表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミーナ・ファロン物語  作者: オサ
9歳頃からの話
39/131

39 公女の悩み

39 公女の悩み


「どうしたの、メル。バルドにぃも一緒でいいの?」

「はい。姉様とバルド兄様に相談したい事があるんです。」

「なんだい?」

「文官になれるように、行政の事を教えてもらいたいんです。」

 ファロン邸のミーナの部屋に集まった3人は応接セットのテーブルを挟んで向き合って座っています。相談者メルの真剣な表情を見つめながら、ミーナは7歳の従妹に笑顔を見せ続ける事に成功します。

ミーナの3歳下の金髪青目のメルは、オズボーン公爵の1人娘で、彼女の従妹にあたります。公爵アランの凛々しい美しさと、公爵夫人キャロラインのつり目を継承した少女は、7歳にして可愛らしさよりも美しさに比重が大きくなっていて、ミーナの大好きな容姿を持っています。

 ミーナが好きなのは容姿だけでなく、常に真剣で、懸命なところも愛おしく感じます。姉様と呼び、自分を慕ってくれる姿も、エリカティーナとは別の嬉しさがあります。

「教える事はもちろん構わないが。メルは、文官になりたいのかい。剣の道ではなく。」

「あ、違います。剣も続けます。中の巣で姉様と一緒に戦えるように鍛錬は続けます。」

 魔獣討伐の一族における、新世代の長女であるミーナにとって、6歳の儀式を乗り越えてからの1年間で大きく成長した公女メルは、18年後に訪れる暗闇の暴走における主戦力の1人であり、欠かす事はできません。

 オズボーン公爵家、及びその血族の家系の子供達は、戦士になる事が義務付けられている訳ではありません。後世に血を繋げる大切な役目もあるため、普通の令嬢としての選択肢も用意されています。だから、公女メルであっても、平凡な公爵令嬢の道を選びたいと本人が主張すれば、剣の道を捨てる事ができます。

 一族が目指す強さは、誰かに訓練を強制されるようでは辿り着けないものであり、本人の意思を無視する事はできません。1年の訓練の中で、剣の道が嫌になったのではないかと考えたミーナは、表情とは全く異なり、心の中をかき乱されますが、そうではない事に安堵しています。

「メル、私達に教えて欲しいと言うのであれば、嫌だなんて言わないけれども。公爵家には最高の教師がいるでしょ。私達なんかよりも。いいえ、宰相よりも優れている行政官であるキャロライン叔母様に習うべきでしょ。」

「ロイド伯父様はイシュア国で一番の行政官で。」

「私達に気を使わなくていいわ。パパも優れてはいるけど。それは国を安定させるという視点から判断した場合の事で。国を発展させたというのであれば、キャロライン叔母様の功績は随一なのよ。あんまり知られてはいないけど。通信、物流を確固たるシステムとして、公爵領で作り上げたのは、叔母様なのよ。国全体にそれを広げたのはパパだと言えるけど。それは宰相として当然のことで。叔母様が居なかったら、今のイシュア国の繁栄はなかったかもしれないわ。」

 ミーナは3人の叔母達を、母親レイティアと同様に敬愛しています。

 母レイティアは、言うまでもなく中の巣における暗闇の暴走で、史上初の完封劇を実現した司令官であり、国の発展の基盤である国民の命を守ったという誰にも負けない功績を上げています。しかし、3人の叔母達も、それぞれに誰にも負けない功績を上げています。

 第2公女だったセーラの功績は、フェレール国の戦乱を最小限で納めた事と、イシュア国とフェレール国を繋げたことです。両国の貿易が盛んになる事によって、お互いに多くを得て、発展の道を切り開きます。イシュア国では、国内では希少となる金属鉱物を大量に輸入する事ができて、様々な分野で有用に利用しています。北方の馬の輸入もまた、分かりやすい功績です。冷害期に活躍した耐寒力のある芋類も、原産地はフェレール国です。

第2公子だったエリックの妻であるアイリスの功績は、一番理解しにくいもので、一言でいうと絵が上手という事だけになってしまいます。しかし、アイリス侯爵夫人を溺愛するエリック侯爵の実行力の原動力になっていて、イシュア国が文化面で発展した源流を作ったと言えます。農業至上主義の人間からは、芸術は2の次と言われてしまいますが、農業の効率性が上昇してくると、必要な農業生産者は減少します。つまり、失業者が発生するようになります。失業者が増える事で、治安が悪化する事を考慮すると、制限なく仕事を作り出すことができる芸術分野の発展は、国全体が発展するイシュア国にとって、重要な分野になります。

アラン・オズボーン公爵の妻であるキャロライン公爵夫人は、結婚する前は、公子アランの秘書官として、公爵領の行政面で活躍します。飛び地が多い公爵領を流通によって繋げるだけでなく、周辺の貴族領にも好影響を与えています。物流活性化を進めながら、周辺領との交流も深めます。その中で、現場を直接指揮して生産力を上げる政策を次々に実行します。公爵領は魔石を産出する利益を重視する土地でしたが、これを豊かな領地に変える事に成功します。アラン公爵の行政面での功績と言われるのは、最終決裁者が公爵だというだけで、立案も含めて、主力として活動していたのは、キャロラインです。

「キャロライン叔母様ほど、行政官を志す人間が目標とするべき人はいないわ。」

「ミーナ、ちょっと待って。公爵夫人の功績は、僕もメルも分かっているから。公爵夫人がメルに教えないと言った理由を聞かないと。」

「そんな理由は分かりきっているでしょ。剣の道を選ぶのであれば、文官みたいな勉強する必要はない。剣の道に専念しなさいって言われたんでしょ。」

「メル、そうなのか?」

「はい。今は体が成長する大切な時期だから、剣の鍛錬に専念するようにって、お母様が。」

「13歳になれば学園に入学して、そこで学んでも遅くないからと、叔母様なら言ったと思うけど。」

「そうなのか?メル。」

「はい。」

「キャロライン叔母様の言う事は間違いではないと思うけど。メルは、どうして、文官の勉強をしたいの?将来の領地経営に活かすからなの?」

「お母様のお手伝いをしたいの。お母様は、武器を持って活躍はできないから、領地経営で皆を助けたいって言うんだけど。夜も寝る時間を削る日があって。10月は、領地からの収穫の報告が入ってきて、お母様はとても忙しくしていて、そのお手伝いがしたの。まだ、何もできないけど。」

「分かったわ。そう言う事なら、教えてあげるわ。主に、バルドにぃがだけど。」

「うん。僕も学ぶ必要があるけど、メルの手助けをするよ。」

 2人の支援を受ける事ができるようになったメルは、公爵邸で統合訓練が行われる太陽の日の訓練の後に、一緒に学ぶ時間を取るようになります。


 書類の記述と読解についての基本知識を抑えてしまえば、領地の状況を把握する事ができるようになります。この点については、メルは、すぐに身に着けます。キャロラインとアランの娘であるメルの頭脳の回転は速く、コツのようなものを身に着けると、得意の算術を活かして、状況分析が正確になります。

 この後は、宰相ロイドに許可を得て、借りてきた行政上の文書を実際に読み解きながらの授業になります。

「バルドにぃ。2年ぐらい前の話をしてあげてもいいかも。」

「ん。あれはだな。」

「バルド兄さん、行政で役立つのであれば、教えてください、」

「うーん、役立つだろうけど。」

「メルの力を借りた方が良いものになるかもしれないわよ。」

「そうだな。」

 バルドの考えている将来の行政改革は、統合された法律集を作る事と、その法律集を基にした法典を作る事です。現状の3国にも、法律に該当するものは存在していますが、慣習がルール化したものでしかありません。国王の代替わりによって、大きくルールが変わる場合もあります。代替わりの時には、継続するルールと廃止するルールを布告する事が通例です。

 また、各領地の貴族が独自に定めるルールもあり、多くの場合は国王が発表するルールと同じになりますが、統一されている訳ではありません。罪に対する処罰も、目安となる事例があるだけで、裁きを下す国王や領主貴族の気分で大きく変わる事もあります。

 この状況で、大混乱は発生していませんが、非効率な部分が多いのは確かで、より良い行政目指す場合、法典作成が必要不可欠であるとバルドとミーナは考えています。その仲間にメルが加わった事で、このチームは大きな力を得ます。チームとは言うものの、バルドに任せれば良いと考えているミーナは、戦力ではありますが、基盤となる戦力とは言えません。それに対してメルは、本人の志と真面目さから、土台となる戦力としてはミーナよりも大きい物です。新たな協力者が出現したことになり、バルドの構想が大きく前進し始めます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ