47の後 誘拐された日
47の後 誘拐された日
フェレール国への旅は最高です。ミーナお姉様と一緒の荷馬車の旅は本当に素晴らしく、最高に楽しい時間です。良く考えると、パパとママ、リースにぃとバルドにぃがいないからだと思います。
4人の家族が嫌いだとかはありません。もちろん大好きです。でも、姉様の瞳に私だけが映っていると思うと、弾んでいる心を止める事ができません。本当に、本当に、本当に楽しいのです。
宰相家の令嬢としてフェレール国王陛下への御挨拶があるという事で、お姉様と私の最初の目的地は王都パリスです。大陸一の歴史を積み重ねた大都市は壮麗で・・・。と聞いたのだけど、大きな都市である事は間違いないけど、美しいとは言えないような気がします。王城も部分的には美しいのですが、増築を繰り返しているみたいで、乱雑さを感じてしまいます。でも、お姉様が、その美しさを褒め称えているので、私も同意しておきます。お姉様が勧めてくれる物に悪い物はありません。時々楽しくない事はありますけど・・・。
王都で私たち姉妹を迎えてくれたのは、ミノー公爵家の方々です。ママの妹であるセーラ叔母様は、赤髪赤目のつり目の美人さんです。可愛いとか柔らかいとかの印象は全くないから、絶世の美女ではないという周りの評価には同意しますが、普通に綺麗な方です。お姉様の憧れの人なので、その美しさは警戒対象です。今まで以上に、お姉様の心を捕らえないようにと願うばかりです。
ですが、オズボーン公爵邸の絵画のようにとても優しい笑顔を見せてくれた叔母様は、お姉様より先に私を抱きしめてくださって、その親愛さを示してくれました。ママにそっくりだと言われる私の顔を見て、ママの事を思い出したと仰っていました。人生で初めて、ママにそっくりで良かったと思いました。
お姉様が、セーラ叔母様に先に抱擁してもらった私に対して嫉妬している姿は、とても可愛らしく、お姉様の新たな一面を見る事ができたのは、素敵な思い出の1つになります。
ただ、私がセーラ叔母様と抱擁してお話をしている間、お姉様は公女クレア様との再会を、本当に喜んでいました。私も何度かしか見た事がないような笑顔をクレア様に向けた事は、正直落ち込みました。クレア様は、お姉様の憧れの人であるセーラ叔母様にそっくりだから、そういう部分でも、お姉様の、お姉様の心を揺さぶるのだと思います。
ミノー公爵家の次女ルイザは、私と同じ年の女の子で、クレア様とは違って可愛さ全振りの子です。銀髪緑目は私とお揃いなので、仲良くするようにお姉様とクレア様に言われますが、最初は生意気な従妹だと思いました。ルイザは、クレア様の自慢ばかりをしていて、執拗なほどミーナお姉様よりも優れているというような事を語るのです。言うまでもなく、私のお姉様の方が優れているので、私もお姉様の事を公爵家の方々に語ります。
私とルイザの論争を見ていたお姉様とクレア様が、私達に仲が良いのね、2人ともそっくりよと言われた時、私もルイザも気付いてしまいます。私はクレア様とお姉様を比べて、姉の自慢をしたい訳ではなく、お姉様に対して、お姉様の事を一番分かっているのは私だとアピールしていたのです。もし、ルイザも同じように、クレア様へのアピールの一環として、自慢話をしているのだとすれば、ミーナお姉様の事を貶めている訳ではない事になります。
ミーナお姉様とクレア様が長年の親友のように振舞い、お互いの親愛を注ぎ合っている姿に嫉妬している妹が、ここには2人いる事に私は気付きました。どうやら、ルイザもその事に気付いたようです。
そもそも間違っているのです。毎日一緒に暮らしている妹こそが、最も姉を理解して、姉から一番の親愛を受けるべきであり、従妹として血のつながりがあっても、手紙のやり取りでしか交流がない2人の姉が、妹を差し置いて、深い親愛を向け合うのが、大間違いなのです。
お互いの状況を理解した私達妹同盟は、自分達の姉の親愛を自分に向けるようにすれば、全ての問題が解決する事に気付きます。私がミーナ姉様を、ルイザがクレア様を、それぞれしっかりと心を通わせて掴むことができれば、姉同士が浮気するような事が無くなります。
それから私は、ルイザがクレア様を自慢している時には、途中で遮っての反論を止めます。もちろん、ルイザも私がミーナお姉様の自慢をしている時には、最後まで聞くようになります。
お互いにアピールの時間を大切にする事を私達妹同盟は学びます。ただ、私とルイザが仲良くなると同時に、姉様たちもどんどん仲良くなります。この世にはままならぬことがある事も、私はルイザと学びます。
王都での挨拶が終わると、魔の森領域にあるミノー公爵邸へと、私とお姉様は向かいます。荷馬車の中で、クレア様やルイザだけでなく、第1公子ヴォルト様と第2公子トム様もいて、従妹として仲良くなります。公子2人がお姉様を好きになって、べったりする事があるかもしれないと警戒していましたが、そんな事はありませんでした。2人はお姉様の強さに興味があって、朝の訓練では手合わせを希望しています。私はお淑やかな貴族令嬢を演じなければならないため、少しだけ剣の素振りをするだけに止めているため、2人の実力を直接確かめる事はありませんが、お姉様が言うのは中々の強さみたいです。
ミノー公爵邸で、お姉様は、今回の訪問の本命であるスパイの炙り出しと、盗賊団の殲滅をクレア様から正式に依頼されます。盗賊団の殲滅についてはセーラ様が直接言及していないので、正式な依頼ではないような気がしますが、お姉様がそのように受け取っているのであれば、そこまできっちりとするべきです。もちろん、私は全面的にお姉様を支援する事を決めていたため、機会があれば殲滅戦に参加したいと考えます。
ただ、スパイの炙り出しは難しいと思います。クレア様でさえ証拠を掴めないのだから、イシュア国から旅行しにきた私達が、ミノー邸でスパイ活動の証拠を見つける事はとても難しいと思うのですが、お姉様は自信満々です。
ミノー公爵領には、フェレール国で唯一魔獣の巣があります。しかも、3つの巣がかなり接近しているため、常に強者を魔獣の巣に派遣しなければならないようで、4人の公子公女も役割として、魔獣の巣での魔獣討伐に参加しています。公爵領では、魔獣に対応できる騎士達を育成していますが、0からのスタートのため、公子公女が参戦しないと、数が間に合わないそうです。
4人が討伐に参加している間、私達姉妹は2人きりで自由な時間を過ごす事ができると思ったのですが、お姉様はこの時間を利用してスパイの炙り出しを行う作戦を実行すると言うのです。
お姉様は完全無欠ですが、どんなに優れている人間でも、他人をコントロールする事はできません。お姉様は優秀過ぎて、他の愚かな人間の習性が分かっていません。だから、お姉様の作戦は成功するはずがないのです。ですが、私にはそのような事は言えません。
お姉様と私は、6名の護衛と共にミノー公爵家の北にある他貴族の領地の街へと向かいます。その街にある盗賊団が経営している売春宿と接触する事によって、盗賊団の反応を誘うというのがお姉様の作戦の基本です。
6名の護衛の中には、スパイだと思われる侍従のファビオンを入れているため、盗賊団が動かなくても、彼が何らかの動きをするはずだとお姉様は予測しています。
お姉様が薄汚れた町民の服に着替えて、酒場へ出かける時、変装が完璧だと自信を持っていますが、お姉様の高貴な顔立ちを消す事ができない以上、誰が見ても、特別な身分の人間が、みすぼらしい服を着ているだけにしか見えません。警戒している盗賊団が怪しさ満点の女性に近づくはずがないと思うのですが、愚かな盗賊達の誰かが罠にかかるかもしれないと、私は少し期待しています。やはり、お姉様が作戦失敗で落ち込む姿を見たくはありません。
作戦初日、お姉様への接触はありません。その日の夜、街の裏道で野営する事にしたお姉様の選択は無意味だと思います。どう考えても怪しい人間が、裏道の路上で寝ているのだから、ここに罠がありますと大声で叫ぶのと同じです。6人の護衛の誰かが、お姉様に意見するのを待つしかありません。お姉様は作戦を中断する事はなく、そのまま継続して、無意味な時間を過ごすかと思われましたが、大きな変化が生じます。
お姉様が、狙いを付けた場所は盗賊団が直接経営している店です。これは、ミノー公爵家からの情報で分かった事ですが、確たる証拠はないため放置している店でもあります。公爵家側から見れば、証拠がないのに動いても意味がないのですが、盗賊団からは公爵家が盗賊団の詳細を知っていて、今回イシュア国からの客人であるお姉様が動いている事は、何か特別な行動であると考えたようです。
特にスパイ活動しているファビアンは、自信満々で行動するお姉様を見ているため、仲間である盗賊団が一斉に捕まってしまうのではないかとの危惧を持ちます。また、時々お姉様の視線が彼に向く事があるため、彼自身が疑われているのは間違いないとも感じたようです。
ミノー公爵家の内部で極秘情報を得る事が、自分の最大の価値である事を理解しているファビアンはこのままでは捕らえられるだろうと考えて動くことにしたのでしょう。
「エリカティーナ様、ミーナ様からのご連絡で、盗賊団の経営する酒場で盗賊を捕らえたとの事です。逮捕協力に向かった護衛達と合流した方が良いとの事です。これより、馬車で酒場に向かいたいと思います。」
ファビアンはこう言って私を高級宿から連れ出して、誘拐する事に成功します。それは、彼が巧みだったのではなく、私がお姉様に協力したいからです。
馬車の御者は護衛の者ではありません。その瞬間、これが誘拐だと確定するのですが、盗賊団の拠点まで連れて行ってくれるそうなので、私は騒がずに馬車に乗ります。
パーティーに参加するようなドレスではありませんが、大商人の孫娘が着飾るレベルの服をまとっている私は、令嬢のまま馬車で運ばれます。
馬車を走らせて1時間ぐらい経過すると、ファビアンは話しかけてきます。それほど豪奢ではない馬車のため、乗り心地は荷馬車と同じで心地よくはありません。お姉様とのお話のような楽しい事もなく、ただ乗っているだけなので、スパイに話しかけられた時には、退屈紛れになるかと思いましたが、退屈は話を聞かされるだけです。
「エリカティーナ様、私は盗賊団の仲間です。あなたを誘拐して、盗賊団の拠点にこの馬車でお連れしています。騒ぐような事がなければ、安全は保障いたします。盗賊団の拠点では、大切な人質として、扱います。要求さえ聞いてもらえれば、無事にお返しする事をお約束します。」
到着時刻が一番気になりますが、盗賊団の拠点に着くまでは、かよわい令嬢の振りをしなければならないと考えて、私はこの黒髪赤目の中肉中背の37歳のスパイと、無意味な話をします。
2代前の祖父は男爵家の人間で、復興のために資金が必要だから、莫大な利益を得る事ができる奴隷売買を男爵家の事業として行ってきた。しかし、新国王が明確に禁止する方針を打ち出したため、闇の商売として行う事になり、盗賊団とつながる事になった。その中でいくつかの失敗で、男爵の地位を失った一族は、盗賊団の幹部として生きていく事になった。
過去の栄光を再びという一族の願いがあり、いくつかの貴族達とのつながりも維持していて、もう少し金が集まれば、彼らの協力を得て爵位を得る事ができる。そう言った状況にまで辿り着いた事を自慢げに、ファビアンは語ります。
今回の事件を起こした自分が貴族になる事はないが、一族の甥が新当主になるのだから、ファビアン自身が犯罪者になっても問題はないとの事です。新たな男爵家を運営する一族たちに、暗い部分がないようにするため、彼らには盗賊団との関りを持たせていないそうです。
このような話を聞いても、何の感慨もありませんが、一応令嬢っぽく振舞うために、彼なりの苦労話をしてきた時には、同情する振りをして見せます。盗賊団の勢力を誇るような発言の時には、怯えて見せます。話が途切れて間が持たなくなった時には、瞳を潤ませて、家に帰して欲しいと訴えて、かよわい人質を演出しました。
ファビアンの反応は楽しくはありませんが、人間って簡単に騙せることを私はここで学びます。何かの本で、涙は女の武器だ。という言葉があって、愚か過ぎると思っていましたが、上手に使えば武器になる事が分かります。
「山道になります。あと1時間で到着します。美しい場所とは言えませんが、ゆっくりする事ができるようになります。泣かないでください。エリカティーナ様。」
「うう、お姉様に会いたい。」
涙を零しながら私は馬車の座席でうつ伏せになります。
「大丈夫ですか?」
誘拐しておいて、大丈夫ですか、とは何を言っているのかと思いますが、ファビアンの最後の言葉がこれです。スカートの中に手を入れた私は、ナイフを取り出して、スパイの喉を一突きして仕留めます。叫び声を出させて、御者に気付かれるとまずいと考えての選択は成功します。
私がこの時さらに学んだのは、興味のない人と話をしても、楽しくも面白くもない事です。そして、こういう状況でもお姉様の事だけを考えている私は、妹の鏡と言えるのかもしれません。戻ったら、ルイザに自慢しても良いかもしれないと考えながら、盗賊団の住処に着くまで、妄想の中で楽しい時間を過ごします。
50人の盗賊が集まる砦は、山道の奥にあります。隠れ家であるから、通じる道は一本だけですが、周辺の森林部に逃げ出す事は可能です。一匹たりとも逃がしては、ミーナお姉様に功績を褒めてもらえないと思う私は、馬車を降りる前に必死に考えます。
「ファビアンの旦那、出てこないんですか。まさか、中の姫と。あ。」
大商人が乗るような少し豪華な馬車の扉を開いてすぐに、私は二匹目の害虫を一撃で沈黙させます。すばやく、馬車を降りて周囲を見渡します。
目の前には6つの小屋があります。偽装しているつもりなのか、小屋は蔓性の植物で覆われています。中には人がいる気配があって、一番手前の小屋から人が出てくる気配があります。
小屋のある広場の奥側には、鉱山洞窟の入り口が見えます。捨てられた鉱山であるところを見ると、鉱物が取らなくなっているようです。その中に砦拠点の司令部があり、奴隷を住まわせる部屋がいくつかあるはずです。
「きゃー、助けてぇ。やめてください。お父様、助けて!」
6つの小屋から全ての害虫を誘き寄せるために大きな声で叫びます。令嬢訓練の成果を発揮して、襲われる令嬢の緊迫感と愛らしさを兼ね備えた声を出す事に成功します。
馬車を挟んで小屋側とは反対側に立っている私は、すでに両手に短剣を携えています。足音で8人が馬車の方に近づいてきますが、走る者、歩く者と、速さがバラバラです。緊急事態だから駆け足にしてもらいたいと訴えたい所ですが、逃がさないようにするためには、グループを短時間で殲滅が基本なので、もう少し近づかせるために待ちます。
「おい、ゲルドがやられている。皆出て来い。」
「ファビアンの旦那が馬車の中でやられている。どういう事だ。誰と一緒に来たんだ?とにかく!」
害虫に叫ばせてから、私は馬車の反対側から登場します。一歩と一振りで一殺を完了する私は、8つの害虫の喉笛を切り裂きます。
「敵襲か?」
小屋に残っていた4人が外に出てきます。剣を抜いて、臨戦態勢を取るものの、水色の可愛らしい少女が接近してくると、何が起こっているのかが彼らには分からなくなります。ただ、異様な速さで接近してくる少女の両手に短剣がある事に気付くと、はっきりと敵であるとの認識を持つようですが、その時には全てが遅すぎます。
盗賊とイシュア国の騎士を比べるのは失礼ですが、命をかけた訓練を続ける騎士と、弱者から奪うだけの盗賊とでは、何もかもが違います。
洞窟の入り口には低い木製の柵が付いていて、一応境目を作っていますが、完全に封鎖されている訳ではありません。外での騒ぎを聞いて、洞窟中から、何人かが飛び出してくると私は想定して、洞窟の方へと駆け寄ります。
近づくと入り口の大きさが良く分かります。どのくらい前まで鉱山として稼働していたのかなと疑問に思いながら、走っていると3人ほどが入り口に現れます。
40人近くは残っているはずなのに、3人しか出てこない事を不思議に思った私は、走りながら考えます。ここは盗賊団の拠点で、奴隷を保管する場所でもあるから、奴隷達が泣き叫ぶ事は普通の事で、少しぐらいの騒ぎでは全員が出てくる事はないないのだと私は気付きます。
女性の叫び声に慣れている害虫を招くためには、私の声では効果が薄いと推察した私は、一撃一殺の方針を変更します。
「ぎゃぁー!!許してくれ!!助けてくれ!!うぁー!!!」
1人だけ生きたままにしておいた盗賊の1人を2回切り付けて、絶叫させてから害虫駆除を行います。
絶叫とその後に沈黙を作った事で、異常事態が発生している事を洞窟内のゴミ虫共に知らせます。巣穴から湧き出てくる虫共は、剣を携えていますが、私の体に掠る事すらできないまま、息絶えていきます。
状況がつかめないまま切り殺されていった害虫が、中々巣から出てこなくなります。叫び声と沈黙という現象が何度も聞こえると、ゴミ虫共でも警戒するようです。面倒ですが、洞窟内の探索を行って、一室ずつ突入して殲滅します。
最後の7部屋目での駆逐を完了すると、害虫54を退治した事になります。生き残りがいるかもしれませんが、1人か2人程度であれば別々に逃げられても討伐できる算段があるので、私は一安心します。
一番奥の部屋に入りますが、そこは奴隷を住まわせる牢屋群になっています。6つのそれなりの大きさの牢屋があり、その中に1つに1人の女性が怯えながら体を丸めて座っています。
胸と腰を隠す布はぼろきれで、ほとんど裸体である女性は、先ほどまで害虫に汚されていたようで、不快な匂いを付けられています。
「私はエリカティーナ、たまたま盗賊達の巣に連れてこられたから、全員退治したの。あなたの名前は?」
「ナタリーです。」
小柄な17歳の少女は、9歳の私よりも大きくて、艶めかしい姿を見せてくれているけど、それが喜ばしい事ではない事は私も理解しています。ただ、ナタリーに同情する気持ちはありません。他人に力で従わされて、何か強制される事が一度もない私には、この女性の悲しみを共感する事はできません。
「綺麗な水があるから、体を洗っとく。」
スカートの内ポケットに入っている小さな水の魔石を取り出すと、彼女の体を水で清めます。
「服はあげるから、そのぼろ布はここに捨てておいていいよ。少し乾くまで、この魔石の近くに立っていて、座っていてもいいけど、暖かいから。」
私はナタリーが体を乾かすのを見ながら、水色のワンピースを脱いで、下着姿になります。
「何を。」
「ナタリーの服がないと困るでしょ。下着はあげられないけど。」
「あの、どうして。」
「流石に、裸は恥ずかしいでしょ。それに、盗賊達の服なんて来たくないでしょ。少し小さいけど、切れ目を上手に入れれば、きちんと着れるよ。」
「いえ、そうではなく、その、エリカテナ、様が下着に。その。」
「私、エリカティーナね。長いから、エリカでもいいよ。私はゴミ共の着替えかマントを着るから大丈夫。そうそう、明日ぐらいかな。明後日かな、救援が来ると思うから安心して、それまでは、外の小屋で綺麗なところがあるから、そこで待ちましょう。食料はあると思うから。」
「エリカティーナ様、ありがとうございます。」
「どういたしまして。ただ、私はあなたを助けるために来た訳ではないの。害虫退治をしに来ただけだから、私に対して特別なお礼とかは必要はないから。とりあえず、乾いた?はい、これを頭からかぶって、これで大丈夫だと思うけど。」
私とナタリーは洞窟外の小屋で一夜を明かそうとしたんだけど、小屋でも害虫共に汚された経験のあるナタリーは、体を強張らせて、小屋に入る事ができません。助けた以上、ナタリーに対して責任を持つのは私なので、しばらくは一緒に過ごそうと決意して、一緒に外で寝る事にします。
馬車の座席の布をはぎ取って、ナタリーの服を補強してから、食事を取ろうとしたけれども、害虫の匂いがするのか、砦にあった食材の全てを拒絶したナタリーには、近くにあった食べられる木の実を食べてもらいます。
私は戦闘もしたので、きちんと食べなければならないので、盗賊が蓄えてある食糧品でしっかりと栄養補給を済ませます。夜はベッドで寝たかったけど、ナタリーと一緒に外で寝る事にします。彼女を抱きしめながら、暖を取るための魔石を輝かせて、私は初めて家族以外の人を抱きしめながら眠ります。




