王女アリスは旅人と出会う1
ゆっくりと目を開けると、知らない天井が視界に現れる。
(ここは……?)
ゆっくりと体を起こすと、小さな一室にいることが分かる。そして私が今寝ていたのはベッド。決して高級品とは思えないベッドに布団、枕。それでも今の私にとってはどんな高級なベッドよりも心地が良かった。
状況が全く分からない。とりあえず自分がここにいる理由は後回しだ。それよりも前の記憶を脳内で探る。確かあの時、現れた一人の女旅人が私を襲おうとした男たちを倒した。戦いにおいて素人の私でさえ余裕で払いのけていた。
「いったいあの人は……」
そう独り言をつぶやくと、ガチャリと扉が開いてさっきの旅人が部屋に入ってくる。手にはパンが入ったバスケットを握り、鞘に納められた剣を肩に置きながら、柄に荷物袋をひっかけている状態。
「お、目が覚めたか」
そういう彼女は剣と荷物を置いてバスケットを机の上に置いた。
「具合はどうだ?」
穏やかな顔でそういう彼女の私はゆっくりと頷いた。
「そうか、ならよかった」
彼女はそう言って安心した顔を見せると、バスケットからパンを二つ取り出して、一つ私に渡すと椅子に座った。
「ありがとう」
そう小さくお礼を言うと、彼女は少し微笑んでパンをかじる。私も食べよう。そう思って口を開いた時に彼女のセリフが私を静止させた。
「お前、王女だろ」
「え……」
「なんでそんな驚いた顔すんだよ。貼り紙に似顔絵貼ってあっただろ」
「それは……」
気づかない方が無理な話だ。私はこの国の王女。私が城から出ないとはいえ多くの人間が私を認知している。貼り紙が貼ってあれば尚更だ。もしかしたら私を助けたと見せかけて、現在進行形で誘拐しているという可能性も……。
「別に取って食ったりしねーよ。心配すんな」
私の不安を察したのかそうおどけて彼女は言った。そして彼女は私に身体を向けて自己紹介を始める。
「私はミズキ。ただの旅人さ」
「アリスです。助けていただきありがとうございました」
「気にすんな」
そういってミズキはパンを平らげる。それを見て私もパンを一口かじる。久しぶりの食事。城で食べてきたパンよりも固く、甘みも少ない。なのに、これほど気持ちがこみあげてくることはあるだろうか。ゆっくりと、しっかりとパンを噛みしめそれを飲み込むと、視界が涙でにじみ始める。
「美味しい……」
その涙は止まることなく目からあふれ始める。この一週間全く感じたことなかった安心。この安心がどれだけ大切で、どれだけ必要なことなのか今心からミズキに思い知らされた。
「そっか」
彼女は私を見てほほ笑んだ。とにかく安心した顔をしていた。