いつだって僕らは立ち上がる理由を探している(定期)
微睡んだ頭で朝を感じている。
茹だるような暑さと、短く響く鳥の鳴き声。
空白のような明るさと静けさの、朝を感じている。
低反発の寝具に沈む、重たい身体。
体重の基点が見つからず、水の溜まった風船のように起き上がれないでいる。
春眠暁を覚えず。
無限に眠気に襲われる。
いつ頃に寝たのか、いつ頃に起きたのかが不明瞭のまま、いつ頃に動くべきかがずっと頭を悩ませている。
頭が重くて、背中が重くて、動く理由が見つからない。
いや、忘れてしまっている。
いつから、どのように記憶を失くしたのだろう。
闇のように靄のかかった頭では、それを辿ることすら億劫に感じる。
起き上がることさえできれば、きっとどうにかなる。
そう信じて動き出せない自分に、焦りだけが募り、それがまた自分の動きを封じていた。
何をするべきかが分からず、しかし何もしないことは退屈でいる。
自然と枕元にあるスマホを手に、更新される漫画や動画に目を通し始める。
(面白い)
世の中には面白いものが溢れている、と感じる。
比べて自分の、なんとつまらないことか。
空虚で、不快で、重たい。
誰かと話すつもりでいると、突然に腹痛を感じる。
日常生活ですら支障をきたしているのに、どうして誰かの役に立つことができようか。
辛い。暗い。重たい。
この重さから解放されたいと願うと、消えてしまいたいと脳裏に終わりがチラつく。
我を通したくて1人になった。
気付けば何をしているでもなく、他人の楽しいを覗くことで満たされている自分に成り下がる。
何もしたくない。何もしないままで朽ち果ててしまいたい。
何かを始めると、誰かに怒られる。
それを突っぱねるにもエネルギーが必要で、今はそれが失われている。
何もできない無力な自分が、たまらなく情けない。
誰かに縋りたくなることに、強く恥を感じている。
(いろんな物が邪魔に感じる)
何かを始めるから、邪魔になって見える。
何もしなければ、何も邪魔に見えてこない。
(何をするべきか、強く意識しないといけない)
そうでないと飲み込まれる。
なにをしたいのかが曖昧になって溶けると、そのまま自分が消えていく。
ルーティンが決まると、しばらくは安定するのだが、突発的なイベントが起こることが不安定にさせる。
旅の疲れが来るのだ。
また、人と合わせることで自分がなくなる。
(それが、たまらなく、嫌だ)
どうも、自分が流されることにストレスを感じる。
ストレスを感じるのならマシなのだが、自然と受け入れてしまうからか、流されてしまう。
そうなると数日、下手すると数週間と立て直しの時間を求められる。
駄目になる。
もとから駄目なんじゃないかと錯覚してしまう。
(錯覚じゃなくなることが怖い)
だから、人間が嫌いだ。
誰かに流されることが嫌いだ。
自分を保てなくなることが嫌いだ。
垂れ流しされている、誰かの動画を観ながら、ぼんやりと不満が膨れ上がる。
穴が空いた不満の袋。
不満は少しずつ漏れていくのだけど、しかし少しずつ大きくなっていく。
(つまらないな、これは)
はっきりと感じる。
虚構の波。誰かの作り物。誰かの宝物。
それは眩く見える一方で、自分のみすぼらしさを浮き彫りにする。
光があって影があるなら、自分は影だ。
つまらないと感じるのは、自分自身だ。
光が反射して、影となった自分が見える。
何もしていない、何者でもない自分がそこにいた。
(何かにならなくてはいけない、なんてことはない)
しかし、何もしないでいることが苦痛に感じている。
何もしないままで感動を受け入れることに、酷い焦りと苛立ちを持っている。
それが形にならず、渦を巻き、流されていくことに虚しさを覚える。
すり減った自分を感じる。
こうして自我が消えていく。
一般常識に塗れた自分。その常識は自分のものじゃなくて、何者かから反映されたドッペルゲンガー。
それも、不特定多数から受けた誰か。
こんなものが生きていること、それ自体が不快である。
腹立たしいことに、それが自分だというのだから、殺すこともままならない。
立ち上がる。
理由はなんでもいい。
トイレでも、風呂でも、飯でも、喉の渇きでもいい。
(起き上がってしまえたら、俺の方だ)
脳を上げる、血が下がる。
足を踏みしめる、血が押しだされる。
腕を振る、血が揺れ動く。
目を開ける、光が頭に照射される。
動かない身体。
鈍間め。愚鈍め。木偶め。
そのまま身体を起こして、動かし続ける。
座ったら、寝たら、死ぬと思うといい。
小さな死と生を繰り返した。
生きる屍の自分が嫌いだ。
人間が嫌いだ。全てを殺してしまいたい。
死ね。死ね。死ね。
勢いのままに外に出る準備を済ませる。
歯を磨いて、服を着て、扉を潜る。
光を浴びてゾンビが死んだ。ざまあみろ。
屍は足を進める。
ぐにゃりぐにゃりと、歩を前に前にと倒れ込む。
きもちわりい。しねばいいのに。ばかが。
悪態を着きながら、少しずつ。
俺は俺だ。
何者でもない俺は、俺が俺でないと俺で無くなる。
クソ野郎が。いつまでノロノロと過ごしているつもりなんだ。とっとと死ね。
どうせ死ぬなら、やりたいことをして死ね。
やりたいままに死ね。
何もしないまま、泥のように生きてるんじゃねえ。
死んでしまえ。前に倒れろ。
後ろに倒れるんじゃねえ。