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ミーナ・ファロン物語  作者: オサ
4歳頃の話
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11 追加支援

11 追加支援


毎週太陽の日、リース、バルド、ミーナの3人は母親に連れられてオズボーン公爵家の地下室へ向かいます。そこでは、公爵家で行われる訓練が3人に与えられます。実際に肉体を傷つけながらの訓練は、過酷なものにしか見えませんが、公爵家とその血をひく家門の人間は受け入れています。ただ、一族の人間の全てに適性がある訳ではありません。

長い歴史の中では、約半数の資格者が訓練そのものを停止します。さらに、半数は中の魔獣と戦うだけの力を身につける事はできません。先代公爵ギルバードの4人の子供達全員が、主力兵器となるレベルまで成長した事は奇跡と言われています。この奇跡の4人が次々と血筋を拡大していく事で、公爵家が担う魔獣討伐の成功率は上がります。

イシュア歴376年12月において、4姉弟の長女レイティアの3人の子供達は戦士としての訓練を始めています。3人の意思もあり、6歳以前に訓練を始めるという異例の事態となっていますが、次世代の先陣を切る3人には、この時点において訓練の道から逃れる選択はありません。ある一定の数の一族戦士を確保するまでは、お試しであっても戦士の道を歩む以外の選択肢は、一族の子供達には与えられません。

本家の公爵アランには、3歳児の男子、1歳児の女子、生まれたばかりの男子の3子がいます。3人の未来には、最終的な選択肢としては、戦士以外も存在していますが、公爵家本家の人間として訓練への参加は確定しています。

公爵の弟エリックには、1歳児の男子と妻のお腹の中の子の2人がいますが、この2人の進路はケネット侯爵家との関係もあるため、未定の部分が数多くあります。いずれエリックの子供の誰かに、武の名門レヤード伯爵家を継がせる計画があるため。子供達の1人は優れた戦士として育成する事は、エリック自らの使命でもあります。

異国の地で公爵夫人となった次女セーラは、一女一男を出産しています。異国であるフェレール国に嫁いでも、魔獣との戦いから離れた生活を送る事はできません。フェレール国に唯一存在する魔の巣を支配領域に持つミノー公爵家を、王弟フェリクスと共に立ち上げたため、新たな武門の系譜を作り上げなければなりません。現時点で生まれている2人が、武人としてミノー公爵家を支えていくことは既定路線となっています。ミノー公爵家の所有する3つの魔獣の巣を管理運営しなければならないからです。

次世代の戦士達の筆頭であるリースを中心に成長を続ける子供達の中で、ミーナは特異な存在です。そもそも公爵家の一族が特異な存在ですが、その中でもミーナは特別な存在です。


 訓練が終わると、3人の子供達は与えられた控室へ向かいます。そこの浴場で汗を流して着替えると、ミーナが部屋を飛び出します。訓練で疲弊している2人の兄達と別行動ができるようになると、公爵邸を走り回ります。

 公爵邸の女主人であるキャロライン夫人に挨拶を済ませると、生まれたばかりのテリーを20分ほど可愛がります。それから、次期公爵ジルベットと公女メルの遊び場に向かうと、お姉さんらしく世話を焼きます。

 遅れてきたリースと入れ替わるように部屋を出たセーラは、大本命のギルバードお爺様のいる西の別館へと向かいます。

「じいじ、来たよ。入ってもいい?」

 本邸とは違った普通の貴族邸宅の玄関が開きます。

「ようこそ、ミーナ様。ギルバード様は遊び部屋でお待ちです。」

「こんにちは、セバスチャン。喉が渇いたから、後でお茶を持ってきてほしいの。」

「畏まりました。」

 白髪の老紳士に見送られて、ミーナは2階へと上がります。

「じいじ。」

「ミーナ、よく来た。」

 部屋の前で待っている先代公爵ギルバードは、46歳となっていますが、鍛えられた肉体に老化している所は見られません。美丈夫な容姿に衰えはありませんが、年相応との柔らかさを見せるようになっています。昨年の大の獣討伐を終えたことで、武人の使命を果たしています。その結果、戦士としての威圧感を纏う必要がなくなったおじいちゃんは、優しさだけを身に纏うようになります。

「うん。今日はね、エリック叔父様に、もう少しで剣が当たりそうだったの。速くなったねって、褒めてくれたの。」

「おお、そうか。中に入って話を聞かせてくれ。」

「分かった。セバスチャンに、お茶を頼んだから。持ってきてくれると思うよ。」

 同じ金髪、同じ色の青い瞳、祖父と孫娘の血のつながりを感じさせる所は、この2つだけですが、ギルバードにとっての孫娘ミーナは、女子の初孫という点だけが特別というのではありません。亡くなった妻の1人であるエリスからは、その容姿を引き継ぎ、第2夫人ミーナからはその名を引き継いでいます。

 どの孫にも同じように接していますが、この孫娘だけは特別な何かをギルバードは感じています。孫娘ミーナが楽しみにしているように、祖父も彼女の週に一度の訪問を楽しみにしています。

「リースはどうしたんだ?」

「ジルベットと遊んでいると思う。リースは面倒見がいいの。メルの事も可愛がっているし。私も妹なのに。」

「リースは、ミーナの事を可愛がっているように見えるが。」

「ええ、訓練の時はいつも全力なんだよ。私の時は、少しぐらい優しくしてくれてもいいのに。」

「いや、訓練で手を抜くのは良くないぞ。リースもそれを理解しているだろう。」

「そうなんだ。」

「で、バルドはどうした?」

「図書室で本を読むと思う。一緒に遊ぼうって、私、ちゃんと誘ったよ。」

「そうか、誘うのは良いことだ。ただ、本が好きなら、図書室に行きたくなるのは仕方がないな。」

「そうだ。アラン叔父様の部屋の向こう側にある秘密の部屋には、色々な本があると思うんだけど、バルドに見せてあげられないかな。」

 4歳児である事に間違いはないのに、体が二回りも大きく成長しているため6歳児に見えます。そして、頭脳の中身は10歳以上であるとギルバードは感じます。年相当以上の能力を持っている点は、先代ミーナとそっくりです。

「どうして、書庫の事を知っているんだ。」

「あ、やっぱりそうなんだ。魔石以外で、わざわざ隠してありそうなものは本だと思ったの。」

「どうして、ミーナは、秘密の書庫を知っているんだ。」

「だって、アラン叔父様の部屋だけ、少し違うんだもん。部屋に入ると、外から見た時の大きさと比べると、小さいの。だから、その分、隠された部屋があると思ったの。入ったらダメ?」

「ああ。秘密の部屋だからな。公爵邸内で冒険ごっこは構わないが、あそこだけは入らないで欲しい。」

「アラン叔父様に頼んでもダメ?」

「うーん。アランに頼むのはやめてもらいたい。アランの意思でどうにかできるものではないんだ。」

「そっか。バルドに読ませてあげたいのにな。」

 孫娘が単なる好奇心を満たすためではなく、兄のためを考えていること知ると、祖父はたまらなく嬉しくなります。我儘に育っているかもしれないと、レイティアから相談されたことがありますが、薄緑のワンピースが良く似合うように、その名に恥じない優しさも受け継いでいる事に嬉しくなります。

「アランには、外に出してもいい本なら、図書室で読めるようにしてやって欲しいと頼んでおく。」

「ありがとう、じいじ。バルドも喜ぶ。」

「そうか、うん。さて、今日は何をして遊ぶ?」

 お茶による水分補給を終えたギルバードは、ミーナが喜んでくれる遊びの時間に入る事を宣言します。その宣言と共に、遊びの名が返ってくるはずですが、この日だけは違います。

「えーっと、あの。」

「ん、どうした。時間はあるのだから、何から始めても大丈夫だ。」

「あのね、じいじに、お願いがあるの。」

 小さなテーブルを挟んで座っている孫娘が、遊ぶこと以外に何かをおねだりするのは初めてであったが、喜び勇む気持ちにはなれません。レイティアとロイドが子供達を不自由させている訳はなく、特別に何かをお願いしなければならない立場に、ミーナが追い込まれているのであればと考えてしまいます。

「できる事なら、何でもいいぞ。」

「お小遣いが欲しいの。」

「おう、おう。そうか、そうだな、街で遊ぶこともあるようだから、自分で使えるお金は必要だな。うん、うん、リースも時々街へ出るみたいだから、お小遣いが必要だな。バルドも自由になるお金があれば、好きな本を買えるようになるな。」

「ありがとう。じいじ。」

「ミーナが、喜んでくれて、じいじも嬉しいよ。いくらぐらい欲しい。お金の事は分かるだったな。」

「分かるよ。」

「そうか。いくらぐらい欲しいんだ。値段は分からなくて、欲しい物があるなら、昼ご飯の後に買い物に行こうか。」

「金貨10枚が欲しい。」

 公爵家の財政から考えれば、多額とは言えませんが、庶民であれば4人家族が半年は生活しても余裕がある金額です。ミーナが幼いながらもドレスや装飾品を好んでいるというのであれば、金貨10枚の使い道には困りません。しかし、この孫娘は公爵邸でも、ファロン邸でも、どこでも着飾ったことはありません。祖父として、何かを贈ろうとした時には、すぐに大きくなって着られなくなるから、もう少し大きくなってから買って欲しいと言われて、本人に断られた経験があります。

「分かった。お小遣いとして、ミーナにあげよう。ただ、お金というのは使い方が難しい。特に大きな金額になる時には、自分のためだけでなく、他の人のために使う必要がある。その事を忘れないで欲しい。」

「うん。分かった。」

 ギルバードは何に使うのかを聞かずにお小遣いを渡します。孫娘を信じて渡そうと考えたのではなく、ミーナが自らの意思で欲した事を否定したくなかったからです。この事がミーナの成長に悪影響を与えるのであれば、それを修正する時間はたくさんあります。

 我儘を許すというのではなく、幼いながらも自分の人生を魔獣討伐に捧げる事を覚悟した孫達を、他の戦士達と同じように扱うべきだとギルバードは考えます。

それに、ミーナという名の女性が、自分に何かを強請ってきた以上、前公爵にはそれを拒絶する事はできません。自己満足でしかありませんが、ミーナと言う名の女性には、少しでも多くの幸福感を与えたいと前公爵は願っています。


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