肉を食べる
骨付きの肉を食べることは難しい。
子供の頃は、噛むことが特に好きだったから、歯触りの良いものばかりを好んでいた。
好物はピーマン、もやし、セロリ、タルト、せんべい。
苦手なものは鶏肉、茄子、わかめ。
「ちから太郎」だったか、ごぼうを食べる主人公の昔話を幼稚園で耳にしていたからか。
あるいは、「あかずきん」や「7匹のこやぎ」より、丸呑みする狼を反面教師にしたのかもしれない。
ともあれ、成長していく中で苦手な理由が分析できると、拒否反応も少なくなる。
出されたものは完食するという家の躾もあっただろう。
肉は好きだ。
それは間違いなく、鶏肉の匂いにつられてみれば、唐揚げでなくてがっかりしたことも何度か。
目の前に鎮座する皿の上には、骨付きの肉が焼かれた状態にある。
ひとつを取って肉を齧る。
歪に肉が骨から分離し、肉片が細かく付着している。
作り手である智人が食べた骨は綺麗に、一口で骨へと変化したというのに。
……なにか食べかたがあるのかもしれない。
その食べかたを尋ねたこともあるが、智人はよくしらないとばかりの態度だった。
聞いても不快な空気が生まれるので、仕方なしに仮説を立てる。
ふと肉食獣の犬歯を思い出した。
思い立ったままに、犬歯を身と骨に食い込ませる。
そうして引っ張ると、骨から滑るように肉がこそげ落ちた。
口の使い方を考えたのはこれが初めてだ。
蕎麦をすすれない友人も、似たような理由から来るのかもしれない。
たぶん、咽せるのだろう。
息を吸うように、麺を吸う。
それが正しいのかは分からない。
ただ、辛い麺を食べる時は、自分もすすることはあまり好きではない。
確証はないが、そういうものだと納得する。
きっと披露する機会はないだろうに。余計な思考だった。
それでも、もし自分に子供でもできたときには、ちょうどいい食育の要素となるかもしれない。
……つぎはどんな鶏肉の料理を食べてみようか。