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ミーナ・ファロン物語  作者: オサ
5歳頃の話
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14 ミノー公爵家令嬢

14 ミノー公爵家令嬢


イシュア歴377年10月、両親の説得を済ませたミーナは、荷馬車の一団と共にフェレール国へと向かいます。

1か月前にギルバードお爺様が、フェレール国を訪問して、1年程度向こうで暮らすという情報を耳にしたミーナは、祖父との毎週の楽しみを奪われないために駄々っ子を演じて、祖父の出国を阻止しようとしますが、この件については通用しません。

しかし、一緒にフェレール国で暮らせば、別れなくて良い事に気付くと、同行する事の許しを祖父から得ます。もちろん、両親が同意すればという条件付きですが、その条件はミーナにとっては何の障害にもなりません。

その後、ファロン邸でのごたごたは発生しますが、ギルバードお爺様とミーナは一緒に居ないといけないのという名台詞で、両親からの了解を得る事ができます。実際には説得に成功した訳ではなく、了解するまでお願いし続けるミーナの根気強さに負けただけです。

ロイドとレイティアは、1年前はあれ程屋敷を出ていきたくないと言っていた娘が、あっさり出ていくことを熱望しているのを見て、かなり早い時期になりましたが、娘を嫁に出す時の寂しさを知ります。

そんなイシュア国に残される家族への思いを全く考えない程に、ミーナは新天地フェレール国への旅を楽しみます。大好きなじいじとセーラ叔母様と一緒に過ごせることを夢見ながら、20日間ほどの馬車旅を楽しみます。


「じいじ、あの家?」

「そうだよ。ミノー公爵邸だ。」

「あ、叔母様がいるよ。」

「お、見えるのか。」

孫娘ミーナと一日中一緒に居る中で、ギルバードはこの5歳になる少女の能力に驚きます。体が二回り大きく、優れた身体能力を持っている事と、頭の回転が速い事は、知っていますが、子供にしては優れているというレベルではない事を実体験します。

「うん、見えるよ。あ、手を振っている。おばさまー、ミーナだよー。」

 ミノー公爵家は5年前に新設された家門で、その領地も5年前に人跡未踏の魔の森を切り開いた土地です。フェレール国では地獄と一部と言われていた土地を切り開いたため、新規の公爵家誕生であっても、非難もなければ、懸念を表明される事もありません。

 膨大な木材資源と、フェレール国に唯一存在している魔獣の巣から産出される魔石によって、新たな経済圏が誕生したのですから、周囲の貴族達だけでなく、国内すべての貴族領が、利益を得る可能性があります。

 経済的に潤っている領地ですが、新設と言う事で、歴史の積み重ねは無く、街並みは巨大な開拓村と言った所です。その街の中央に存在しているミノー公爵邸は、他の貴族領と比較すれば、かなり大きめの宿屋と同じです。木造2階建ての宿屋の敷地を取り囲んでいる塀は、腰の高さにも達しない低木が植えこまれているだけです。

門らしきものはなく、低木の切れ目が、敷地への入り口らしく、そこで公爵夫人が待っています。

「ようこそ。」

「セーラ叔母様。お久しぶりです。」

「ええ、久しぶりね。お父様も、ようこそ、歓迎します。夫は任務で、森の中央部に滞在しています。明後日には戻ってきます。」

「ああ、しばらく世話になるが。もう、出産ではないのか。座っているとはいえ、外に出ていてよいのか。」

「大丈夫です。暖かくしていますから。この子で3人目ですから。」

赤髪赤目の公爵夫人の腹部では、赤ん坊がすくすくと育っています。身重の幸せを感じている娘の姿に、満面の笑みを浮かべているギルバードの姿を、ミーナは静かに見守っています。珍しくも、大好きな2人と話をしたい感情を、ミーナはぐっと抑えています。それは、父娘の2人の再会への配慮ではありますが、新たな興味の対象が現れたことが主因です。

公爵夫人の背後には、一歳児の赤子を抱いている乳母が立っています。公爵家の跡取りであるヴォルトは、父親と同じ銀髪緑目の可愛らしい子ですが、今は昼寝の最中で、ミーナの興味の対象ではありません。

ミーナが目を付けたのは、セーラの椅子の後ろに隠れるように立っている赤髪赤目の4歳の少女です。ミーナに比べて頭1つ分小さな女の子は、母親の後ろから、覗くようにして2人の来客を見ています。

「クレアちゃん、私、ミーナ、初めまして。」

 急に目の前に接近してきた金髪青目のとても可愛い女の子の大きな声に驚いたまま、おどおどしている公爵令嬢は、救いを求めるように母親を見つめます。

「ご挨拶しなさい。クレア。」

「は、初めまして。クレア・ミノーです。」

「初めまして。ミーナ・ファロンよ。じいじはもう知っているよね。」

「え、あ。」

「お父様とは。」

「お父様だと分からないから、セーラ叔母様も、じいじって呼んで。」

 ミーナの注文にセーラが納得しながら応じます。

「そうね、クレアにはお爺様と言った方が分かるわね。クレアが小さい頃に、お爺様とは会っているのよ。」

「はい。」

「クレアちゃん、可愛いね。可愛い、すごく可愛い。叔母様、クレアちゃんを撫でてもいい?」

「クレアはどう。」

「え。」

「触ってもいい?ダメ?」

「え、え。」

「ダメ?」

「いいよ。」

「本当!ああ、可愛い、もう、可愛い。ねえ、じいじも来て、クレアちゃんを撫でてあげて、可愛いでしょ。」

「ああ。」

 祖父と孫娘が、もう1人の孫娘を撫でている間、クレアは緊張感を解きながら笑顔を見せるようになります。自分を全面的に可愛がってくれる存在に、とても安心して、本来の姿を見せ始めます。

「お父様、じいじとは呼べませんので、お爺様、と呼んでも構いませんか。」

「ああ。ミーナとクレアからは、じいじだからな。どのように呼ばれても構わない。」

「はい。それにしても、ミーナは、フェレール語が上手ですね。もう、他国語を習っているのですね。」

「いや、先月、一緒にここへ来ることになってから、本格的に習い始めたばかりだ。」

「本当ですか。南部訛りの口調を身につけているように思うのですが。」

「ここに一緒に来た商人達から、南部訛りというのか、それを身につけた。字も普通に読み書きできる。」

姉レイティアの娘と自分の娘を比べる事の愚かしさをセーラも理解しています。だから、娘たちを比べるつもりはありませんが、母親としての自分については考えます。娘にとって良い親でありたい、実母ミーナのようになりたいと願っていても、願うだけでは実現しません。具体的な行動の積み重ねが必要であり、今までの所、積み重なっていくものがあるとは思えません。

実母ミーナと同じように娘を育てているつもりですが、公爵夫人であるセーラは、クレアを自分の時と同じように育てることができていません。能力は親子でも個人差があると理解しているため、クレアの能力については悩む事は有りません。しかし、消極的すぎる様子には悩んでいます。公爵令嬢としてお淑やかであると、周囲からの評価が高いクレアですが、セーラはこの性格が不安で仕方がありません。

フェレール国は、魔の森を開拓した事で大きく変化しつつあります。その最先端に居るミノー家の長女が期待されるのは、先陣を切って魔の巣に突撃できる実力と、その意志です。今は実情を理解できない者ばかりですが、5年、10年と時間が経過すれば、魔の森の価値と脅威を理解するようになり、魔の森を領有するミノー家の公子公女に求める物が変わってくるだろうと、セーラは考えています。その変化に対応できるように育てたいと考えていますが、セーラが手ごたえを感じる事は1つもありません。

「クレアは私の妹になってくれる。」

「う、うん。ミーナ、私の、お姉ちゃんになってくれる。」

「うん、うん。お姉ちゃんになる。クレアのお姉ちゃんになる。お姉ちゃんて呼んでくれる。」

「ミーナお姉ちゃん。」

「はい。うーん、可愛い、どうしてクレアはこんなに可愛いの。」

「え、あ、え、あ、ありがとう。ミーナお姉ちゃん。」

 クレア・ミノーとの出会いだけが特質すべき事ではありませんが、この日のミーナは興奮を収める事ができません。憧れのセーラに甘える事を忘れて、妹となったクレアを触れあい続けます。

 最初はほのぼのとした雰囲気で見守っていた大人達も、やり過ぎではないかと注意するぐらい、ミーナは延々とクレアに絡みます。この日の最後には、客間の寝室ではなく、クレアの部屋の同じベッドで寝る事をミーナは要求します。得意の話術を使うまでもなく、認められます。

 それは、クレアがミーナの事を拒絶するようなことが一度もなかったからです。好意の表し方は全く異なりますが、公女クレアのミーナの事が気に入ります。

この日から、同じベッドで寝るようになった従妹たちは、これまでの事と、これからの事を話しながら、いつの間にか眠りに落ちる生活を始めます。


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