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ミーナ・ファロン物語  作者: オサ
8歳頃の話
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33 帰還

33 帰還


 公爵邸で入浴と着替えを済ませた2人は、公爵家の馬車に運ばれます。駆け回った王都の街並みが懐かしく感じる程に、長い間、遠くに行っていた感覚を持つのは、父母と心が離れているように感じるからです。

 2人が滞在していたパスル村は、祖父ギルバードが観光で訪れている場所ではありません。来訪者を歓迎する雰囲気を持った農村ではありません。貴族によって、生きる事を奪われた村があり、2人は村人を助けるために尽力します。

体を切り刻みながら、生死の狭間を疑似体験しながらの訓練を続けてきたミーナ達は、すでに生と死の本質を学んでいます。学んでいますが、全てを知っている訳ではありません。

今回の旅路で、ミーナが初めて知ったことは、他人の命の重さです。4年前、王都の食糧事情が悪化している時、ミーナは貧困層の子供達を救います。今回と同じように、救うためのきっかけを作ります。だから、ミーナは幼少期から他人の命の重さを理解していると思われていますが、結果がそう見えているだけで、きちんと理解している訳ではありません。

パスル村を救おうと行動し始めた時も、命の重さを理解した上での行動をした訳ではありません。あくまでも自分達の功績を考えての行動です。ただ、本件によって理解が進んだとのは間違いありません。周囲の力を借りなければ、自分達では何もできない現実を自覚した時、他人の命の重さの一部が、自分の命の重さに重なっている事に気付きます。

そして、父ロイドが、宰相として、イシュア国の国民の命を背負っている事を理解した時、魔獣と戦うために命を費やしている母レイティアと同等か、それ以上の事を、背負って生きている事に気付きます。

母レイティアと同じ修羅の道を歩んでいる自分には、何もかも許されていると、あの時のミーナは安全に勘違いしていたから、宰相府での行動は傍若無人そのものです。ミーナを咎めるだけでなく、注意する事さえ不遜であると、盛大な勘違いをしています。

他人の行動はままならない物であり、その他人の命を背負う事は、極めて難しい事です。魔獣討伐の訓練を行っている自分は、命の重さを理解しているだけでなく、命を背負っているとも考えています。その認識は完全な間違いではありませんが、完全に正しい訳ではありません。少なくとも、自分達オズボーン公爵家の一族だけが、人々の命を守っているという認識は完全な間違いです。

人々の命を背負っているのは、国王や宰相、軍を統率している騎士達だけではありません。王都にも地方領にも、パスル村にも、全ての場所に存在している父母もまた、子供達の命を背負っています。国王や宰相とは数が違いますが、向き合っている命の重さは、数とは関係ありません。

自分と言う存在が、父母に守られてきた事をはっきりと認識した時、ミーナは子供と言う時代を終わらせる事になります。


 貴族街にある一際大きい屋敷の門前で馬車が停止します。御者が扉を開けると、紺のズボンに白のシャツ、茶色のベストのバルドが先に降りてきます。庶民の装いですが、紳士らしく、妹に手を差し出します。

 水色のワンピースの金髪顔目の少女は、家族の方を見ながら馬車を降ります。

「ミーナ、バルド。」

 肩を震わせている紺色の文官服を纏っている父親が駆け寄ってきて、2人の子供を抱きしめて泣き出します。

「よく帰って来てくれた。」

 きっと叱られると思っていた2人は、号泣しているパパに戸惑います。どう謝ればいいのかばかりを考えていたから、この状況は想像していません。

「会いたかった。パパ。会いたかったぉ。」

 ロイドの胸に顔を押し付けながらミーナは号泣します。いつもの回転力のある頭脳は、寂しさで爆発していて、父親に抱きしめられている喜びしか感じる事ができません。

「ただいま、パパ、家出して、ごめんなさい。」

「ああ、ああ、帰って来てくれただけで十分だ。」

 次兄バルドも父親の胸に顔を押し付けると涙を流し始めます。

「ううぁ、ねぇね、にぃに、ぁぁぁ。」

 目の前の3人の涙が移ったのか、消えてなくなった2人が戻ってきたことに感動したのか、2歳児のエリカティーナも泣き出します。兄リースと手を繋いでいる幼女は、自分の存在をアピールするかのように全力で泣き出します。

「バルド、ミーナ、お帰り。」

 紺色のワンピースに身を包んでいる美の女神は、3人の側に来てから、柔らかい声で話しかけます。

「ただいま、ママ。」

「ママぁ。」

 父から解放されたバルドとミーナが、母の胸に飛び込んでいきます。柔らかい母の感触の中、2人は泣くのをこらえ始めます。剣の訓練時に、激痛に耐えて、泣かないようにする習慣が発動します。

「泣いてもいいのよ。」

「ママぁ。ママぁ。」

「ママ、ママ。」

 呟くように泣き始めた2人に対抗するように、幼女エリカティーナが、声を張り上げます。

「ねぇね、にぃに、ねぇ、にぃ。ねぇにぃ。」

 今まで探しても見つけられなかったバルドとミーナがいるのに、今度は自分の方に来てくれない事に抗議するために、幼女は呼び続けます。幼女が全力で握りしめてきても、痛くも何ともありませんが、その力強さは。次女が泣き叫ぶのを6か月慰め続けた長兄には堪えます。

「バルド、ミーナ、エリカが泣いて呼んでいるだろ。こっちこい。」

 兄の叱責の声に反応したミーナは、母から離れると最愛の妹に向かいます。近寄ってくる姉を認識したエリカティーナは、リースから手を離すと、2歩だけ前進すると、ミーナの胸に抱きしめられます。

「ねぇ、ねぇ、いないいないしないで。ねぇ。」

「うん、ごめんね。エリカ、いなくならないから。」

 遅れて幼女を抱きしめたバルドは、下の妹に叩かれます。2人に抱きしめてもらって安心したからか、今度は、長い間いなくなったことに対する怒りが溢れ出てきたようです。突然の攻撃を受け止めながら戸惑う次兄に近づいた長兄リースは頭を撫でます。

「よくやったな。すごいぞ。」

 祖父ギルバードと先生ペンタスから、2人の活躍を手紙で知らせてもらっていたリースは、よくできた弟を褒めます。

「リースにぃ、私は?」

 初めて聞くような妹の甘えた声に、リースは頭をなでる事で応えます。


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