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礼儀

「--ということで、螺鈿の技術というのは、世界的に注目されている」


 螺鈿(らでん)細工は、貝の殻を使った日本の伝統技法だ。いわゆるテキスタイルの分野にあたる。

 金箔とはまた違った、青白い光沢を持っているそれは、パールを産む牡蠣の性質に近いと、僕はイメージしていた。要するに、身に纏う中でも、着衣する宝石といって差し支えない。

 単純に光沢があるわけではない。それは自然由来の素材であることが重要で、樹脂加工されたものではないことから注目されている。


「本日は、お話を聞かせていただき、ありがとうございました」


 そう言って席を立つ。貝田さんから、伝統文化を背負う方からの話を聞ける機会は貴重だ。昨今では後継者不足にも目を向けなくてはいけないが、彼の運営する会社にはしっかり若い人も参入している。


「今日は誘ってくれてありがとう」

「とんでもない。今日は来てくれてありがとう」


 友人である出雲さんにお礼を述べると、謙遜といった形で、寧ろお礼を返された。

 その気持ちも分かる。貝田さんこそ気のいい人で、昼休憩にはラーメンをご馳走してくれた。その塩ラーメンがまた、玉ねぎの味がよく出ていて甘味が強く美味であったのだが、その話は別として。

 出雲さんの知人との繋がりで紹介された、という背景があっても、自身の仕事を、どこの誰かも分からない相手に聞かせるというのは、誇りがあるからこそ出来ることだ。自社ブランドを広める意味では当然の対応と考えられるからこそ、ハイブランドとして活躍する、今の位置を獲得できている。

 戦略的であり、礼儀を兼ね備えている。僕なんか、襤褸がで続けたが、嫌な顔を一つとて見せなかった。


 故に彼女は緊張したのだろうし、頭数があればそれだけ自らを大きく見せることができる。焼石に水ではあるが、ないより良い。彼女の人柄を見せるため、といえば聞こえをよくはし過ぎているが。

 同時に僕達に恩をうることも出来る。勉強する機会を作り出してくれたのだから、僕達は彼女にお礼をしなくてはいけない。


 同じことを思い至ったのだろう、同行者の片割れである阪本も礼を告げる。僕と違うところは、遊びに来た、という気持ちが半分にはあるところだろう。それも悪い意味ではなか、楽しんで話を聞けると言う勤勉さからくるものであった。


「またこういう機会があればぜひ」


 名前を覚えることから始まる。こうした機会をただ記録としたら残すべきではない。実践として覚えることが必要とされる。大切なのは、尊敬と礼儀だ。人と繋がるためには臆病ではいけない。もちろん事前準備こそあるだけ喜ばれるが、用意していないことを行動しない言い訳として使うべきではない。

 今日は大変、恥をかいた。次に活かす必要がある。実践を繰り返す中で、指摘する人も、おおらかに受け流してくれる人もいる。しかし最後には結果として返ってくるだろう。


『クリムトの書き方は非常に記号的だ』


 貝田さんは語っていた。好みを覚えて、背景を知ることが必要となる。

 ピエト・モンドリアン、クリムト、ミュシャ。芸術家に関心が強いのであれば、話題として覚えておく必要がある。


 これも礼儀だ。相手に届くかどうかはともかく。思いつく、自分のできることはなんでもやること。見返りは期待するものではない。それでも積み重ねることは、己のためとなることを念頭におかねばならない。他人のためではないことを、理解しないことには利己的な行動となり信頼は得られないということだ。

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