基準人
日本。東京。汚ない町。可もなく不可もない日々。
「つっっっっまんね〜〜〜!!!!!!」
大の字になってベッドで呆ける。
この世界には3種類の人間がいる。
1つは、魔法が使えるフーリン。
2つ目は異常な物理的力を持ってるポデロス。
最後、俺が当てはまる3つ目。
……基準人。
「不公平すぎるよな〜。」
「仕方ないだろ。平凡な高校生である俺らに残されたのは、平凡な人生なんだよ。」
テレビゲームをしてる友人のショウが答える。しかし目線はこちらを向くことはなく、図々しく人の家のポッキーまで食べてる始末だ。
「夢がねぇなぁ。俺だってさ?フーリンに産まれて魔法使って水とか操ってみてーし、ポデロスに生まれて……
あー!もう!とにかく!!モテたかったワケ!!!!」
「モテたいだけじゃねぇか」
「ったり前だろ!!!!!!こちとら思春期なワケ!彼女のひとりやふたり欲しいワケ!」
「な〜んか、面白いこと起きねーかなぁ。ホラ、ジュマンジみたいな。どっかの世界入っちゃいました〜!みたいな。」
「お前モテないのそういうとこだぞ」
「るっっせぇなぁ!!!!!女持ちだからって余裕こきやがって!」
まぁ、実際のところ彼の皮肉めいた発言に相違は無く、論理的な反論はできない。
「そろそろ帰るわ。」
「おう。また学校でな」
「あぁ。じゃーな。」
きっとこの男は家に帰ったら素敵な彼女と電話をして甘い時間を過ごすのだろう。寝落ち通話でもして、さっさとスマホのバッテリーを早死してしまえばいい。
ショウの背中を見送ったあと、何気なく付けたニュースでは、ポデロスとフーリンの間で起きた傷害事件が取り扱われている。
(ま〜た抗争かよ。)
抗争が起きるのも無理はない。
ここで少し、義務教育中に習う歴史の話をする。
鬼の末裔であるポデロス、魔女の末裔であるフーリン。両者の先祖が。
ハッッチャメチャ、仲が悪かったのである。
生まれながらに持つ力で基準人を支配し、奴隷として扱いながら数々の有名な戦争を起こしてきたのだ。しかし150年前、遂に和解。
しかし、和解とは言えども、これは本質的に和解はしておらず、
(オレらパンピが反乱起こしたから和解せざるを得なかったんだよね〜。)
しかし数々の死傷者を出した争いがそう簡単に収まるはずもなく、上層部率いる1部のグループが今でも争い続けてるのだ。
(にしても、よく100年も争い続けれるな)
しかし、平凡な高校生である自分の知ったことでは無い。
ふと携帯を見ると、一通の着信が入る。
ショウからのものだった。
「おー、どうした?」
「たすけ、」
その声は先程交わした会話からは想像ができないほど弱々しく、明らかに異変を感じる。
ツーツーツーと、部屋に電子音が響く。
「……ショウ?」
パーカーを着て部屋を飛び出し、ショウの家へ向かう。
(クソ!!!!!こういう時どうすればいいんだ?とりあえずケーサツ!!!!!)
幸い、ショウとは家が近所だったので自分が現場に急行することが出来る。
「もしもし!あの、なんか、トモダチがヤベーらしくて!住所?!?わかんねーっす!!!!いや!!!イタズラじゃないですよ!!!!!!!」
走り続けていると、ついにショウの家の前までたどり着く。家の前に置いてあった金属バットを持ち、ドアに手をかける。
「鍵、開いて……」
玄関を除くと、姿見は割れ、傘立ては倒され、花瓶は割られ、悲惨な状態になっていた。
……強盗?
そんな嫌な思考が駆け巡り、全身から嫌な汗が吹き出す。落ち着け。落ち着け。と自分に言い聞かせるのに反比例し、心臓は大きく跳ね続ける。
震える手でスマホを取り出し、もう一度耳を当て、小声で言う。
「……あの、住所はわかんないんで逆探知してください。出来るだけ早く。お願いします。」
恐る恐る土足のまま、廊下を進み、リビングの扉をゆっくりと開ける。
「……ショウ?」
部屋に1歩足を踏み入れた瞬間、ガンッという音と共に、後頭部に鈍い痛みが走る。
こんな映画みたいなこと、ホントに起きるんだな。
徐々に気が遠くなり、遠くから聞こえるショウの声と、強盗犯の男。どちらのものか分からない怒鳴り声を背景に、ぷつり、と。糸が切れるように意識が途切れた。
遠くから聞こえる男の話し声。意識を失う前に聞こえていた怒号とは違い、今度は落ち着いた声量をしている為、きっと強盗犯のものだろう。
「おい!起きろ!」
髪の毛を掴まれたと同時に、瞼が引き上がる形で強制的に視界が開く。どうやら、ここはカケルの家ではなくどこかの倉庫のようだ。
「やめろ!ソイツは関係ないだろ!!」
椅子に縛り付けられているショウがそう叫ぶ。
「うるせぇクソガキ!!!!!お前の父親がな……」
まだはっきりとしない意識の中、そんか会話が耳に入る。
「おい。うるせぇよ。なんか噛ませて黙らせろ。」
どうやらリーダー格であろう男がチンピラのような風貌をした男にそう言い放ち、ショウに近づく。
そして、ショウの腹を思い切り蹴る。
「お前の親がな、うちのグループのリーダーにギャンブルでイカサマ働いたんだと。んで、お前の親は息子のお前1人置いてトンズラこきやがった。」
「分かるだろ?お前はこれから海外に飛ばされて男のガキを好む変態に売られる。端正な顔立ちしてて良かったな、親に感謝しろよ。」
続けてそう言うと、今度は俺の方に近づいてくる。
「このガキ、どうしますか?」
「丁度いい、アレ、打ってやれ。」
「良いんですか?こんなガキに……」
「粗悪品だったらただコイツが死ぬだけだ。上手く顕現したら……それはそれで都合がいい。」
「分かりました」
そう喋りながら、チンピラのような見た目をした男が注射器のようなものを持って近寄ってくる。
恐らくドラッグの1種だろう。
意味のわからない液体を打たれるなんて、笑い事では無い。しかし、面白いほどに体も動かない。首に注射器を押し当てられ、液体を注入される。
「っあぁ"!!!!」
声にならない絶叫が漏れ出て、ドクリ、と心臓の脈打つ音に聴覚を奪われる。血流が異常に早くなっているようで、体に熱がこもる。先程殴られた頭がじくじくと痛み、吐き気を催す。
今になっては遅いかもしれないが、こんなことになるなら平凡な人生のままで良かった。と、心から思う。