Ms.エレガート
能力を一時的に増幅させるドラッグが出回っているらしい。
しかし、その薬の代償は大きく、幾度と使用すると脳の思考力は奪われ、徐々に廃人へと化してしまうらしい。
一時的な効果を得るために身を滅ぼす。
1度使ってしまえば、その魅力に当てられて二度と普通には戻れない。
(阿片で滅んだ国もあったわね。)
そんなことを考えながら、ひとりの男に電話をかける。
「もしもし、白寧。お願いがあるの。」
エレガートは驚くのだった。彼女はドラッグを回収し、組成員から情報を聞き出せと要求したのであって、現場にいた男子高校生を連れてこいと言った訳では無い。しかも、肝心のドラッグと言ったら、もう既に男子高校生の体内に取り込まれてしまっているらしい。
「……ワタシがなんと言ったか、覚えていないの?白寧。」
目の前にいる銀髪の男、蛇窪白寧
彼のことは彼が小さい頃から何かと目にかけており、彼の能力も実力も充分買っているつもりだった。だからこそ驚いているのである。
「仕方ないですや〜ん。既にドラッグは使われてもうてたし、あのクスリ、公になったらまずいでしょ?このパンピごと回収するしか無かったんですよ〜。」
「……しかも、コイツ、適合して暴走しよった。基準人があのクスリ打っても、能力は増幅せずにハイになるだけ……
多分これ、増幅のドラッグやないですよ。」
彼の機敏な洞察力と思考力には何度も助けられてきた。それは今回の件にも適応されたらしい。
「お手柄よ。白寧。」
でしょ〜?と陽気に答える銀髪を他所に、エレガートは思考を巡らせる。
果たして、この基準人を生かしておくべきか否か。ドラッグを打ち込まれ、一度正気を失った以上、周りに何をしでかすかは分からない。他の基準人への被害は、絶対に防がなければならない。
「アナタはどう思う?このコ。」
「ウ〜ン、少なくとも、さっき俺に襲いかかってきた時、基準人に出るはずの無い力出してましたよ。
……充分、価値はあるんとちゃいます。」
一瞬、彼の細い目から覗く緑色の瞳が、宝石のように輝いた気がした。




