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ミーナ・ファロン物語  作者: オサ
21歳は少し遅れている話
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78の後 反省の後

78の後 反省の後


イシュア歴392年、私が過去に戻ってやり直せるというのであれば、14歳になるこの年に戻りたい。強く願っても戻れる訳もなく、この年の思い出を、反省材料にする事でしか、私自身を慰める方法がありません。

美の女神三代目と言われているから、傲慢になった訳ではありません。人間の外面がどんなに美しいからと言っても、年齢を重ねれば衰えていくため、いつまでも外面を誇る事はできません。そんな当たり前のことを自覚している私は、大人へと変貌しつつある14歳の時に、様々な称賛を受けました。伯爵令嬢としての会話時には、その称賛を誇りに思うなどと言葉にした上、謙虚な態度で見せながら、それらを受け止めて喜んでいるように見せかけましたが、本当にどうでもよい称賛であり、1つ1つの誉め言葉を聞くのは、面倒この上ない事でした。

2代目の美の女神と称賛を受けていたママも40歳前後になり、肌の潤いと張りは全盛期に比べて減少しています。妖艶と言えば、そうなのかもしれませんが、一般的な基準で言う美しさはやはり衰えています。世界一と称される美貌も永遠のものではありません。

しかし、私の基準で言えば、ママの美しさは何も変わっていません。体力の低下に贖いながら、私達のために強くあろうとする姿は素敵で、もちろん、お姉様と同じく、私の理想の女性像としてママは輝いています。

私が反省すべきは、自身の力に傲慢になってはいけないという事ではなく、きちんと自分の事を自分で考えなければならない事です。

15歳になるまで、私はミーナお姉様の後を歩き続けてきました。学問上の知識を蓄えて、様々な仕事をこなす事ができるようになっていますが、自分で考えて、自分の歩むべき進路を選択する事はほとんどしませんでした。お姉様が私の進むべき道を示してくれたからです。

生まれてからずっと、私はお姉様の歩む道をそのまま歩くか、手を繋いでもらってその隣を歩くかのどちらかしかした事がありませんでした。その事が悪い事だとは思っていません。多くの人間が、偉大な先人たちの航跡を参考に、人生と言う海原を進むのだから、私がお姉様の背中を見つめて歩むことは正しかったのです。

しかし、いつの間にか、自分で考える事をしなくなった私は、大人として自立する努力を怠りました。

その結果、一番大切なミーナお姉様を、異国の敗残者である何の価値もないドミニオン国の王弟殿下に盗まれてしまったのです。私は愚かにも、その盗賊が強くなるように訓練を与えて、試練を乗り越えさせることで強靭な肉体と精神力を授けてしまったのです。

世界一厳しいと言われるオズボーン公爵一族の訓練を与える事で、リヒャルトが逃げ出すように追い込もうとしていた私の浅はかな企みは、大失敗の結果になります。14歳にして、近衛騎士団の団長クラスの実力に近づかせた上、14歳と言う年齢を考えると、今後もさらに成長する事は間違いありません。

リヒャルトは、公爵一族の私達には及びませんが、それ以外の人間に対しては強さにおいて、上位にいる事ができるようになります。一族以外で最強格の実力、一族と同じ厳しい訓練を乗り越えた事実、これらが意味するのは、リヒャルトがミーナお姉様の結婚相手に相応しいとの判断ができるという事です。

私は自らの手で、最もミーナお姉様から遠ざけたい人間に助力して、お姉様の隣にいる事に相応しい人間に育ててしまったのです。

お姉様がイシュア国に帰国した時は、リヒャルトを単なる旗頭にする決断をしていましたが、婚約者になるかどうかについては、検討してみるだけだったそうです。しかし、成長したリヒャルトを見て、結婚する相手に相応しいと思ったそうです。

世界最強の1人と評されるお姉様と並び立つ男性は一族以外には存在していません。しかし、並び立たないまでも、隣にいてもギリギリ許せるという人間は、僅かながらに存在していて、その中にリヒャルトが入ってしまったのです。

私の愚行のせいで・・・。

パパもママもお姉様の結婚相手が見つかった事に大喜びします。そして、リヒャルトを鍛えた私は、パパやママだけでなく、アラン叔父様にも、エリック叔父様にも、ほぼ全ての一族から感謝されて、誉め言葉をもらいます。

周囲からの評価をあまり気にしない私も、自身が愚行だと思っている行為に対して、大切な一族の皆から褒められる事に、初めて辛いと言う感情を持ちました。

次は私の番だと言われると、叔父様が相手でも表情を引きつらせそうになってしまいます。

私はこれから1つ1つの事をしっかりと考えて、1つ1つの行動が未来にどのような影響を与えるかを真剣に考えるようになります。


「お嬢様、お悩みになっても、もう、どうにもならないかと思います。」

「未だ、結婚した訳ではないのよ。」

「そうですが、ミーナ様は、リヒャルト様をお慕いしているように思われます。大好きなミーナ様の慶事をお祝いしてはと、思うのですが。」

私より8歳上で22歳のナタリーは、ファロン伯爵家で雇用する私の専属侍女です。私に忠誠を誓う青髪青目の侍女は、私に対してだけは、ずけずけと物を言います。他の人が言いづらい事でも、かなりはっきりと言います。私のためになるのなら、不興を買っても諫言するのが、忠臣の心構えだと言い切ります。私にとっては、ナタリーが何を言っても怒る気持ちが湧き上がる事はありません。彼女が私に何を言っても、何かが変わる訳ではないので、何を言われても気になりません。

私がフェレール国で誘拐された時、盗賊団の砦に連れていかれました。そこには50名程の盗賊達がいて、私に全員絶命させられたのですが、その砦に囚われていて、男どもに凌辱されていたのがナタリーです。ぎりぎり成人になっている時の凌辱で、身も心もぐちゃぐちゃにされた彼女を、結果として私は救出した事になります。

救出した手前、ナタリーを放置する事ができない私は、専属侍女として雇う事にしました。彼女の悲惨な境遇に同情した訳でもなく、これまでに救助ができなかった政治側に立っていたという責任感があったからでもなく、ただただ助けてしまったのだから、その先の面倒も見なければならないと考えただけです。お姉様がナタリーという犠牲者の事で、心を痛めているのが見ていられなくて、私が雇う事にしました。

ですが、ナタリーの目からは、地獄から救出した上、復讐も果たして心の一部を救い、名門ファロン家の侍女として雇った私は、天使のような存在に見えるそうです。私としては、忠義の有無に関係なく、給料分の仕事をしてくれれば何の問題もありません。

上下の心が通わない関係でも全然かまわないのですが、少しずつ私達の関係は変化してきます。凌辱された事で体にダメージを受けたナタリーは妊娠できない体になったようですが、その事があったからと言って、同情心が膨れ上がるような事はありません。しかし、専属侍女として生活を共にするようになり、慣れてきた事もあって、気兼ねなく色々な事を話せるようになります。一緒の時間が長くなればなるほど、家族に向けるような親愛感が増してくるのだという事が分かりました。

ナタリーが、パパママお姉様、お兄様達と同格の存在になる事はありませんが、屋敷で働いている他の家人よりは、大切にしたいなと感じるようにはなっています。

最近、ナタリーが私の考えに対して反論するような場面が増えてきたため、その理由を尋ねます。すると、ナタリーには私が非常識な考えを持っている令嬢に見えると言うのです。オズボーン公爵家の一族である私達が、常識外の存在である事は分かりますが、考え方が非常識だと言われるのは疑問です。ただ、常人とは違った能力を持っている時点で、何もかもが常人とは異なるのだから、考え方も普通とは違うのだと言うナタリーの力説を否定しても何の意味もないので、とりあえず成程と頷いておきました。

ナタリーが私に反対意見を言っても、気分が害される訳でもなく、彼女の意見の方が良いと考えれば採用して、良いと言えないのであれば採用しないだけなので、彼女とのやり取りが変わった事で問題になる事はありません。

「慶事だけれど。」

「エリカティーナ様は、ミーナ様がリヒャルト殿下に取られてしまうとお考えなのかもしれませんが。エリカティーナ様に向ける信頼は何も変わっておりません。一番はエリカティーナ様です。」

「それは分かっているのよ。」

「リヒャルト殿下が、少しぐらいミーナ様に気をかけてもらえることはお気にする必要はないかと思います。」

「そうなんだろうけど。」

「お嬢様、もし、ミーナ様が、お嬢様とリヒャルト殿下の仲が悪いと見えたら、どのようにお考えになるでしょうか。お二人に仲良くするように、お願いをするのではありませんか?そうなったら、ミーナ様はリヒャルト殿下に申し訳ないと感じるかもしれません。」

「それは駄目よ。そんな気持ちにさせては絶対にダメよ。絶対にダメ。」

「はい。ですから、リヒャルト殿下と仲の良い所を見せた方が良いのではないかと思います。」

「そうね。振りだとしても、そう言う事を、あ、私も一緒にドミニオン国へ行けばいいんだ。そこで、お姉様に協力して、武功を上げれば、お姉様に褒めてもらえるわ。それに、リヒャルト殿下と接する時間も取れて、仲が良い事をお姉様にアピールする事ができるわ。」

 戦場では様々な、不可思議な事が発生するもので、リヒャルト殿下に不運が訪れないとも限らないと考えた私は、お姉様と一緒にドミニオン国に向かう事を決めます。ただし、よく考えて行動しないと、空回りをして、お姉様にご迷惑をかけてしまう可能性があるため、慎重に行動しなければなりません。出陣を認めてもらうために泣き落としを活用しましたが、これは正しい噓泣きであり、状況を正しく分析した上での適切な行動です。



 お姉様に同行を認められた私の役目は、身の回りの世話をする侍女です。お姉様の側にいられるという点では最高の任務を得た事になりますが、功績を立てて、お姉様に認められると言う点では、価値のある仕事ではありません。

 どうにか功績を、と考えていると、ドミニオン国においてお姉様の悩みの1つが、11歳になる8人の少年達である事を知ります。この8人は、ヴェグラ教の教会勢力で洗脳を受けた子供達で、お姉様の暗殺未遂事件の実行犯です。この捕らえられている8人をすぐさま処刑すれば良いのにと考えますが、お姉様は子供達を生かす道を探しておいでです。

 イシュア国から来た兵士だけでなく、ドミニオン国出身の兵士達も、洗脳された狂信者には処刑以外の選択肢はないと、お姉様に進言していますが、お姉様は地下牢に閉じ込めたまま、処分の決定を先延ばしにしています。

「お嬢様、少年の捕虜をどのように尋問するのですか?ミーナ様が説得を何度か試みても、邪教徒と罵るだけで、話にならないと聞きます。」

「それはお姉様から聞いたわ。きちんと方法を考えてあるから大丈夫よ。」

8つの独房と、この部屋と尋問室のある区画には、私とナタリー以外の進入を禁止してもらっています。

「お嬢様のお手伝いをするつもりですが、囚人たちを監視する事は私にはできません。独房から尋問室に連れてくる事も無理です。彼らは11歳ぐらいの少年ですが、武芸に優れていると聞きます。私以外の。」

「尋問室は使わないわ。少年達は独房に入れたままで、鎖の拘束を解くつもりはないから心配しないで。それよりも、彼らの食事の用意はしておいてくれた?」

「用意はしましたが、あれは囚人の食事とは思えないのですが。」

「美味しい料理を用意してくれたみたいね。じゃあ、ナタリーは食事を持って、私に付いてきて。」

「はい。かしこま、お嬢様、何を、お着替えはこの部屋には用意しておりません。」

「分かっているわ。着替えは必要ないわ。」

「では、なぜ、脱ごうとするのですか。」

「色仕掛けで、彼らを篭絡するのよ。心配しないで、裸になるのはまだ少し先の事、下着姿になるだけよ。」

「お嬢様、正気ですか。」

「正気よ。拷問しても従わせるのは無理そうだから、このやり方が一番いいのよ。」

「おやめください。そのような事。」

「ナタリーにさせるつもりはないから、心配しないで。」

「私がするかどうかとかではなく、お嬢様がするような事ではありません。」

「ママの美貌を受け継いだ私が色仕掛けをすれば、うまく行くと思うの。」

「色仕掛けと言う点では、誰よりも・・・。いえ、そういう問題ではなく、そのような事をしたと周囲に知られれば。」

「知られないようにするために、この区画への進入を禁止しているのだから、大丈夫よ。それに、外に情報が漏れたとしても、私の評判は基本的に良くなる訳ではないのだから、気にする意味がないわ。」

私はナタリーに指摘されるまでもなく、世間一般と言う意味での常識外れの思考を持っています。しかし、常識外れなのは、私ではないと思います。

裸体や下着姿を他人に見せる事は恥ずかしい事で、恥ずかしがらないのであれば破廉恥な人間であると言われてしまうというのが、私には理解できません。

貴族の中には、着替えのような身の回りのことを、側仕えに完全に任せる者がいます。その場合、側仕えに裸体や下着を見られるのですが、それは恥ずかしい事で、破廉恥な行為にならないのでしょうか。

この指摘は何度かナタリーにしたことがあります。その時には、男性を欲情させるような行動や姿が破廉恥であり、恥ずかしい事だと説明を受けました。これには反論していませんが、私は納得できません。

私やお姉様は、対魔獣戦闘の時には、魔獣の皮革鎧を身につけます。鎧扱いですが、魔獣の皮革は伸縮性が高い肌に密着した服と変わりません。魔獣の皮革鎧だけを身につけて立てば、肌の色が赤黒くなった裸体と何ら変わりません。肌そのものは隠していますが、体のラインははっきりと分かります。

この肌着鎧の上に革性のベルトやスカート、ベストを付けているので、完全に体のラインを見せる訳ではありませんが、男性を欲情させるには十分な姿と言えます。しかし、大きな胸やくびれた腰、安定した尻のラインも、戦闘服や鎧と言う呼び方をすれば、恥ずかしい姿ではなくなるのです。私以外の常識人の考え方では、そうなるのです。

名前が変われば、中身が同じであっても、異なるものであると認識するという発想が理解できない私は、無駄な論争をしても意味がない事を良く知っています。

だから、ナタリーが反対しないラインを見つけ出して、色仕掛けで8人の少年達を篭絡する事にします。とりあえず、体のラインが出にくい下着にも見える薄着で、彼らの独房に入って、拘束されている少年達に食事を食べさせる事にはOKが出ます。

 ナタリーは私の完璧な理論に屈したようで、一緒に下着姿になって、彼らの世話をするようになります。

 魅惑的な女性に世話をされて、美味と言える食事を食べさせてもらい、どのような罵詈雑言も笑顔で聞きてくれるという状況に、少年達が変化を見せるのには、それほど時間はかかりません。

 次の段階に移行するために、少年達の体に直接触れようとしたら、ナタリーにそれだけはやめてくださいと、土下座をしながら懇願されます。洗脳を解くには次のステップが必要であると説得しましたが、ナタリーは泣きながら、ミーナ様に知られれば、嘆き悲しむことになるからやめて欲しいと、逆に説得されます。

 お姉様の悲しむ姿を想像して、戸惑っている間に、ナタリーはこの先の色仕掛けは自分中心で行いたいと言い出します。

 盗賊団に凌辱された経験があるナタリーにそのような事はさせられないと拒絶したのですが、ナタリーは洗脳されて暗殺者に育てられた8人に強く同情するようになり、彼らを救いたいと言う気持ちになり、色仕掛けが洗脳を解く事につながるのであれば、自分の任務にしたいと言い出します。

 私は書物の知識しかないため、ナタリーに任せた方が効果的な色仕掛けになると考えると、ナタリーが嫌な気持ちになれば、すぐに止めるようにとの約束させた上で、専属侍女に任せます。この策が成功して、私は8人の忠実なる僕を得ると同時に、ナタリーは嬉しそうな笑顔を手に入れます。

 ナタリーは8人の少年達に慕われる事が嬉しいとの事です。ナタリーの言う常識外れの事をしたおかげで、ナタリーが幸せを感じるようになったのだから、私の考え方の方が正しいと証明されたのも、私には嬉しい事です。


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