二日酔い
頭は痛くない。
どちらかといえば腹にくる方だったが、今ではときどきに応じて結果が違う。
身体を鍛えだして数週間、体の変化にとまどうばかりだ。
安定した生活スタイルを捨てるということが成長だとして、それを阻害する要因の一つだろう。
例えば、膝や腰への痛み。
筋肉や姿勢を意識するようになって、最初の壁が肉体的なあちこちの痛み。
肘はまだ大丈夫だが、油断はできない。
とにかく関節部にも負荷が掛かるということを忘れてはいけない。
次に、アルコール。
こちらは前より美味しく飲める気がする。
元々が細く、次に太くなった。筋肉がないとアルコールが身体に回るまでに、少し癖がある。
だからか、血管が強化されたのか、酔いが早くて心地よい。
気分の高揚が素直にでるので、酔っ払いになれるのは得した一方で、お酒の誘惑が強くなった。
……当日はいいとして、問題は後日。
筋トレもあまり無茶は出来なくなるし、筋肉は溶けるし、勃起が強度が下がる。
自らのイチモツに自信があったからこそ、EDに近い症状が現れたのは衝撃だった。
正直、男としての自信を失いそうになる。
これ以外でも気の持ちようはあるが、モチベを保つための重要な柱である。
それが崩れたのだから、愛情を保つのが難しいとはよく言ったものだと思う。
レスになると愛情に不安ができるというのは、こういうことだったのだろうか。
ぐちぐちと、不満が口から漏れ出る。
似たようなことをピロートークで話した結果、相手もこちらへの興味関心が褪せたのを、ひっそりと声で感じた。
呆れたのだろうか、傷ついたのだろうか。
一番よくないのは、自意識過剰による相手を配慮を失うこと。
ごめん、という反省が口から多く漏れ出た。
相手に落ち度はなかった。
巨乳で美乳。顔もいい。多少、おなかがモチモチしてようと許容範囲……むしろ可愛いくらいだ。
張っているというようでもなく、柔らかい手触りに癒された。
巨乳って脱がせる時に、服が引っかかるんだなぁ。
綺麗に前に突き出た形が楽しくて、つい触り過ぎて怒られたのは反省。
調子に乗ったなぁ。
割り増し、今日はダメな日だった。
相手が良いだけに緊張したのもある。
一つの経験ではあるけど、逃した魚は大きかった。
ぼんやりと後悔を引きずりながら、商店街を歩く。
夜が明けてからしばらく、昼近くとなる時間。
自信がなくなり、女を魅力的に見れなくなって、世界がまたどうでもよくなる。
そんな中でふと目に入ったのは、猫の看板。
「猫カフェ……」
里親募集の猫カフェ。
写真の猫たちはみんな、野良でみるような雑種。
しかし、昔飼っていた猫もまた雑種だったこともあり、どことなく懐かしさを覚える。
階段を登り、脱走防止の二重扉をくぐる。
独特の猫臭さが、部屋の中を充満していた。
犬好きを猫好きは匂いで批判するが、猫好きもたいがい鼻が馬鹿になっている。
すぐに慣れて、手続きを済ませて猫たちの元へ。
店主さんが、ご好意で猫の餌を勧めてくる。
「おやつがあれば猫にモテますよ」
「ありがとうございます、今回は結構です」
必要ない、猫との遊びには心得がある。
備え付けのネコジャラシを手に取る。
なにやら先客が数名、猫に構うように目の前でネコジャラシを振っている。
普段はこんな見せつけるようなこと、遠慮するべきなんだろう。
(でも、今日は機嫌が悪いんだよね)
つまり、八つ当たりだ。
ネコジャラシの先端を、軽く猫に見せて『隠した』。
一匹、灰色縞模様の猫が爛爛と目を輝かせ始める。
これは遊びじゃないーー釣りなのだ。
カーペットの下、ソファの裏側、自分の膝裏にスルスルと隠しながら移動する。
そら来た。一匹の猫が飛びつけば、他の猫も同じ方向を見る。
その全てから『逃げる』。
決して捕まらず、逃げて隠れての繰り返し。
猫たちが求めているのは狩りの延長だというのに、どうしてお前たちは遊ぼうとしている?
頭が高いんだよ。人の目線で猫を見てるんじゃない。
一匹、二匹と猫が追加される。
部屋中の猫とまではいかないが、他のお客さんと戯れていた猫も引き寄せる。
「何か、コツとかあるのかな……」
見どころがあるやつがいるな。
精進したまえ。ただし今回ばかりは、俺が全部もらっていく。