フードを被った彼女を見つけて4
フードの人影を追いかけてみてはまさかの展開。四人の男に囲まれているではないか。ただの気分で追いかけたというのにこんなことに出くわすとは。
「なんだお前?」
「コイツの仲間か?」
明らかに弱そうな二人がそういう。恐らく残り二人の下っ端だろう。そしてその残りの二人、大男は他の二人よりも断然強い感じがあるが、気になるのは一番後ろにいる男。得体の知れない何かを感じる。他三人とは決定的に何かが違う感じだ。
「いや、全然赤の他人だけど」
「じゃあ今すぐ帰るんだな。お前も同じ目に遭いたくなかったら」
「この状況を見て引き返せるわけないでしょ」
私はそう言って荷物袋を地面に落とした。そして左手に持った剣から抜刀の構えを取る。
「おいこいつ、剣持ってるぞ!」
「コイツもしかして剣士か?」
奴らが少し身構えたのを見てニヤリと笑う。まあ剣士かと言われれば間違ってはいないのだが。だが相手が同様しているのにそのまま何もしないのも勿体ない。私は剣を抜刀……するふりをして剣を薙ぎ払った。
「は……?」
目の前で起こった茶番に誰もが疑問に思っただろう。剣を抜くと思った矢先、抜かずにただ鞘に入った剣を振っただけ。まあそうなるのも無理はない。この鞘には留め具が付いており、これを外さなければ剣を抜くことはできないのだ。諸事情により剣は抜かないのだが、私は煽るつもりで奴らに言い放った。
「お前ら如き、剣を抜かなくても十分さ」
次の瞬間、得体のしれない感じを出していた男以外の顔が歪んだ。ブチギレだ。
「ふざけんなよお前!」
「調子乗ってんじゃねぇ!」
下っ端二人が勢い任せで走ってくる。まっすぐに一直線。一人目が大きく振りかぶるのを見て私は不敵に笑った。大ぶりの一撃を紙一重で避け、剣を腹に叩き込む。もちろん鞘に納められた状態で攻撃しているので斬れることはない。だとしても重い物理攻撃。あまりの痛みに後ずさりする相手に対して今度は顔面に薙ぎ払いをくれてやる。
「ぐあっ!」
一人吹っ飛ばした後にもう一人がやってくる。こいつは足元に落ちていた丁度いい角材を拾って私に殴りつけてきた。その連打をことごとく避けながら、大振りになった一撃に合わせて剣を振るう。角材とはいえ強度はもちろんこちらが上。角材が砕け散ると同時に私は顎へ向かって剣を振り上げた。
「うぐっ!」
直撃。そして浮き上がった身体を見て腹に蹴りを入れる。それを受けて蹴り飛ばされた二人目は一人目が起き上がろうとしているところに飛んでいく。そいつにぶつかって二人まとめて倒れた。
一瞬のうちに二人制圧。われながら見事な手際だ。
「使えんなこいつらは」
大男がそう言いながらノシノシと近づいてくる。下っ端二人に呆れてはいるが、私を倒そうとすることに変わりはないらしい。
そしてさっきの下っ端と同じように大振り。私はそれに合わせて突きを繰り出す。拳と剣先が直撃。それを受けて私は力負けし、大きくのけぞった。
(拳砕くつもりだったんだけどな……)
あまりの力に驚く。しかしその状況を見て大男は距離を詰めてくる。そして振り上げたこぶしを思い切り振り下ろす。それをジャンプで避ける。振り下ろされた拳が地面に直撃し、地面が砕けて破片が飛ぶ。
(力任せ過ぎるだろ……)
想像以上の破壊力。見たところ力任せの一撃。一体どうなってるんだこのバカ力は。
そう呆れている間にも大男の攻撃は止まらない。飛び上がった私に対して左フック。空中にいる私を確実に仕留めるための一撃。素手の防御も剣でのガードも体勢的に間に合わない。
ならば迎え撃つまで。握った柄の先。私に拳が当たる直前にそれを叩きつけた。
ミシッ……。
何かが軋む音。それを聞いて大男はうめき声を上げながらよろける。そして度肝を抜かれたような顔。それもそうだろう。さっきは力の押し合いに難なく勝てたのに、今度はその力に完全に負けたのだ。今の音は恐らく骨の音だろう。思い切りのいい拳に柄でカウンターを合わせたのだ。拳が砕けた可能性が高い。
力勝負に勝った理由は単純。魔力による身体強化だ。身体強化のレベルや魔力使用量に関しては個人の練度によるものがある。私は先生にそれを叩き込まれているため、身体強化での戦い方の方が得意なのだ。普通に素の力が上だとしても、身体強化で勝負をすれば状況は一変する。
「甘く見たな」
ニヤリと笑って顔面に一撃。他の二人よりタフそうな分強めに一撃を入れると、白目を向いて地面に倒れた。
軽く三人倒した。フードを被った彼女が驚いているのが分かる。さて、残るは一人。しかしその男は高みの見物をするかの如く、ニヤニヤとしながらこちらを見ている。なんだか感じが悪い。
「アンタしか残ってないけど。どうする?やるか?」
「いや、遠慮しておくよ」
そう言うと両手を上げて首を横に振る。明らかに参戦するつもりはない。ここで一旦挑発をかけてみる。
「なんだ、他のやつと比べて臆病なのか?」
「まあそんなところさ。争いなんて興味ないからね」
挑発を軽く流される。本当に戦うつもりはないらしい。そのまま背を向け場を離れようとする。
「仲間はいいのかよ?」
平然と仲間を置き去りにしようとするその男にそう投げかける。こいつらが一体どういう連中なのかは知らないが、どんなクズとはいえ仲間を放置していく姿に引っかかった。
「女に負けるゴミなんぞ用済みさ。足を引っ張るだけ。それにこれはこいつらが始めた喧嘩だからな。責任は自分で取らせるさ」
そう言って奴は路地裏から消えていった。隙だらけの背中を狙おうとも一瞬思ったが、嫌な感じは今も漂っている。今手を出すのは悪手だろう。
「ふー」
緊張を解いて持っていた剣を鞘へ納めるように左手に流し込む。腰に鞘を携えているわけでもないから何の意味もないのだが、いわゆる格好付けだ。
その時、フードを被った人がふらりとよろけた。それを見て私は即座に距離を詰め、右手で抱き寄せる。反応がない。気を失っている。その時、フードがよろけた拍子に脱げた。
「……っ!」
そこからふわりとなびく黄金色の髪。整った顔立ち。透き通った白い肌。先ほど掲示板で見た似顔絵とそっくり。間違いない。彼女は現在行方不明中の王国の王女、アリスだった。