを背負い、裏道へと逃げ込んだ。


「はは、これでうまくいくわけがない…」と自嘲気味に思っていた。しかし、驚いたことに、追ってきた武士たちはその粗末な人形に引っかかり、「ここにいるぞ!」と叫んで集まっていった。


「え、本当に…?」それがしは内心で驚いたが、なんとか農民と赤ちゃんを安全な場所へと逃がすことができた。逃げ切った後、農民は感謝の涙を流しながら「あなたは里の英雄です!」と言った。


それがしは思わず顔を赤くし、「そ、そんなことはない、それがしはただのへっぽこ忍者でござるよ」と言い訳したが、その言葉に心が少しだけ暖かくなった。


そして、帰り道、空を見上げてそれがしは呟いた。「…忍者の真価は、何を成すかではなく、いかにして人を守るか、なのかもしれんのう」


こうして、彼はただのへっぽこからほんの少しだけ成長した忍者へと進化した。


「さて、また隅っこで休むとするか…」しかし、それがしの心には、これからも誰かを守るために立ち上がる決意が少しだけ宿っていた。


その決意は、まだ小さな火種。しかし、その火はきっといつか、里全体を守る強き炎となるのだ。


そう、へっぽこ忍者、それがしは――まだまだ終わっていないのだ。

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