豹変
カンカン、と、階段を下る音が辺りに鳴り響く
。
「……え、それ俺が行くんですか?いやだってさぁ〜。そんな下っ端捕まえたとこで大元にはたどり着かないやないですかぁ。
なんで俺が……………チッ、切られた。あのロリババア〜……」
そんな戯言も、この空間では大きく反響する。
頭をガリガリと掻きながら、銀髪の男は倉庫に向かった。
「ハイ、どーん!!」
思い切り扉を蹴破る。バキバキという音とともに仄暗い倉庫にかすかに光が差し込む。
広がっている惨状。既に血にまみれ倒れてる組成員が複数人。男子高校生らしき人間が1人。
「なんやねんこれ。」
倒れている男子高校生がこちらに気づいたのか、ピクリと反応を示す。
「オイ。そこのガキ。どういう状況や。」
近づき、しゃがみこんで声を拾おうとする。
「アイツ、なんか、打たれて……っ、……たすけて、アイツ、っ」
「……アイツって誰なん?ったく、めんどいことになった事しかわからんわぁ。」
絞り出すような声を必死に拾い出したのもつかの間。
後ろからヒュッと、空気を切る音と共に足蹴が飛んでくる。
「っとぉ、っぶな。」
間一髪で避け、足蹴をした男から距離をとる。
正気を失っているようだ。四足歩行で、目は血走り、口からは涎がダラダラと溢れている。人とは思えない形相で。
(まるで獣やな。)
「あ〜、うーん、どうしたもんかなぁ。ガキやし。多分パンピやろ。……出来るだけ乱暴したくないねんけど。…しゃーないなぁ、大層な挨拶されてもうたし。」
「ちょ〜っと、我慢してな。」
・
・
・
目が覚めると、目の前にはド派手なカラーのフリルやぬいぐるみで飾り付けをされた、ずっと見ていると目眩がしそうな部屋が広がっていた。
そして、身体中に激痛。
「ッ、」
耐えきれず嘔吐する。
見ていた銀髪はそれを面白がっているらしい。
「お!起きたァ?平気?やっぱ痛む?(笑)」
「そらそうやろなぁ、あんなもんぶち込まれたら離脱症状とんでもないやろ。カワイソ〜〜」
半泣きで苦しんでいる俺を他所に、陽気にそう答える関西弁の男。銀色の長髪を三つ編みにしており、目は細く、そのまなじりには紅が差し込まれている。
「っ、ここ、どこ、すか」
「え?もう喋れるん?大したもんやなぁ。あんなもんぶち込まれとんのに……ここ、悪趣味な部屋やろ?あのロリおば、ほんまに趣味終わっとるねん。」
そういうことではない。この男はきっと、何を聞いても真面目に答えるつもりはなく、のらりくらりと躱すつもりなのだろう。
そう分かっていても、絶対に聞いておきたいことがあった。
「…あの、ショウは無事ですか?」
銀髪の男は細い目をさらに細くして答える。
「ん?ショウ…?あぁ、あの倒れとったガキか。無事やで〜。べらぼうに血出とったから搬送されたけど。全治2週間ってとこかな。軽い打撲しかしとらんかった。」
「安心せぇ、お前のオトモダチは無事や。」
胸をほっと撫で下ろす。
「……そすか、良かった……」
安堵したせいだろうか、目頭に熱が集中し、気づくと涙が流れ落ちていた。
「オイオイ、何泣いとんねーん!泣くなや、男やろ〜?」
銀髪の男は笑って、犬の頭を撫でるように俺の頭を撫でてくる。
「落ち着いたみたいやなぁ、ま、こんだけ喋れたら上出来や。ほな、行くで。
……立て。」
さっきまでの優しかったあの、銀髪の、陽気な男はどこへ行ったのだろうか。崖から、急に突き落とされたような感覚だった。




