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ミーナ・ファロン物語  作者: オサ
18歳成人への話
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60の後 強兵登場

60の後 強兵登場エリカティーナ


 2年前、私は大きな失敗をしました。それはフェレール国で盗賊団を殲滅した事です。お姉様やクレア様、セーラ叔母様のために戦ったことだから、後悔は、後悔はしていませんが。


ミーナお姉様が宰相になった時、私は宰相秘書という非公式な役目を頂いて、宰相執務室でお姉様のお手伝いをする事ができるようになりました。いつでもお姉様と一緒にいられる事を喜んでいたのに、ドミニオン国という最低最悪の国が、モーズリー関所砦への攻撃を仕掛けてきました。

イシュア国軍の最高司令官であるアラン叔父様が軍を率いて討伐して終了だと考えていましたが、お姉様がジルベッドお兄様とメルお姉様と一緒に、先遣隊として最前線に行く事になったのです。

ミーナお姉様のお手伝いができると喜んだ私は先遣隊への参加をお願いしますが、お姉様に断られてしまいます。11歳の私を心配しての事だと思っての行動でしたから、私はフェレール国での武勲を持ち出してして交渉しましたが、説得の仕方を間違えました。

今回の戦いは最終的には停戦条約を結ばなければならないため、戦場でのやりすぎは厳禁であるとお姉様に言われてしまったのです。

盗賊団50名の討伐は、私の武勇ではありますが、勝手な行動の結果であるため、正規の軍事行動においては避けるべきものだという、お姉様の指摘に反論ができなくなります。

そもそもお姉様は、私には武の道を歩んで欲しくないと考えているため、戦場に連れていきたくないのです。それでも、私がお願いすれば、お姉様は叶えてくれるのですが、今回は私を戦場から遠ざける理由があったため、それを掲げて、私の出陣をお姉様が阻止します。

落ち込んでいる私にお姉様は、宰相室の管理という重要な役目を下さいます。武勲には遥かに及びませんが、お姉様の役に立つことができる事が嬉しくて、お姉様が私の事を気遣ってくれることが嬉しくて、嬉しさの中で静かに私は働いていました。


 早期決着を予測していた私は、ドミニオン国という愚かな国も侮ってはいけない事を知ります。お姉様とアラン叔父様、ジルベッドお兄様、メルお姉様の4人が揃った戦場で圧勝すると思っていた私は、10日以上遅れる戦況報告を見る度に、お姉様の元に駆け付けたい衝動にかられますが、お姉様の基本方針が味方を減らさない事だと知っているため、戦場に向かうような事はしません。

 私は11歳の割には強い方ですが、1つの戦場で200人以上の敵を屠る事をイメージする事は無理です。お姉様の指揮の元、武勲を得たい気持ちは変わりませんが、大戦となると200の殲滅力では、第1位の勲功を上げる事はできません。無論、一般の騎士達には負けませんが、今回の場合、ライバルはアラン叔父様です。体の大きさ、つまり、体力差があるため、どのように想定しても、叔父様には戦場の活躍で未だ勝てないのです。

「お嬢様、最近、機嫌が良いように思いますが、何かございましたか。」

「お姉様が、もうすぐ帰ってくるような気がするの。」

「ミーナ様だけが戻って来られるのですか?」

「ん、叔父様達と一緒に凱旋してくると思うの。」

「・・・・・・。」

「どうかしたの?」

「宰相府では、戦況が動かないから、長期戦になるのではないかとの噂が広がっています。」

「噂ね。そうね、予算が取りやすいから、その噂は放置でいいわ。」

 宰相執務室で私の話し相手になっているのは私専属の侍女で、身の回りのことを任せているナタリーです。19歳の青髪青目の背が小さく、笑顔が似合う天真爛漫な女性を演じているけど、2年前私がフェレール国の盗賊団から救出してきました。盗賊団共有の奴隷だった彼女がどのような気持ちだったのかは聞いた事はないけど、何をされたのかは良く分かっていて、私は彼女を救出した当人として、彼女に生きる道を提供するために、専属侍女になるように話をしました。

イシュア国では下位の貴族階級の女性を侍女として雇う事は珍しいため、平民を侍女として雇用する事は普通の事で、私の専属侍女を平民に任せる事が問題となる事はないはずですが、盗賊団の奴隷だった人間を、唯一の専属侍女にする事に嫌な顔をする貴族もいるみたいです。だけど、私は気になりません。

彼女を侍女にしたのは、彼女の過去を同情した訳ではなく、私が盗賊団に凌辱されたという噂を消さないために、彼女に側にいてもらうためです。この事はナタリーには話をしていて、そういった理由は何でも良いから雇って欲しいと、本人も希望するので私は雇いました。

私にとっては、盗賊団にたまたま捕らわれていたから助けたのであって、ナタリーに感謝されるような事はないと思っていますが、ナタリーからは私が救世主に見えるらしくて、イシュア国に来てからナタリーは私のために何かをしたいと考えて、侍女になる事を決しました。何の技能も持たない奴隷女が侍女になる事は簡単ではありませんが、ナタリーは2年間の必死な訓練によって、伯爵家の侍女として恥ずかしくない技能を持つようになっています。

それに、人の世の最底辺を経験しているためからか、妙に度胸があります。宰相府内をうろつく事も平気で、情報を集めたり、必要があれば噂を流す事も出来ます。伯爵令嬢として目立ってしまう私の代わりに、色々な事を隠れて実施できる彼女は、私にとって役立つ専属侍女になっています。家族や親族以外で色々な気持ちを話す事ができる唯一の女性です。


「お嬢様、書簡を。」

「慌ててどうしたの?」

「ミーナ様が、イシュア国軍がお戻りになります。」

「私の言った通りでしょ。」

「はい、お嬢様のおっしゃうる通りでした。あ、こちらがミーナ様から、エリカティーナ様への個人的な書簡です。」

お姉様がもうすぐ帰国なさるのに、その旨を知らせる書簡を受け取った所で、喜びが倍増するはずもないと思いながらも、お姉様からのお手紙を受け取る機会はほとんどないため、封を開ける時にはドキドキしました。しかし、すぐにそのドキドキは喜びのドキドキではなくなります。

お姉様はこの戦いで勝利者として凱旋するけれども、真の勝利者は敵将ベッカーであると認識しているようです。彼の優れた軍略を褒めちぎる文章を読むと、私は冷静ではいられなくなります。

 執務室にナタリーしかいなかったため、思わず感情を表情に出してしまいます。ナタリーがびっくりしながら質問してきた事で、私にも自分の表情の変化を理解します。

「お姉様は、この戦いで敵に負けたと思っているみたいなの。」

「負けたのですか?」

「そうよ、お姉様とアラン叔父さがいるのに、敵将を逃がしてしまったのだから、負けに等しいと考えているみたいなの。詳細は軍事秘密で言えないけど。」

「そうなのですね。宰相府内は皆歓喜に包まれていますが。」

「国としては喜ぶべき事なのよ。この結末は。」

「はい。分かりました。では、お嬢様もできるだけ、笑顔でいてください。ミーナ様が戻って来られるのに、そのような表情では、何事かと思われてしまいます。」

「ええ、気を付けるわ。」

 そうナタリーに答えた後、2枚目に目を通し始めると、すぐに私は表情を失います。

「お嬢様、何かございましたか?」

「ええ、お姉様が、敵国の王弟であるリヒャルト様を、客人として我が家にお迎えする事になるの。お兄様達に同じような書簡が届いているかどうかを聞いてきて欲しいの。」

「はい。今すぐの方がよろしいでしょうか。」

「ええ、確認した上で、屋敷での受け入れの方は私の方でするから、お兄様達には宰相府の仕事に専念して欲しいと伝えて。」

「はい。畏まりました。」

ナタリーを送り出した後、私はしばらくの間身震いを止める事ができませんでした。敵国の総大将に捕虜としての価値がないのであれば、晒し首にして、敵に恐怖を与えるべきなのに、お姉様は、リヒャルトと言う愚かな王弟に同情して、イシュア国で保護するだけでなく、当分の間ファロン家で預かるつもりであると、書簡にて私に知らせてきたのです。

見せしめにしないのであれば、ドミニオン国の王弟を駒として保護しておくことは、政治的な判断としては正しいのですが、我が家にそんな異分子を取り込む必要は全くありません。未婚の令嬢がいる屋敷に、10歳とは言え、血縁者でもない男性を住まわせるのは常識がないとしか言えません。

そのような事は、お姉様が分からないはずがありません。

この事から、お姉様が、リヒャルトの事を同情している事が分かります。お優しいお姉様が、不遇な人生を歩むことになる彼に同情するのは仕方がありませんが、これは由々しき事態です。

自らの身を守る事ができない王弟と言う肩書だけしか持たなかったゴミのような男が、お姉様の結婚相手として第一候補になることなど私は許せないのです。

お姉様が結婚相手に求める唯一の条件が強さです。しかし、お姉様が納得するレベルの、釣り合う強さを持っている男性は、基本的に親族の男性だけです。相当に武勲を重ねている強者も存在しますが、全てお姉様よりも年上で、結婚適齢期から外れています。もちろん、そういった勇者レベルの男性が1人身でいる訳がなく、既婚の男性しかいません。

 という事情を考えれば、お姉様の今の時点で出している結婚の条件は、いずれ撤去されます。強さの条件が無くなった瞬間、お姉様は好きな男性と結婚する事になりますが、その第一候補がリヒャルトになる可能性が高いのです。

 お姉様は、政治家として冷徹な判断をする事もありますが、根本的には優しい人間です。放置しても構わないのに、ファロン家で養おうと考える事が、それを証明しています。すでに同情しているリヒャルトに対して、お姉様が恋愛感情を持つ可能性は否定できません。愛情とまではいかなくても、長い時間の中で、信頼を向けるようになるかもしれません。主に同情である事は間違いありませんが、それをお姉様が錯覚する可能性もあります。

 リヒャルトが18歳青年になる8年後、ミーナお姉様は25歳です。一般的な結婚では遅すぎますが、宰相を務めているお姉様が色々と事情を述べて、結婚を遅らせる可能性はあります。

 もし、そのような状況になれば、お姉様の事を好きになっているリヒャルトが結婚相手として名乗りを上げる事は間違いありません。お姉様を好きにならない人間なんていないのだから、同じ屋敷で住んでいるうちに、愛情を向けるようになるのは間違いありません。

 結婚適齢期を過ぎた25歳、強さの条件を捨てた時、成年リヒャルトがお姉様に結婚を申し込んだとき、受け入れる可能性は極めて高いです。同情から信頼に変わった心情だけでなく、敵国とはいえ王弟殿下と結婚するのだから、格としては申し分ありません。周りも止める事はないと思います。

 そう考えると、政略結婚で、早めに婚約する可能性は否定できません。

 ファロン邸で受け入れてしまえば、お姉様を取られてしまうという結論に達した私は、お姉様を説得するのが難しいのを知っているため、優れた作戦を立てなければなりません。


 お姉様が連れてきたリヒャルトは軟弱な10歳の子供です。戦士らしい雰囲気がないだけでなく、生命力そのものの輝きがないように見えます。王族とは思えないほどに、存在感もありません。

しかし、この軟弱さこそ、今回の最大の敵です。ミーナお姉様と釣り合うような強兵がいない以上、この軟弱さがお姉様の母性を刺激して、このゴミくずのような敗残者を保護したいと考えるかもしれません。いえ、現実に、我が家で受け入れようと考えている時点で、お姉様はこの弱兵が発する毒にやられているかもしれません。

お姉様の言う通りに何でもする、そんな態度を示しているリヒャルトは、このままいけば、お姉様と1つ屋根の下で生活できる事を知っているから、軟弱さを装っているかもしれません。

私はお姉様に着替えを勧めて、応接室から追い出すと2人だけで、邪魔者と向かい合います。

「エリカティーナよ。」

「リ。」

「さっき聞いた。馬鹿なの?」

名乗られたから名乗り返そうとするだけの何も考えない愚か者である事が確定した事によって、怒りが抑えられないようになります。こいつが私にいやらしい事をしたから、おもわず殺傷してしまったという言い訳を思い浮かべますが、この弱すぎるゴミに、そう言う事を私がされると言う設定があり得ない事を思い出します。軟弱さで助かるとは運だけは良いゴミのようです。

かよわい伯爵令嬢の設定は一部残っていますが、家族内や知り合いの中では、通用しない設定です。やはり、予定通りに威嚇するするしかありません。

「ファロン邸には、あなたみたいなゴミはいらないから。出て行ってもらうけど、イシュア国で生きていく道を探したいとお姉様に言ったらしいから、アラン公爵様のお屋敷を紹介してあげる。あなたはそこに行くのよ。お姉様に、この事を提案されたら、必ずそれを受けるのよ。」

「それ。」

「いい、このお屋敷はファロン邸なの。あなたはいらないの。お姉様に近寄ろうとするゴミを屋敷に入れる訳にはいかないの。」

「私はミーナ様に近寄ろうと。」

「はぁぁ、お姉様が魅力的でないと言うの。お綺麗で、お優しく、才能溢れたお姉様に、心奪われた事がないの?」

「魅力的な女性だとは。」

「はあ、黙りなさい。」

 怒りのあまりテーブルを乗り越えて、クソガキの胸倉を掴んで、愚か者を黙られた私は、ミーナお姉様にこれ以上近づいたら、訓練を装って殺害するという警告を出します。

「いい、あなたはアラン公爵邸でお世話になって、強くなりなさい。そして、開拓地で魔獣を狩れるようになりなさい。そうすれば、イシュア国で生きていく事ができるわ。いい、お姉様から提案されたら、考える間もなく、承諾して、今日中に公爵邸に移るのよ。分かった?」

「分かりました。」

「いい、これは脅しなの。ファロン邸はお姉様にとって大切な憩いの場なの。そこに異分子を入れる事を、妹である私が許さない。もし、公爵邸で働くことができないとなっても、ここへ戻るような事は、絶対に許さなないから、きちんと覚えておきなさい。」

私の脅しが効いたため、リヒャルトを追い払う事に成功しましたが、これからも油断してはいけない事を私は察知しています。

こんな小さい勝利では、いつどこで逆転されるかわかなないのだと、私自身が油断しないように、今一度自分を戒めます。


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