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ころがす

 金属同士が叩き付けられ、火花が弾ける。

 死線をくぐり続けた。いつしか無駄な力はなくなり、気付けば幾度となく戦場へと参列している。報酬は貯まり続けている。しばらくは戦わなくとも、それなりの暮らしをすることができる。


 さりとて傭兵のまま、安定した生活から離れていた。


 考えるのは疲れる。戦場にいれば、それが吹き飛んでいく。

 戦闘狂などと呼ばれてもやむない。感覚が鈍り、武勇伝にしがみつく己という姿が、ただ耐えられぬ。

 なにが英雄か。ひとたび戦場を離れれば、ろくでなしの人殺しだ。


 槍ではない。腕を見る。ついで脚。我が眼は幸運にも二つ、失われずに機能を保ち続けている。土埃と返り血で、多少なりとぼやけたとて、何も問題はない。

 穂先を操る兵士だが、所詮は棒切れ。長ければ強いとは事実に違いなくとも、その分の重さの不利も考慮せずして十全には振るい難き。


 突き、なぎ払い、斜め切り、切り上げ、押しつけ。あといくつかが精々。パターンは単調にして、理がまるで剣と異なるものでもない。だが時折、軌道が変則的であること、隙の小さい連続攻撃というパターンを織り交ぜられては、なかなかに厄介。


 大きく振りかぶれば軽くしなり、鞭の如く。まともに受けてしまえばこちらの獲物が折れかねない。

 全く、これだから戦場は楽しいのだ。


 隙を小さく、踏み込みに虚実を混ぜて翻弄する。細かく獲物同士がぶつかり合う。試すように、舐めるように。時折、あちらが大きく前に出ると、こちらも同じくして軽く受け流し首へと獲物を滑り込ませる。


 鍔迫り合いとなれば、こちらに有利ばかり。払い、合わせて、じわじわと前へ前へ。しかし、引き寄せられてはかなわない。


 兵士が振りあげた。頭上からの振り下ろしを警戒すれば、揚げた勢いを殺さずに曲げる。円を回すか、気付けば下からの切り上げに、上げた剣での防御が間に合わない。反作用からぐっと腕に負荷がかかる。


 槍が叩きつけられる。踏み込み、腹に力を入れると共に、鎧で受け止める。内臓が衝撃から、浮き上がるような冷えこみを主張する。許容範囲だ。力が入りきっていない。速度を重視したか、力を入れる手前に体を差し込めた。


 そのままに、上げた剣先を首元へと押しつける。顎下より突き入れ、失血死も生温い。そのまま脳へ至りかき回す。ガチガチと頭蓋の内側で硬い感触が反響すれば、びくびくと力なく崩れ落ちた。


 手早く剣を回収する。血が吹き出して周囲を汚す。ぬるりと出た刃からは、先ほどよりも強く鉄臭さがこびり付いているが、元より鼻は充満した死臭で満たされていた。

 ガチガチと、震えた顎が音を鳴らす。周囲を警戒すれば、最後の一人を倒し切ったように、他に起き上がるものは確認できない。先程の衝撃による骨振動か、耳も多少だが、音を拾うことに難儀していた。

 身を隠し、座ることもできぬが、一息整える。覚束ない足取りだが、疲労は感じない。身体は重たいが、立ち続けている限りは、脳は活動を続けられる。


「大将首は……あっちか」


 また戦いは続いている。遠くに響く剣戟の音と、男たちの怒鳴り声。二つ確認できていて、片方は味方の旗が登る場所からだった。敵陣にこそ進入できているが、自陣にも潜り込まれたらしい。

 どちらの支援もない。どちらを援護するべきか少し悩んで、敵陣へと脚を向ける。眼を爛々と輝かせ、軽く振るった剣の重みを確認すれば、一歩一歩と距離を縮める。


 さりとて、愚直に最短の道をとってしまうほど命知らずでもない。右耳で音の方向を確認しながら、撤退するならどの道を行くかの目星をつける。運が良ければ、少ない敵を捌きながら大将まで接近が可能で、そうでなくとも後ろや横より、多方面から攻め込める。


「善は急げってな」


 時折、逃げてきた兵士を見つけては、先回りして潰しながら進軍する。全員を相手にはできないが、二人までなら奇襲できればどうにか。まあ逃げるような臆病者をいかに倒したとて、誇ることでもあるまい。


「今日は肉だな。魚でもいいが。鳥でも飛んでいれば挑戦してみよう」


 他人の鍋は、いったい何の肉かわからん時があるからなぁ。味は悪くないが、気分が良いものではなかった。

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