仮面
「おはよう」
挨拶は大事。古事記にも書いてある。
「え、あ、どうも」
と困惑された。そういえば、道中で声をかけることは初めてだったかもしれない。
気持ちは分かるなぁ。教室以外で誰かに話しかけられると身がまえるの。とつぜんなに?って感じがすごい。
「うん、じゃあ教室でね」
「あ、うん」
少し申し訳なさそうに安心された。
ちょっと傷つくけど、少し慣れた。なんとなく、話すアンテナが違うというか、タイミングじゃなかったというか。そういうって、結構人を寄せ付けない感じがある。
話すつもりはありませんっていうか。
「おはよー」
「おー、金森じゃん。数学の宿題やった?」
「いやま〜じやばい! ちょっとやったけど終わってなくてさ、教室でやらなきゃなんよ」
「わはは、やってんなぁ。見せたげようか?」
「え、神? 友達やっててよかった〜!」
「おいこら」
こっちは逆に、一緒にいて欲しいみたい。多分なんも考えてない。話せてラッキーくらいかな。声で判別されんのって結構うれしいかも。
なんかお礼は考えとかないとな。あとあとで拗れても面倒だし。ジュースか、お菓子かな。渡すタイミングわかんねえし、今日は適当に一緒に行動するか。
表情と言葉を組み合わせる。おはようは笑顔で、やばいは困った顔で。おいとか、こらとかはちょっとふざけた顔で。
もちろん苦労もある。けど楽しいし、見返りはある。一人になるのは、それはそれでしんどい。
それって嘘じゃん? って言われたこともあるけど、感情が二つあるってそんなに変かな。めんどうもあるけど、友達といると楽しいもあって、今は後者が優先されてる。
まぁ軽く仮面は被ってるけど、そうしたくてしてる。でもそういう、仮面の奥を知って欲しい気持ちもあるし、でも見せたいわけでもなくって。
複雑なんだけどね。一人でいる人は、仮面が邪魔で、息苦しいんだと思う。それはそれでいいんじゃないかな。私から近く分には、困惑はされても、嫌な顔をされるわけじゃないし。
……傲慢かな。もったいないとかも思っちゃうけど、その分だけ自分の時間を大事にしている訳で。少しだけ羨ましくもある。たまに自分の気持ちがわからなくなります。
血液型のせいにしたいよね。AB型が悪い。でもあれって、言われるほど自分からそういうキャラを作っちゃう部分もあるから。まあそういうことにしておこうかなって。