美術館デート①
洋風とも和風とも取れる建築物。
あえて言うなら和風モダンか。
大きな鳥居が近くにあるのが珍しい。京都は特に、高さ制限があるうえに住宅地だと密集している。
だからか、周囲に広場があったり、大きい建物があると旅行に来たような気持ちにさせられる。
カレンと来たのは突発デートとなった際に、思い出せたから。
これを逃すと次はわざわざイタリアまで行かなくてはならないと足を踏み入れた。
待ち時間は30分ほど。
近くの段差に、並んで腰を下ろす。
爺さん婆さんとまではいかずとも、年齢層は高いと思っていただけに、自分とそう変わらない年齢の人間をよく見るのが意外だ。
男はラフな格好で、女は少し大人っぽい装いとの差を見て、自分たちを見返す。
カレンが落ち着いた格好を好むので、合わせた服を選ぶだけで気にしていなかった。
実際、濃いブラウンの長袖シャツはそれなりに場所にあっている。
ただ、歩きやすさを考えてスニーカーで来たことを少しだけ後悔した。
今さら帰る訳にもいかず、せめて堂々としているのが精一杯だ。
視線を落としたのは一瞬だったが、カレンは目ざとくそれを拾う。
「大丈夫だよ。ちゃんとカッコいいから」
気遣いだと分かる。とはいえ否定するのも少し違う。
「カレンはいつも通り可愛いよ」
そう誤魔化すのが精一杯だった。
素直に受け入れてくれるあたり、カレンに叶いそうにないが、思いがけないカウンターを入れられた。
「いつも通りなんだ」
ニコニコと笑顔で告げる姿に、静かな圧力を感じる。
いつも以上だとでも? そんな細かい違いまでは流石に分からない。
髪を触ると喜ぶが、せっかく可愛くセットしてくれているのに崩すのは勿体無い。
肩に手を回して軽く抱き寄せるくらいだ。
「むぅ。なんだかこなれて来ちゃったなぁ」
「鍛えられてきたのかもしれない。……次は当ててみせるさ」
「ふーんだ。でも許してあげるー」
機嫌は直ったようで、体重を預けられる。
少しこそばゆい。周囲の視線など見回しても増すばかり。
そうして写真を数枚撮られる。
インスタに上げるのとは別に、匂わせ風の写真を撮るのが最近の楽しみらしい。
入場時間となったので、カレンの手を引いて立ち上がると、そのまま腕を組んでついてくる。
くっついても良いと認識したのか、離れがたくなったのか、どちらにしても歩きにくい。
「カレン?」
「うんうん、人が多いからね。はぐれないように掴んでてあげる」
なるほど、周りも同じような理由づけかと納得した。
見渡してみても、手を繋ぐくらいは多い。とはいえ、流石に腕を組むまでは珍しい。
「いや、暑くないか?」
なので、ちょっとした悪戯心からやんわり離れようと試みる。
腕をキメられた。
「!?」
「もう秋だからね、肌寒いくらいだよ?」
これ以上言えば、腕を折られるかもしれない。
「……関節をキメるのはナシだ」
「うん、入場口までね」
腹を空かせた犬と同じように、一度与えたご飯を取りあげるような真似はやめよう。
入り口は周囲の道路から、少し凹んだところにある。
おそらく高さ制限に引っかからないように、建物自体を下げたのだろう。
展示場のある2階への階段を登ってなお、天井は高い。
贅沢な空間の使い方だ。図書館とはまた違う、開放的な静謐さを感じる。
知式の集積から、自ら知りたい情報を得るのではない。
展示する側が意図して、顧客側に伝えたい表現のために無駄をなくして強調するための場所。
なんて通ぶってはみるものの、結局は有名所でもない限り足を運ばないのだから、理解度は毛が生えた程度。
せめてもの無知を生かすために、感じたことを素直に受け入れる心構えだけは大事にしたい。
京セラ美術館、ルーブル展。テーマは愛。
恋人たちが集まる場所は、ちょっとしたテーマパークのような賑わいを見せている。