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ミーナ・ファロン物語  作者: オサ
18歳成人への話
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63 出会い

63 出会い


20年前、ペルルーカの大森林地帯は大火事によって焼け野原になりますが、公爵夫人キャロラインの指揮の元で復興しています。植樹による木材資源の回復だけでなく、大森林を貫く街道の整備や農地開拓で、巨大な生産力を持つに至ります。そのペルルーカの大森林の特産品は、木工製品ではありません。木材の生産地として、木材を供給しますが、それらは周辺地域の木工職人街へ運ばれて、そこで製品へと変わります。

「この森の名物は、狩猟肉による料理です。ウサギはシチューに適しています。鶏肉は様々な種類がありますが、総じて野菜と一緒に焼くと美味しい料理になります。狼肉は、魔獣とは異なる風味があって美味しいのですが、固い肉なので、挽肉にしてから肉団子にすると、とても美味しく食べる事ができます。」

ミーナ達一行に説明している22歳の平民ジャックは、ニコニコと笑顔を説明しています。宰相様ご一家がペルルーカの大森林を視察しに来るという情報に浮かれていた弓狩人達は、案内役の座を求めて争います。森一番の狩人である赤髪赤目の男性は、その弓技で仲間たちを押しのけて、大役を手に入れます。

弓術の天才と名高い伯爵夫人を前に、天下一と自負している弓技を披露できる機会を得た事にジャックは喜んでいます。

「魔獣の肉は柔らかくて、癖のない味と言われているけど。味気ないのよね。動物肉の方が美味しいという人もいるから。」

「そうなのです。それに、自分で取った獲物を調理して食べるのは最高です。」

茶色の狩人ズボン、狩人上着、狩人ベストと弓一張、木槍一本を装備としたミーナ達は森の奥へと進んでいきます。

「それは楽しみね。」

「そうなんです。」

「ジャックさん、そろそろ静かにしないと、動物たちの生息地域に入ります。」

「ああ、すまない。マーゴット。では、皆様、ここから先は声を小さく、できるだけ静かに。静かにしていれば、動物たちの動く音が聞こえてくるんです。」

「ジャックさん。」

「あ、はい。静かに。」

 ジャックの他に1人の女性が案内役を担当しています。16歳の少女ですが、弓狩人の技能ではジャックと互角と評価されています。少女エリカティーナの話し相手という事で、未成年ながらも大役を任されています。

 人を見る目を養う必要がある宰相としては、この青髪緑目の少女の方が、この集団のリーダーに相応しく、しっかり者である事は間違いありません。獲物を探しながらも、一番幼いエリカティーナの動きにも目を配っていて、きちんと任務を果たしています。そして、そろそろ妹の足捌きが尋常ではない事に気付き始めていて、高い洞察力を持っている事も証明しています。

「マーゴットは、平民ではないわよね。」

「あ、はい。」

「そうだったのか。」

「ジャックがどうして驚くのよ。」

「いや、あの、この森に流れてくる連中は、お互いの過去を聞かないようにするという暗黙の了解がありまして。」

「そうなの。マーゴットは聞かれたくない?」

「はい。」

「じゃあ、聞かないわ。」

「向こうにないかいるわ。」

「向こうにいるよ。」

大きな美の女神と小さな美の女神が同時に獲物の存在を感知すると、6人は無言になって、獲物へと接近していきます。


この日、ペルルーカ大森林の主であると勝手に思っていたジャックは、3人の女神達の優れた技能に度肝を抜かれます。動かない的やこちらに向かってくる敵を射抜くための弓術と、逃げ出す動物たちを射抜くための弓術は違っていて、自分は狩りのプロであるが、的当てのプロではなく、3人の女神達は的当てのプロではあるが、狩りのプロではないと決めつけています。

しかし、3人の矢は逃げ惑う獲物達を正確に射抜きます。動物達の習性を理解しているかのように、全く外しません。

「なぜ、当たるのですか?」

「当てるために撃っているからよ。」

「いえ、どうして、100発100中なのか・・・。逃げている獲物の習性を知っているのですか。」

 射抜いた獲物を運びながら、天才は自分以上の大天才に質問します。

「習性ね、知らないわ。ただ、私達の矢が当たるのは、第一が矢の速さ、次に判断の速さだと思うわよ。獲物が動くよりも早く射抜けばいい訳だから。もちろん、相手が止まっている訳ではないから、動きを予測するけど、後ろには進まないし、基本前にしか進まないから、習性を理解してなくても当たるのよ。」

「なるほど。」

 ジャックはこの時、1つの天啓を得たように、さらに高みを目指すきっかけを手にします。そして、ミーナも大切な事を学びます。動物たちの習性を知る事で、相手の次の行動が予測できる事です。剣技で言えば、癖を把握すれば戦いやすいというのと同じです。人間にも動物にもいつもの動き、習性が存在していて、その習性を見極めれば、行動予測の正解率が上がります。

 獲物を捌いて、同行者たちに野生の味を堪能させたミーナは、宰相の習性を発動させます。内政上の改善点を探し出して、文官たちに改善策を提示してもらいます。父ロイドの助言を得た上で、大森林に接している各貴族の領地との連携を強化する施策を考え出します。

 各領地が森林から手に入れる利益を使って、自領を発展させる事は良い事ですが、複数貴族の協力体制から競争する情勢に変化していて、協力すれば手に入る効率性が失われつつあります。ミーナは非協力的な姿勢を改善するためにも、この森に弓技を鍛える訓練所を作る事にします。集団戦を想定した軍事訓練も行いますが、弓狩人として1人前になれるような教育も行います。魔獣の肉の生産量は決まっていて増やすことができません。人口増加と共に肉類の不足が目立ってきたため、各地の森林を木材資源の産出の場だけではなく、食糧生産地にする必要があります。それを実現するためには、狩人の数が足りていません。

 魔獣戦では役に立たない弓術の地位は、王都で開催される弓技大会によって少しずつ上昇していますが、この時代でも脇役の座から脱する事は出来ていません。それを大きく変革させることに成功したミーナとジャック、マーゴットの3人は、後世に名を遺す事になります。


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