人嫌いとタバコ
才能とは煌めく眩しいなにかだとするなら。
「君は間違いなく才能に溢れている。もっとも、誰しもに言えることだが」
裏門で、タバコを吹かした男が、対面する少女へと告げた。
齢15。中学3年生。卒業間近。
彼女にとっての卒業式は保健室で行われる。
容姿が整っている。勉強ができる。家が金持ち。
少し目立つ、真面目な子。
そんな子が集団から孤立するのは、よく聞く話だった。
「人に好かれる才能はありませんでした」
「ははっ、ご両親や先生方からの受けはいいけども」
「では同級生からですね。……せ、先生からはいかがでしょう」
思慕を宿した瞳。
おっかなびっくりと聞く問い。
勘違いでなければ、好かれてはいるのだろう。
よくある錯覚だ。
こっちだって愛着こそある。
しかし大義名分も、この先まで好かれ続ける自信はなかった。
「いい生徒だよね」
「ですか……」
申し訳ない。
僕がもう少しだけ、人との距離感に明るければ、彼女を笑顔で卒業させられたのかもしれない。
「高校では上手くやれるさ。辛かったら通信でもなんでも、案外どうにかなるものだよ」
「他人が、気持ち悪いんです」
「僕も?」
「先生は……違います」
それは区別か。
同じことをやっているよ、と傷付ける言葉が真っ先に浮かんで消した。
ふっとタバコの煙を吹きかける。
「あ、もう……さいあく」
不本意ながら、彼女が一番笑顔になるのが副流煙だ。
いつだったか、スパイス系の飲料を飲んだときにも、臭いと言われて息を吹きかけたっけか。
……あれはセーフだよなぁ。アウトかなぁ。
「最初はみんな嫌うんだよ。俺もそう」
だから、境界線を越えると変化に脳が慣れる。
その状態を徐々に心地よく思えてくる。
何もないことが不安になる年頃になった。
「いや私は今でも嫌いですけど。通報しますよ?」
「えっ!? いやー、まいったな」
うん。タバコ美味い。全部忘れた。
……この羞恥心に慣れた先が、弄られキャラだったりするんだろうかね。