了解
「オッケ〜〜」
首元に押し付けられていたナイフを投げ捨て、銀髪が軽く答える。緊張で詰まっていた呼吸が幾分か楽になった気がした。
「白寧、投げないでちょうだい。
……そうね、ちょうどいいわ。アナタ、このコの指導役をやって。」
「え?!めちゃくちゃ嫌や……」
「アナタがもっと早くドラッグを回収出来ていたらこんなことにはなってないのよ。」
「理不尽!!!!」
「アナタ、名前は?」
Ms.エレガートが騒ぐ銀髪に目を向けることなくこちらに問いかける。
「リノ、です。」
「そう、……リノ、頼むわよ。」
きっと諦めたのだろう。静かになった銀髪がぶっきらぼうに言う。
「蛇窪白寧や。白寧さんって呼び。
……ちなみに言うとくけど、お前が怪我したり、最悪死んでも責任は取らん。」
不機嫌ながらにそう吐き捨てる。
「……強くなりや。」
「殺す気、なかったでしょ?」
この男の洞察力が異常なのか、はたまたお互いへの理解が深いが故に気づかれたのか。Ms.エレガートは知る由もない。
「アラ、どうして?」
まぁたそうやって、と、ヘラヘラとした半笑いで蛇窪白寧は続ける。
「オレらポデロスは、パンピの首なんて片手でへし折れる。やのにあんな"ナマクラ"持たせて……脅し以外の何者でもない。」
「それに、貴方が基準人を殺す訳ない。」
苛立ちまじりにそう答える蛇窪の顔に、いつものようなヘラヘラとした笑顔は浮かんでいなかった。
彼らの関係は歪である。しかし、何処までも深い。
あの脅しは、「Ms.エレガートという人物が、罪のない人間を傷つけるわけが無い」と信用していた蛇窪白寧を混乱させるには充分であったのだろう。
Ms.エレガートはそれを解っているから、応えるのだ。反抗期の息子を適当に、正しくあしらう母のように。
「どうかしらね。」
「なんやねん、それ。」
糸を張ったように緊張が走っていた空間が、すこし弛んだ気がした。




