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ミーナ・ファロン物語  作者: オサ
21歳から22歳への話
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91の後 熱狂

91の後 熱狂


 早期決着、私の目標はこの戦いを1日でも早く終わらせる事です。そうすれば、お姉様とリヒャルトの婚約を破棄する可能性がわずかながら上昇するからです。ドミニオン国の安定を図るために、大貴族との政略結婚が必要だと訴えて、リヒャルトを他の令嬢と結婚させるのが私の人生の目標です。

 しかし、この目標を邪魔するのが、ベッカー伯爵です。名将と名高いけれども、常に後方にいて、戦場では先頭に立つ事のない卑劣漢さえいなくなれば、ドミニオン国の南部を実質的な支配下に収めることができて、軍事的にはかなり安定するのです。この邪魔者さえ屠る事ができれば、と強く願っているうちに機会と言うのは訪れます。

 ミーナお姉様もベッカー伯爵の重要性を理解していて、決戦の場に私を連れて行く決断をしてくださいました。オズボーン公爵家のテリーお兄様とケネット侯爵家のカールお兄様が、イシュア軍の2枚看板ですが、この2枚より強いカードをお姉様は持っています。それは、お姉様自身と私です。

 お姉様はドミニオン国に私を連れてきても、できるだけ戦闘に関わらせないようにしていましたが、ここ一番の戦いには私を投入する事を決断されました。

 お姉様は冷徹な戦略家との評価を得ていますが、根本は国民を愛する名宰相です。イシュア国の民をできるだけ活かす事を重視しているため、犠牲が多く発生する可能性のある戦いにおいては、お姉様自身を含めて、最強のカードで勝負する傾向があります。ベッカー伯爵を絶対に仕留めなければ戦いにおいて、私と言うカードを切る決断をしたお姉様の前で、大活躍して褒めてもらえる、お姉様の妹として相応しい武勲を手に入れる事ができるのです。

 私は心躍る気持ちをぐっと隠しながら、戦場へと向かいます。


 結論から言うと、ベッカー伯爵軍に打撃を与えた私は大きな武勲を手にして、お姉様に褒めてもらえると言う栄誉を得ることができましたが、伯爵を倒す事には失敗します。

 3つに分けた部隊の後方にある3つの大旗を駆使して、全軍を巧みに動かすベッカー軍の司令官の位置は把握しづらいのです。大旗のある3か所が最有力候補です。私はその一か所に単身突撃を仕掛けようと考えましたが、外れを引いた場合、敵中で孤立する可能性が高く、お姉様に救助してもらう事になります。武勲を得る事ができないだけでなく、ご迷惑をかける事態に陥ります。3つの中の正しい選択をしないと、ただの失敗では終わらないのです。

 素早い動きで敵の攻撃を躱し続ける事はできますが、密集して防御を固める陣形に切り込んで、最後方まで突っ切るのは、私でも疲労で動けなくなります。それでも1回だけは実行できるとの目算はあり、3つのうちのどこを狙うべきかを考えながら、敵陣をじっと観察しますが、ここだという確証を得ることができません。

 突撃を開始して、違うと思えば、突撃を停止して、別の所を狙おうとも考えますが、単身突撃で半ばまで陣を切り裂くことができると、ベッカー伯爵軍に把握されると、全面撤退を招く可能性があります。中途半端な事はできないと、3分の1の確率に賭けると決断しかけた時、3本の大旗のいずれの場所にもベッカー伯爵がいないのではないかと考え直します。

 大旗に指示を出している3人のうち2人は、伯爵本人ではありません。その2人が、伯爵と差が出ないほどに、見事な用兵を披露している事は、伯爵が部下である指揮者の教育をしっかり行っている事を意味します。

 そして、その教育を受けているのが2人だとは限りません。3人ともベッカー伯爵本人ではない可能性に思いが至ると、見極めができるまで、敵の防衛陣を破壊してからの一本釣りは実質的に不可能であると判断します。

 その後、ベッカー伯爵軍が攻勢に転じた時の反撃で、ベッカー伯爵を炙り出して、仕留めようと考えていましたが、釣り上げる事ができませんでした。

 誰にも負けない武によって、目的を果たす事ができなかった私は、貴族令嬢としての笑顔を保ち続けますが、過去最大級に落ち込みます。


「エリカティーナ様、ミーナ様をお誘いして、町を視察するのはどうでしょうか?すぐに戦況が変わる様子は見られません。」

悶々と日々を楽しむことができない私を気遣って、ナタリーが身支度を整えている私に話しかけてくれます。侍女のナタリーに不機嫌な表情を見せた所で、何も変わらない事を知っている私は、今以上に笑顔を振り向かなければならないと考えます。

「戦況はいつ変わるか分からないわ。ナタリーには、私が寂しくしているように見えているの?」

「お嬢様、寂しくしていると言うより、苛立っているのではありませんか?そのように私には見えます。」

「全然、苛立ってなんか・・・。別にナタリーに隠しても仕方がないわね。」

「はい。仕方がありません。」

「ナタリー、ベッカー伯爵の領都セゼックに潜入して、暗殺したいのだけど、できないかしら?」

「イレとジラに探らせた時、警備が厳しすぎて無理だと判明したではありませんか。」

「イレ達に任せるのではなく、私が暗殺に行くの。それなら警備が厳重でも。」

「・・・お嬢様がどうやって、潜みながら、伯爵に接近できるというのです。顔をお店になれば、お嬢様だと誰だって気付きますし、お嬢様を知らない人間でも注目します。もし、顔を隠して行動すると言うのであれば、それこそ怪しく見えますので、近づく前に警戒されてしまいます。ミーナ様だって、同様の事をお考えになった事があるはずですが、それを実行していないのは、不可能だと判断しているからです。お嬢様は時々、自分だけが悪巧みの熟練者であるかのように発言なさいますが、戦場で様々な駆け引きをしているミーナ様やベッカー伯爵の方が優れた熟練者です。その事をよく理解していただきたいと思います。」

「そんなに言わなくても。それに、私は悪巧みをしているのではなくて、相手の隙を見出して、そこを全力で攻撃しようと考えているだけなの。」

「・・・・・・分かりました。では、様々な策を実行する時には、必ずミーナ様にご相談ください。」

「当然よ。」

 至上の武勲を取り逃した私は、しばらく間、イライラしながら笑顔を振りまく生活を続けなければならないと考えていましたが、ヴェグラ神のお導きがあるかもしれないと思わせる出来事が起こります。


「お嬢様、ドミニオン国教会から、ケールセット教会のエリカティーナ様宛てのお手紙が届きました。こちらです。」

「教会の私宛?」

「はい。」

「とりあえず、読んでみないとね。」

 ドミニオン国教会の木組代表ウルリヒからの書簡で、そこにはケールセットの教会で、資格のない者が教会儀式を行った事に対する叱責と、査問会を開くために出頭せよと書いてあります。半年ほど前に私が司祭として、兵士達の結婚式を主催した事に対する抗議を読みながら、ウルリヒの思惑を考えます。私を呼び出す目的は何なのか、呼び出すのではなく、抗議文を送る事に意味があるのか、敵の動きを色々と想定しながら、こちらの機会を探ります。

「お嬢様、朗報ですか?」

 専属侍女のナタリーが私の顔色を伺いながら問いかけてきます。

「朗報です。ウルリヒとやらが、私に出頭しろとの命令を出してきました。」

「お嬢様に出頭命令とは。どのような意図が?」

「前に、私が教会の名前を借りて、兵士達の結婚式を主催した事があったでしょう。その瞬間から、私の所属は教会勢力の下部組織である地方教会の一神官になったみたいなの。だから、中央教会の大幹部として、私を呼びつける資格があると考えているんじゃないのかな。」

「なるほど、無意味な事をしてきますね。ですが、お嬢様が笑顔なのはどうしてなのでしょうか?」

「ウルリヒ大神官様がいらっしゃるのは、ベッカー伯爵領領都セゼックよ。」

「!呼び出しを受けるつもりですか?」

「もちろんよ。敵が、首脳部のいる場所に招待してくれるのよ。」

敵兵を突破することなく、敵の主将の前に立つことができれば、首を取るのは簡単です。しかも、万全の態勢で逃走に移行できるので、生還もほぼ確定的です。お姉様に望まれたから、普通の令嬢の振りをしながら生きてきました。面倒だけど、お姉様が喜ぶからと続けてきましたが、こんな機会を作ってくれるとは思ってもいなかった私は、お姉様の天才的な裁量に感謝します。そして、お姉様が作り出してくれた機会に、最大の武勲を得る事ができる喜びに身を震わせます。

 貧弱なお嬢様である私が護衛もなく、敵の領都に出向けば、捕らわれの身になる可能性は高く、ベッカー伯爵の前に引き出される事は間違いありません。当然、そこには木組のウルリヒもいるはずです。

大将首を2つ同時に手にできると考えると、どのようにお姉様に褒められるだろうかと想像せずにはいられません。当然、笑みが零れてしまいます。

「危険です。お考え直し下さい。」

「危険はないわ。行って帰ってくるだけだもの。」

「1人で行く事はできません。」

「一緒に来るつもりなの?」

「はい。」

「私、逃げる時、自分の命以外を守るつもりはないから、私に付いてきて、敵陣に入ったら確実に死ぬわよ。」

「承知しております。お嬢様が向かうのであれば、ご一緒します。」

「逃げる時は助けたりしないのよ。それでも付いてくるの?」

暗闇の暴走にのみ出現する中型魔獣と大型魔獣は、特別な人間以外にはまともに戦う事はできません。今のところ、オズボーン公爵家の血筋を継承する優れた一族武官だけが、25年に1度の大暴走を防ぐ事ができます。この一族武官の中でも、最上の地位にいる私の命は、他の人間の命よりも圧倒的に重要です。私達一族において、自分達の命を他の命を守るために費やす事は、国と国民に対する裏切りであり、大罪です。

この事が良く分かっている私は、ナタリーを見捨てる事に躊躇いはありません。そして、その事をナタリーも良く理解していて、その上で私の専属侍女になっています。

だからと言って、ナタリーが死んでも良いと考えている訳ではありません。

「私のために命をかけるつもりなのかもしれないけど、一緒に行って、逃げきれずに殺されたら、無駄死になるのよ。」

「理解しています。」

「意味がないのに。」

「私が同行する意味はあります。侍女も連れずに単身で敵地に出向いたら、怪しまれてしまうではありませんか。この暗殺は、怪しまれずに、敵の主将の側に近づく事ができるかが、成功の鍵です。」

「・・・そうね。伯爵の前に引き立てられないまま、牢に閉じ込められて、処刑になる可能性もあるわね。供を付けずに向かう事はできないわね。私は私の命優先だけど、それでも一緒に来る?」

「ご一緒させてください。」

 私は8人の護衛少年を連れていけば、大混乱に陥る敵陣からナタリーを生還させる事ができると考えます。8人もナタリーのためなら命がけの働きも辞さないのだから、勝算の無い作戦ではないと判断します。

 いずれにしても、敵首脳を確実に屠る事ができる機会を逃す選択はありません。


 ベッカー伯爵領領都セゼックへの旅はとても楽しいものになりました。お姉様の反対を押し切ってもウルリヒの召喚に応じようと考えていた私に対して、お姉様は許可を下さいました。つまり、ベッカー伯爵の首級を得る功を私に与えてくださったのです。

 城門で捕獲されて、罪人として捕らえられて、領主の前に引きずり出されて、何かが行われるのでしょう。拘束具を取り付けられるのか、拷問を受けるのか、凌辱される可能性もあります。何があったとしても、敵将の目の前に連れて行ってもらう事ができれば、その瞬間に任務は達成できます。後は逃げるだけです。ナタリーについては御者として同行する2人と、すでにセゼックに潜入させてある6人に救出を命じてあるので、気にする必要はありません。

 都市セゼックの城門で、ナタリーが門番に召喚状を差し出してから、40分近く待たされまた私は、非常にがっかりします。召喚状を送りつけてきたウルリヒが、賓客として私を迎え入れると言い出したのです。護衛兼案内役の騎馬兵4人と共に、城門から中央にある領主館へと向かいます。

 領主館そのものも城であり、防衛施設としての機能があります。周囲が城壁で囲まれている領主館の入り口で、油断した私を捕縛するのかもしれないという期待は裏切られて、私は館内の豪華な客間に通されて、しばらくここで生活するようにと要請されます。

お忙しいウルリヒ様との面談は明後日の昼前で、それまでは旅の疲れをゆっくり取るようにと言われます。


「私が、ヴェグラ教会所属、木組の代表神官ウルリヒです。召喚状に応じて、セゼックに来訪された事、感謝します。」

「エリカティーナ・ファロンです。」

 長身細身の美男子は、20歳前後とは思えないほどの存在感を周囲にばら蒔いています。

向かい合っている私の実力を読み切れない緑の神官は、教会勢力の暗殺部隊を率いていて、洗脳などの暗闇の部分を担当しているとの情報がありますが、強者としての凄みも、闇の人間が備える暗さを持っていません。

 薄緑色を基調とした神官服の装いです。木精霊ジフォスの忠実な僕である事を示していますが、信徒達が持っている純粋さを持っているようには感じられません。美形の若い宗教家は、その魅力で多くの人々を魅了するとの評判ですが、魅力がある人物には私には見えません。

「召喚に応じてくれたこと、感謝します。上の方から詰問するようにとの指示あったため、あのような文面になりましたが、査問会を開くような事はありません。召喚状に応じて、領都セゼックに来訪した事で、邪教徒として疑うような事はなくなりました。」

 邪教徒として裁かれる線が切られます。

「ウルリヒ様のご配慮、感謝いたします。私はヴェグラ教徒として、ヴェグラ様に忠実な僕である事を誇りに思っていますが、ドミニオン国内では、洗礼の儀式を行っていません。ウルリヒ様には、さらなるご配慮を頂きたく思いますが、僕たる私に神の恩寵を頂けるのでしょうか?」

「洗礼の儀は、毎年新年の儀の一環として行っている。これに参加してはどうだろうか?」

「ご配慮感謝いたします。ぜひ、参加させていただきたく思います。ご迷惑でなければ、セゼックの地に新年まで滞在させていただきたく思います。ケールセットに戻ってから、再びセゼックを訪れると、新年の儀式に遅れるかもしれません。」

「確かに・・・。分かりました。新年の儀式まで、この館に滞在できるようにします。」

「ありがとうございます。」

 私はこの時、とても嫌な感覚に襲われます。ベッカー伯爵がこの屋敷に不在であると考えたからです。ウルリヒが館の主であるかのように話を進めている事を怪しく感じます。とにかく、ベッカー伯爵との面談の話が出ない以上、伯爵から私に接近する事はないと考えて、行動しなければならないと判断します。


 敵地に入り込んだ私とナタリーは、8人の子供達と共に情報収集を進めます。賓客としての待遇を受けている私は、神官ウルリヒから教義を学ぶと言う名目で、会う機会を増やします。まったく楽しくない個人授業を楽しんでいるように思わせるのは簡単ですが、メインターゲットである伯爵の情報を引き出す事はできません。直接的に聞けば、怪しまれるとのナタリーの助言から、屋敷の主の名を出せない私は、笑顔のままイライラし続けます。

 ナタリーは侍女として私の生活を支えつつ、館内の使用人との交流を深めます。専属侍女でありながら、偉ぶらない姿勢で、多くの交流を好意的なものとして成立させているナタリーの屋敷内の情報収集能力は高く、屋敷内の使用人たちの動きを把握します。主として、侍女の優れた点を褒めなければなりませんが、同時に、この屋敷内にベッカー伯爵がいない可能性が高いという報告を否定できなくなります。

 伯爵の執務室は機能しえいますが、本人がそこにいないとナタリーは判断しています。執務室に出入りする人間がいて、そこで行政を動かしているのは間違いありませんが、伯爵かどうかを直接確認する術はありません。ただ、用意されている食事の内容が、伯爵と言う地位にいる人間としては、格下の物であるため、ナタリーは不在であると判断します。

 執務室までの警備体制は万全を期しているため、表面的には伯爵が執務室にいるように見えます。伯爵は粗食が好きなのかもしれないと無理やり自分を奮い立たせて、執務室への突撃を敢行しようかとも思いますが、外で活動していた子供達からの情報が入ってくると、その決断を先延ばしする事にします。

 領都郊外にある訓練場で、伯爵直属部隊の訓練が始まり、そこで伯爵が指揮している可能性があるとの報告が入ってきます。第一報を受けて、私は訓練場にいる直属部隊への単独夜襲を決意しますが、その日の夕方には、地方から続々と集まってきた伯爵軍の部隊が、3つの陣営を作ります。そして、いずれにも伯爵の旗が掲げられている事を確認します。

「ああ、私を警戒しているんだわ。」

「エリカティーナ様の強さを知っているのでしょうか?」

「私と言うよりもオズボーン公爵家の人間の強さを理解して、常に警戒しているのよ。普通に考えれば、敵の司令官の妹が単身で乗り込んで来たのだから、何もできない小娘だとは思ってくれないわ。私には何かがあると考えているのよ。」

「いかがいたします。」

「機会があるまで待つしかないわ。訓練しているのであれば、いずれ、どこかへ出陣する事になるわ。その時には、一度くらい、館に戻ってくるかもしれない。」

「そこまで警戒しているのであれば、戻って来ないのではありませんか?」

 ナタリーの当然の指摘に、私はベッカー伯爵の暗殺を諦めます。

「そうね、戻って来ない可能性が非常に高いわ。ここまで来て、何の成果もない訳にはいかないから、戻って来ない事を前提に動く事にするわ。」

 頷いたナタリーに私は、情報網の構築を命令します。敵地であるため、情報網と言っても信頼できる味方からの情報を集める事はできません。資金をばら撒く事によって、商人達から様々な情報を手に入れつつ、確度の高い情報を扱っている商人を見極めます。また、金に靡きやすい商人達には、様々な噂をばら撒いてもらいます。

 決定的な噂をばら撒く前に、小さな噂をばら撒きながら、その影響力がどこまであるのかを私とナタリーは見定めます。暗殺ができないのであれば、ミーナお姉様に大勝利を提供しなければ、その功を褒めてもらう事も、誇る事も出来ないのだから、私は慎重かつ大胆に情報を流し始めます。

 セゼックの領主館に私を捕らえていると考えているウルリヒは、私に対して完全に油断しています。また、彼自身が積み重ねてきた聖人としての地位名声も確立していると思い込んでいるため、噂を流される事で、自分が追い込まれる事を想定する事ができません。

 しかし、聖人としての名声は北部地域でのみ成立する事を理解していない彼は、私とナタリーがばら撒く噂と言う凶器の凶悪さを理解していません。

 頻繁に彼の元に通って授業を受けていた私の行動が、身を捧げさせるために呼び出したと噂されるとは思っていない時点で、この領都セゼックの戦いは半分以上終わっています。ウルリヒがその事に気付いた時、私が輝く瞬間になるのだと考えながら、私は日々の準備を怠りません。


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