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年齢差

「デートねえ」


 下調べはした。無難に、食べて歩いて話すというくらいだ。余裕があれば遊ぶくらいか。

 相手は高校一年生のガキンチョなので、大人らしいことを求められているのであれば、ドライブ一択だが。


 ……そのガキンチョと付き合ってる俺は一体どうなっているのだろうか。

 いうて10差だったか。相手があと4年もすれば成人になり、落ち着くとは思うものの。感覚的には子守に近い。手を出すわけにもいかんし。向こうからはやられたい放題ではあるものの。


 真剣な交際ではあるし、保護者からも認められている。職質されようが、あるていどはどうにかなる。それでも自らを戒めてしまうのは、一重に相手との自立状況の差だろう。社会に出て経験する、生きるだけでもかかる税金の苦しみを、子供に理解しろというのも変な話だが。

 まあ、成績は良い子だし、俺なんかに心配される必要もないとは思う。働きたくないと駄々をこねるならまだまだ子供と見てやるしかないだろうけど。専業主婦に専念するなら、まあそれも一つの道だろう。俺だってそれなりに稼ぎはある。


 この年になって、恋愛なんて単語で、すでにお腹いっぱいな訳だけど。高校のクラスメートたちはすでに何人か結婚を始めているし、なんなら子供だっている。

 自己否定するつもりはない。時間は平等で、俺には俺の積み重ねがある。彼らにはない俺の時間があって、無駄な人生を過ごした気はない。……いくらか改善案は浮かんでも、それは今後に生かすべき課題でしかないし、時間は巻き戻らないのだから。


「あ、いたいた。おまたせー!」

「おう、暑くなかった?」

「大丈夫! でもちょっと暑いかな? 日がこんなに差してるとはね。……そっちこそ、外で待ってなくてよかったんだよ?」

「あー、その手があったか」

「もう、熱中症で倒れるなんてしないでよ?」

「そっちこそ。水分補給はだいじょうぶか?」

「子供扱いしないで!」

「わはは。心配くらいはさせろ」


 少し涼みに、喫茶店に入る。駅集合で導線を引いているので、これも予定の内だ。


「わ、ここ可愛い。友達と話題になったとこだ。インスタに載ってて、ケーキが有名なんだよ! コウイチはどれにする?」

「コーヒーかな」

「話聞いてた!?」

「……甘いのは苦手だ。カノコは?」

「うーん、私も飲み物だけにしようかな」

「そんな気をつかわんでも。あれとかいいじゃん」

「そう! すごい可愛い! でもあっちのチョコのも捨てがたい……」

「じゃ、俺が向こうで」

「え、ずるい!」

「いやずるくないだろ」

「あ。……はんぶんこってこと?」

「いや、案外好きになれるかもしれない」

「もう!」


 くすくすと周囲に笑われている。まあ、付き合っている風にも見えんか。良くて兄妹、そうでなくても親子だろ。

 半分に分け合って、口にチョコレートの味が広がる。

 濃い。甘さも苦さも。けど、やりすぎってほどではない。しっかりとしていて軽い。珈琲を後に飲むと、口の中で溶けるように後味が引いていく。好んで食べる味ではないけど、雰囲気にはあっている。

 フォークを差し出した手を引いて、次は自分の番だと口を開けて待ち構える姿は、どこか雛鳥を連想させられた。いやまあやりますけど。そこまで若くないぞ……。しかし駄々をこねる方が恥ずいまである。


「ふふふ」

「なんだよ」

「いや、今日はちゃんとデートしてくれるなって」

「牛丼屋もいいとは思うけどな」

「そりゃーそうだよ。……でも私のために、調べてくれたんでしょ?」

「お気に召したか?」

「うむ、くるしゅうない。なかなかお姫様気分」


 でも、と少し間を置いて。耳を貸せと、顔を近づけてくる。


「一緒に入れるだけで全然嬉しいんだよ? ……おうちでえっちなこととか」


 そこまで言って、耳に軽く口づけをされる。


「ばか。まだ昼間だぞ」

「夜だったらいいんだ?」

「……気を使い過ぎだ。俺だって、お前が喜んでくれればなんだって嬉しいさ」

「えへへ、コウイチ好き」

「そりゃどーも。ただ、店内ではちょっと……他の目が気になる」

「じゃ、後でね?」


 意味深に誘惑を重ねてくる。もともと自己犠牲が強いやつだったけど、付き合ってからは自分の身体を対価のように振る舞うようになった。

 不安なんだろうか。俺が離れていかないか。普段と違う、らしくない行動に戸惑っているのかもしれない。

 まあ、おいおい。これから慣れてもらうしかない。少なくとも、俺は長く付き合って行くつもりなのだから。俺自信も慣れて行くしかないだろう。

 もっと自分を大切に。根気よく伝えていこう。


「あのね、わたし今日、おもちゃ使ってみたいな」

「……」


 やっぱり、エロいことがただ好きなだけかもしれない。

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