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暗闇に潜む
何かと目が合った。
というわけでもなく、闇が隅っこにぼんやりと映る。
昔からドアが苦手なのは、ドアの先には空間が広がっているから。
誰かいるのが怖いのではなくて……いや怖いのだけど、それには対処できる。
その可能性を想像してしまうことが、たまらなく怖いのだ。
それが例えば、私にとっては女である。
小柄で、でこぼこした顔。
どちらかというと特徴的な、何もしない女がただじっと、こちらを見つめている。
ドアを閉める。
振り返る。
ドアを開けたまま廊下の先を歩く。
振り返らない。
けれど、なにかが死角から私を覗き込んでいる。
静寂が響いた。
今にも飛びかかってくる。
特に、鏡の前や、玄関の扉を潜るときは強く意識する。
……お風呂やトイレでは襲われない。
それは女だからか。
もし衣服の備えが心許ない、なんて状態で突撃してこようものなら、抱きしめて犯そうと思った。
幽霊に人権なんて存在しないのだから。
ガラス戸を挟んで、女がじっとみている。
ただなにをするでもなく、私を覗き込んでいる。