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ミーナ・ファロン物語  作者: オサ
9歳頃からの話
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41 兄弟

41 兄弟


日々美しさを更新するエリカティーナは5歳になって初めて、国王陛下コンラッドが主催する晩餐会に出席します。

「国王陛下、お招きくださり、ありがとうございます。」

 薄黄色のドレスは、銀色の刺繍やレースで飾り立てられていて、青色の花の髪飾りは銀髪の上に載っています。どのような服飾であっても、その美しさは変わらないというのは、本人や毎日一緒に暮らしている家族限定の認識です。茶色の作業服で街中を疾走する幼子エリカティーナしか見た事がない者達は、着飾った時の美しさに驚きます。驚いた後、美の女神と言われる母親にそっくりなのだから、驚くようなことはないと急に納得します。

「第1王妃陛下、第2王妃陛下、お招きありがとうございます。」

「はい。エリカティーナ。よく来てくれました。とても可愛らしく、美しいですよ。」

「お褒めの言葉、ありがとうございます。」

 細身の第1王妃は毅然とした表情を崩しながら、ファロン家の末娘に笑顔を向けます。

「今日は皆で楽しむ食事会です。畏まった挨拶はここまでにしてください。席に着いてください。」

「はい。畏まりました。」

 背の低い第2王妃の眼差しは着席した時から、優しく柔らかいものです。王家と宰相家だけの晩餐会は、王宮における政治とは無関係なものです。エリカティーナが生まれてからは、礼儀を弁えるようになるまではという理由で、宰相家は断り続けていましたが、末娘を王宮内で食事をさせても問題ないと判断して、以前は定期的に行っていた晩餐会を再開します。

「知ってはいると思うが。最初だから、紹介しよう。こちら側から、第1王子ブライアン、第2王子ハワード、第1王女ヒルダ、第3王子ローランドだ。」

 現国王コンラッドには、2王妃3王子1王女の家族がいます。これに準ずる地位にあるのがファロン宰相家の宰相夫妻と4人の子供達です。王家と宰相家が家族ぐるみの付き合いをしています。


 ファロン家が、王家に次ぐ一家であると評されるのは、2代連続で宰相を輩出しているからではありません。宰相の政治権力は強大ですが、伯爵家という階級であるため、その政治権力には自ずと限界があります。この限界を突破する事ができるのは、宰相夫人レイティアがいるからです。

公爵家から嫁いできたという点も、政治権力の制限を打ち破る要因ですが、重要なのはレイティアが、国王の代替わりを実現した事です。

フェレール国の王位継承戦争で、当時の第2公女セーラが戦場で活躍している時、イシュア国も王位継承についての問題が発生しています。フェレール国の争いに巻き込まれている第2王子に王位継承権がない事を示すために、第1王子コンラッド殿下を王太子に指名するようにと、先代国王は先代公爵に迫られています。

先代国王が、第2王子ジェイク殿下にどのような思いを抱いていたのかは不明ですが、必要な政治的判断は行われずに、時間だけが過ぎていきます。ジェイク王子が加担する勢力の方が、フェレール国の王位継承戦争で有利であり、この戦いに勝った場合、ジェイク殿下の後ろ盾となって、イシュア国の王位継承戦争に参加してくるのは間違いありません。これを防ぐためには、フェレール国の騒乱が終わる前に、イシュア国の後継者がコンラッド第1王子で示す事が必要です。

だから、公爵ギルバードが王太子の指名を国王に進言します。しかし、この時、王太子の指名ではなく、新国王の即位を訴えたのが、ミーナをお腹に宿したレイティアです。コンラッド王子と同級生で親友でもあったリリアとキャロットの2人を同時に結婚させて、先代王妃達の了承を得る事で、外堀を埋めると、先代国王陛下に直談判で譲位を迫ります。

世界最強の一角を担っているレイティアの戦闘力、これに幼い頃から祖父を手伝ってきたロイドの政治実行力、学園生時代に2人で培った新世代の貴族達からの信頼が加わると、イシュア国の貴族の総意として、レイティアが国王に譲位を要求するような構図が完成します。そして、この3つでコンラッドを支える事を表明した瞬間、これ以上の後ろ盾はイシュア国には存在しません。

ミーナを生むと同時に、新国王コンラッドを誕生させたと評される事をレイティアは実行していて、当事者である国王コンラッドと2人の王妃は、まさに宰相夫人こそが今の体制の母体であると考えています。

混乱を治めた後も、ファロン家は王家を全面的に支えます。第1王妃リリアは子爵令嬢、第2王妃キャロットは騎士爵令嬢であり、下級貴族出身の王妃です。実家に政治力が皆無であるため、外戚の暴走が発生する心配はありませんが、王妃が生んだ王子、王女達が侮られる心配があります。

侯爵家あたりが第3王妃に自分の娘をという動きがあってもおかしくありませんが、2人の王妃の後見人はレイティアです。2人の王妃に子供が生まれないのであれば、第3王妃を進める事は可能ですが、先代国王も先代公爵も先代宰相をも屈服させたレイティアに逆らってまで、第3王妃を勧める挑戦者は現れません。

そして今、3王子1王女の子宝に恵まれている王家に不安はありません。2王妃も親友のままで、お互いに支え合っています。子育てから、王宮内を取り仕切る事まで、2人は協力体制を維持しています。今はもう、レイティアの力を直接借りるようなことはありませんが、定期的に王家の晩餐に招待して、その繋がりを王宮の内外に示すことで、王宮内に不穏な要因が進入する事を完全に防いでいます。


 順番に出てくる料理と料理の合間に時間がとられていて、王家と宰相家の歓談を伴う食事会は楽しい雰囲気のまま、食後のお茶の時間になります。5歳ながらも完璧なテーブルマナーを絶賛される妹に、笑みを零してしまうミーナは、このまま雑音が響かずに食事会が終わればいいなと思っていますが、予想通りに、第1王子と第2王子が口喧嘩を始めます。

 仲の良い王妃の息子達も、お互いに嫌い合っている訳ではありません。10歳と9歳の少年たちが、権力闘争をしているはずはありませんが、権力闘争の一種であるとも言えます。

 2人の王子は、強くなることに夢中です。リースとバルドを王宮に呼び出して、一緒に剣の訓練をしてくれるようにと依頼してきます。この強さに憧れる少年たちの目標は、近衛騎士団総団長になることです。その夢の実現に邪魔になるのが、国王になる事で、国王は総団長になれない事を知ると、2王子の争いは、どちらが強くなって総団長になれるかになります。弱い方が国王になるという、王位の押し付け合いが、いつもの兄弟喧嘩です。

 国王陛下の左右に王家とファロン家が並んで座っています。2人の王妃、宰相夫妻、そして、4人の子供達が年齢順に座っています。ミーナの右斜めの向かい側にいる2王子の声がだんだん大きくなっていきます。

 第1王女と第3王子の2人は、幼いながらも、初めて王宮晩餐の席にいるエリカティーナに気を使って会話をしています。その姿に笑顔しか出てこないミーナは、自分の右半分で行われている愚行にいら立ちが増します。

 右隣の2人の兄達に視線を向けて、師匠として2人の弟子を何とかするようにと促しますが、2人とも苦笑いを浮かべて、無視する方針である事を表明します。一応王位継承戦であるから、宰相家としては干渉しないと言うのが2人の兄の姿勢です。要するに、取るに足らない兄弟喧嘩だから、放置するのが一番良いと言うのが2人の意見です。

 ミーナも基本姿勢は放置したいのですが、大切な妹エリカティーナのデビューである日に、愚行を始める2人に対する慈悲の心は持ち合わせていません。

「ブライアン、ハワード、2人は黙りなさい。」

「なんだと。」

「どんな話をしてもいいだろ。」

 剣を教えてくれるリースとバルドを尊敬している2王子は、ミーナに対しては同格の存在であると考えていて、侮辱する事はありませんが、生意気な言葉づかいで話します。

「愚かな話をしているから、黙れって言っているのよ。」

 黙って座っていれば、貴婦人へと成長するこちょが確約された美少女にしか見えないミーナの口調には刺々しい鋭さしかありません。

「愚かだと。」

「愚かでしょ。どちらが総団長になるかとか。実力もないくせに、意味のない言い争いは止めなさい。」

「今は無理でも、いずれ強くなって。」

「頭の悪い人間は強くなれないのよ。」

「馬鹿にするのか。」

「馬鹿にしているに決まっているでしょ。私の強さを見抜く事もできないくせに。」

「なんだと。」

「言ったな。」

「実際に戦ってみないと分からないようなら、いつでも戦ってあげるわよ。今日は、もう黙っていて。楽しい食事会なんだから。」

「今、剣を持ってくる。」

 第1王子が席を立とうとすると、ロイドが娘を止めるために席を立とうとします。それに最初に反応したのは、コンラッド国王で、左手を少し前に出して、宰相を制します。その動きは、ミーナにも見えます。

「ブライアン、待ちなさい。私の実力を見たいなら、ここで見せてあげるから、座っていなさい。」

 座ったまま腰を折ると、ミーナは緑色のスカートの中に手を入れて、短剣を取り出します。その短剣で、机の上にあるカップを一刀両断します。叩き割るのではなく、綺麗に真っ二つにします。技量に優れているだけでなく、その速さに圧倒された2王子は、何も言えません。

「ついでだから言っておくけど。総団長に比べて、国王が弱いと思っているのであれば、考えを改めなさい。この国で一番強いのは、コンラッド陛下なの。いい、パパも、総団長も、陛下の代理人であって、陛下の両手足そのものなの。2人が自由に動けるように権限を与えて、責任を背負ってくれているのが陛下なの。ちゃんと分かってる?陛下は全ての民を包み込む優しさが必要だから、強さを見せないようにしているけど。2人なら、陛下の鍛え上げられた体を見たり、触ったりしたことがあるでしょ。国王陛下であっても、総団長より強くなることもできる。そういう事が、ちゃんと分かっているの?総団長になる事を目標にするのはいいけど。国王にはなりたくないって、どういうつもりで言っているの。王子だろうが、誰だろうが、国王陛下の前で言ってはいけないのよ。ああ、もう、リースにぃとバルドにぃが、ちゃんと教えてあげないから、こうなったのよ。」

「ミーナ、お、私達の責任だと言うのか。」

「当然でしょ。王子たちに師匠だと言われて図に乗っているのに。きちんと弟子の指導をしていないなんて、師匠にあるまじき行為でしょ。弟子の行動全てとは言わないけど、それなりに責任を持ちなさい。」

「分かった。私達が悪かった。反省している。なあ、バルド。」

「うん。反省するから。ミーナ、今日は、ここまでにしような。」

「仕方がないわね、後は、2人に任せるから・・・。お騒がせしました。短剣をしまってくるので、少し休憩室を借ります。」

「私も良く。」

「私も行きたい。」

「はい。エリカもヒルダも行きましょ。」

 2人の妹達を連れ出したミーナは、2人の王子が、謝罪する時間を与えるために、しばらく休憩室で遊びます。この先2人の王子が、国王になりたくないと口にする事はなくなります。


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