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ふんわり転生令嬢

「そういうの、うぜえっつってんだ!! なんで理解してくれないかな!?」


 ドレス姿の美しい少女が吠える。

 清楚、貞淑、落ち着いていると評判の人物だとは思えない、感情を全面に出して猛り狂っていた。


 これに困惑するのは、暴力的な言葉を押し付けられた王子である。

 公爵令嬢である彼女を迎える準備はとっくのとうに出来ていた。彼女もそのつもりでいたと疑っていなかった彼にとって、この大反対は誤算も誤算である。


 しかし、物事は上手くいかないことこそが常である。とは、彼女から得た学びの言葉だ。

 彼女の心の内を見たのはその一度きり。卑屈で悲観的、最悪より考え始めるのが彼女らしいということを、王子は忘れていた。


(考えなしだった己を恥じるしかあるまい。まさかそこまで、この国の行く末を危惧しているとは)


 学園で、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた平民出身の聖女と、いずれ国の頂点に立つ王子が結ばれることは、もはや誰も疑っていない。

 宗教と政治はそれだけの確執がある。その仲を取り持とうと必死であることに、王子は敬服の念を覚えた。


 一方で、公爵令嬢である彼女の努力を蔑ろにすることなどできない。

 いや、それこそ建前だ。王子はもうずっと前より、彼女のことを誰より尊敬し、愛している。


 説得の一手を確実にしたい。不器用な女だった。才女と名高くはあれど、社交以外で他人と関わることに、どこか怯えを持っている。

 それでも彼女は国のために必死に働いた。内政の一部に関しては、彼女なしでは成り立たないほどに。


 王子以外では彼女こそ、結婚する相手が釣り合わないほどに。このままでは孤高の存在として、人との愛を得ることがなくなってしまう。


 そうさせまいと、彼女の後を食らいついてきた。情念はもはや執着と言えるほどである。そうして学園を学習のための舞台装置としてしか認識しなくなってしまった彼も、静かに壊れていた。


 聖女のことは確かに尊敬しているものの、お互いに恋愛感情こそ芽生えず、それどころか公爵令嬢をどちらが幸せにできるか競う、ライバル的な存在となっていた。

 そうした光景を周囲から勘違いされてしまったのは理解できる。それでも当人同士が望んでない以上は問題ないと片付けていた。

 裏目に出たどころではない。自業自得だと反省する。


「すまなかった! 君の気持ちを理解できていなかった! 彼女とはなんでもないんだ! どうか僕を信じてほしい!」


 行動で示す彼女へと、王子も同じくらいの結果を示した自負を持てた。

 ようやく愛を伝える機会を得ていることで、これまでの苦難は打ち消されていく。


* * * * *


(う……うぜぇーーーーーーーーーーーーーー!!!!!)


 どこまでも食らいついてくる王子に、公爵令嬢は辟易していた。

 なぜ放っておいてくれないのだろう。というか、そんな執着されるほどの関わりも思い出せない。


 初対面となったのは婚約が決まった幼少期のころ。

 向こうより、親から決められた結婚など、知ったことではないとの旨を告げられていた。

 脈なしであることを直接的に告げてきた王子に対して同意の言葉を放った程度である。


 正直なところどちらでもよかったのが当時の思いである。

 公爵令嬢は、前世の記憶を併せ持つ。

 高貴な血族でもなんでもなく、精神はどこにでもいる一般ピーポーである。


 もっといえば、妹の遊んでいたゲームのあらすじと酷似していて、悪役令嬢の位置にいることすら十全に理解している。


 ……それさえどうでもよかったのが真実だ。


 自らは一度、人生を全うしている。二度目の死をそう恐れるものではなく、さりとて自分から死ぬまでのことでもない。

 長い暇つぶし期間ぐらいに考えていた。やれることをやり続けた結果、偶然も仕事して、いつのまにやら要職についていた、くらいの認識である。


 そうして十数年、ようやく公爵令嬢として真面目に生きようかと思案し始めた。元の肉体としての思考が確立し始めたところである。

 それはそれ、私は前世の記憶を持ち合わせながら、今生を過ごしている自覚が強く形成されていった。


 貯蓄も、ある程度は投資に回してはいるものの、自由に使える金額はそれなりに増え始めた。


 そんな折に、遅効性の罠がごとく、王子に目を付けられていたのだ。

 なぜ今なのだと叫び出した次第である。面倒くさいことこの上ない案件である。


 気付けば王子は、人の気持ちを深読みしたうえで、どれだけ罵倒しようと這い上がってくる、生粋のマゾヒストになっていた。

 いろいろあった。学園に入ったと思えば、毒による暗殺だの、化け物退治だの、果ては世界を救うと来たものだ。

 それらを解決しながら勉学に励む姿は、正直ちょっと引いていた。それって、王子が出向く案件なん?


 先頭に役立ちそうな道具があれば売れるだろうと、便乗して金儲けに走っていたころには、王子と聖女の結婚だのと噂が広まっていた。


 もっといえば、王子は社交会以外で声を聞くこともない。ビジネスパートナー程度に考えていたのだが。

 正直、理解不能の愛情が重たかった。こんな恋愛型の人間で、よく聖女とフラグが立たなかったものである。


 むしろ、聖女と結婚させて欲しい。

 外見も中身の可愛らしい、この世の至宝だった。個人的な付き合いもそれなりに重ねていれば、修学支援も問題解決の手助けも、物語のヒントまで提示して、メンタルケアまでこなしたというのに。王子と恋仲である噂にはそれなりに衝撃を受けた。全部かんちがいだったようだが。

 自らの怠惰を呪う。彼女が一体なにをした。なにもしてないんですよねぇ。


(拒否すんの疲れるよーーーーーー! 王子と結婚してしまう未来しか見えない……!!


 いっそ、聖女を正妻に、自分を側室にしてくれれば、ぎり納得できそうではあるのに、純愛100%だった。

 ベッドの上で殺されないだろうかと、今から心配に思うのだ。マリッジブルーで人生病みそうです。


 こ、これだから女の身体はよーーーーーーーー!)


 自己矛盾に吐きそうになる公爵令嬢だった。

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