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Last man on the Earth.  作者: 井上和音
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さよなら由人、またいつか──


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 二〇八〇年、五月二十二日。水曜日。


 僕はいつものように熊本高校へと自転車で登校する。上を見上げると雨が降っていた。雨は降っているが地面に落ちてくることはない。当たり前だ。道路全体が、いや居住区全体が透明なドームで覆われているから。雨は降ってはいるがジメジメジトジトとした、湿気がまとう重たい空気感は全くない。いつもと同じように、自転車に乗っているときは涼しげな風が僕のわきを通り抜けていく。 


 勿論ノンストップで学校へと向かう。徒歩用、自転車用、自動車用に分かれた道路がほぼ全て一方通行の立体道路だ。当たり前だ。昔は信号機を元に道路は交差してたって聞いたことがあるけど、でも、そんな自分の意思に反する、信号機による交通の妨害があって学校に遅刻したら、いったい何に腹を立てればいいのだろう。一体誰に責任が負われるのだろう。


 なんて、益体やくたいもないことを考えながら自転車を漕いでいたら、微妙に学校に遅刻してしまった。


 教室では担任がクラス点呼を取っていた。


 担任が一人一人名簿に印をつけているのを廊下の窓から横目で確認し、それから、慎重に、なおかつすばやく後ろのドアを開け、そしてすっとばれないように教室へと入る。よしよし、うまくいった。ははっ、もう少しだ。


 と、思っていたところ。


 担任のマエケンの声が響いた。


「白石! 朝礼終わったら職員室に来るように」


 クスクスっと教室に弛緩した空気が蔓延した。


 やってしまった。


「シライシ。お前、俺に何回説教させれば気が済むんかいな? ああ? 俺も休み時間は暇じゃなかっぞ。俺もお前のために時間割いとるんぞ。お前、ほんとわかっとんのか?」


 博多弁が少々きつくて、何が分かっているのか、僕にはさっぱりだった。適当に「ハイ。ハイ。分かりました」を繰り返し、もう二度と遅刻しないと宣誓を誓わされた。次遅刻したら反省文だろうな、なんて頭の隅で考えていた。「よし、分かった。次からは遅刻しないように」と言われ職員室から解放された。


 正直、何もよく分からなかった。


 廊下を通って教室へ戻る。


 教室の扉に手を駆け、少し深呼吸してから、今度は思いっきり、ガラリッとドアを開けた。


「おい! 遅刻魔が返ってきたぞ!」


「そろそろ反省文の頃合いじゃないのか?」


「まあ、今年のクラスでマエケンになったのが運のつきやな」


「ゆーくんおかえりー」


 聞き取れるだけで、それぞれ太一たいち綾伽あやか、そして久美くみ、辺りだろうか。


 ここまで一斉にクラスの人から話しかけられたら、それは返事のしようがないってもんだ。


 とりあえず。


「白石由人、ただいま帰還しました!」


 なんて、敬礼のポーズを取ってみた。


「おおーいいね!」


「おかえりやー」


 なんて、教室のテンションがまた一段と上がった。うん、これでいい。このクラスの雰囲気は本当に好きだ。


 授業の一限の数学が始まるまでその話題は続いた。


 今日も平和である。何気ない日常。当たり前の生活。在り来たりな会話。意識すれば、つまらないかもしれないけれど、つまらないことが壊れるほど、面白いことも起きないだろう。


 ましてや、絶望なんて。

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