フードを被った彼女を見つけて3
疲れた……。
どれだけ歩いたか、どれだけ時間が経ったかなんて全く分からない。
周囲の人の視線が怖い。私の正体に気付いてしまったら、必ず連れ戻されてしまう。
誰にも見つかってはいけないプレッシャー。初めての一人旅への不安。
ただ疲れた。
王都から離れた『ミナスギ』なら、騎士の捜索範囲の外だろう。それは分かっているが、掲示板に張り出された自分の似顔絵を見ては焦ってしまう。気が着けば人から逃げるように私は路地裏に入っていた。
暖かい風呂に入りたい。ふわふわのベッドで寝たい。おなか一杯美味しいご飯が食べたい。
当たり前だった日常が私の一つの決意でここまで一変するとは思わなかった。
だけどこれは私自身の意志だ。折れるわけにはいかない。弱音は全てあの部屋に置いてきたはずだ。
フラフラとした足取りで路地を歩く。持っていたお金は残り少ない。宿を取る事なんて出来もしないだろう。一週間切り詰めたとしても食費が持つかも分からない。
路頭に迷う。
ドンッ!
フラフラと下を向いて歩いていたら誰かにぶつかってしまった。そのままよろけて壁に手をつく。
「すみません……」
素性を晒せない以上、顔を合わせて謝ることもできない。そそくさとその場を立ち去ろうとする。
「ちょっと待てや姉ちゃん」
その一言で足が止まる。心臓がドクンと跳ね上がる。性別が女性であると気づかれたことも、そのどすの利いた声を受けたことも、何もかもが恐怖でしかない。
「ぶつかっておいてその態度はなんや。舐めとんのか?」
振り返って顔を見られないようにフードの下から相手を見る。どうやら相手は二人。大男と普通の体格の男が二人のようだ。私は恐らく大きい方にぶつかったのだろう。
「こいつどうしますか?兄貴?」
「どうするもこうするもねぇだろ。ボコる」
この短い会話だけで分かる。話が通じるタイプじゃない。全身から冷たい汗が流れる。何をされるか分かったものではない。今なら走って逃げられるかもしれない。大通りに出れば襲うのを諦めるかも。
体力はもう底をついている。だけど走らなければ。意を決して私はこの二人から背を向けた。
「何やってんだお前ら」
更なる絶望……。
逃げようとした道の先に新たに二人の男が現れた。
「メルトさん」
大男がそう言った。並んでいる二人のうちのどちらがそう言われているのかはっきりわかった。兄貴と呼ばれた大男がさん付けをするほどの男。正面に現れたうちの片方にとても圧を感じた。身長は大男よりも少し小さい細身の男。しかし、そこから漂うプレッシャーは大男以上だった。
「変な騒ぎを起こそうとしたんじゃねぇだろうな」
「誤解ですよ。さっきコイツがぶつかってきたからボコろうとしただけです」
「それを騒ぎって言うんだよ」
もしかしたらこのメルトという男、話が通じるかもしれない。あわよくば逃がしてはくれないものだろうか。そんな淡い期待は次の一言で消え失せた。
「とりあえずひん剝いてから考えるか。声を上げさせんなよ」
「うっす!」
それを聞いてメルト以外の三人の男がゆっくりと近づいてくる。ダメだ、逃げられない。恐怖で足がすくむ。声が出ない。
今更ながらに後悔した。こんなことになるくらいなら、城なんかでなければよかった。
すべてを諦めた。その時、その場に新しく現れた一人の声に全員が反応した。黒い髪を後ろで結び、鞘におさまった剣と荷物袋を方が彼女は、戯けたような態度で、しかし鋭い視線で男たちを刺す。
「一人に寄ってたかって何やってんだ?」