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Last man on the Earth.  作者: 井上和音
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008

 次の日、五月二十四日、木曜日の朝。


 昨夜はなかなか寝付けなかった。けれども、皮肉なものでなかなか寝付けない日ほど、一度眠ってしまえば、人はぐっすり安眠できるらしい。人間のストレスを減らすための上手な工夫のようだ。結局今朝は、一昨日の朝のように悪夢にうなされることもなく、すっきりと目覚まし時計に合わせて起きることができた。昨日の朝は不本意に早起きをし、結果としては遅刻の根本的原因を作ってしまったのだが、今日は意図的な早い起床だった。


 起きて顔を洗い、リビングへ行くとそこには既にひっくり返した茶碗とコップ、スクランブルエッグが用意してあった。ひっくり返したコップの下に『昨日は学校に遅刻したって電話で聞きました。今日は遅れないように!』との、母親からのメッセージの書かれたメモ書きが挟まれていた。


「このメモを見た時に既に遅刻していたら、このメモ書きは何の意味も果たさないんじゃないのかな」なんて、心の中で突っ込みを入れ、悠々と朝ごはんを食べた。


 茶碗を片付け、全ての準備をさっさと済ませて外へ出る。時間は確認していないけど順調な朝だったので多分余裕で間に合うだろう。外は快晴。心なしか気温も涼しげに、風は爽やかに感じられた。放射冷却を感じる。ただ感じるだけだが。実際をいえば、放射冷却を再現しているに過ぎないらしいが。


 歩道用、自転車用、自動車用、の三車線に分かれているなかで、もっとも外側の歩道を歩いて行く。


 歩きながら僕は考えた。椿久美は今日学校へとやってくるのだろうか、と。


 去年から振り返ってみても椿久美は簡単に休む人間ではない。僕の記憶では椿つばき久美くみは毎日の学校はもちろんのこと、クラス会など、必ずしも出席の求められるわけではない、非公式の学校行事にも必ず顔を出していた。


 彼女はそういう人間だ。


 彼女は安定した人間だ。


 だが、今更ながらも夕べのあの無表情は常軌をいっしていたように思える。結局、あの改札口で別れたあの夜以来、まだ彼女とは一度も連絡を取っていないのだった。


 そんなこんな考えているうちに、熊本高校正門に辿り着いた。正門から見える、校舎に掲げられている時計を見ると、午前七時四十五分。


 歩く、という人間の中でも最も遅い移動手段でも、やってみたら案外早く着くものだった。

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