告白(現代)
「好きです」
クラスメイトから呼び出しを受けて、告白された。
公立の街中にある高校では、体育館裏でも人目がある。広大な立地とは言い難いが、4階建としてそれなりの教室数を確保している。
というのもあって、告白の場所として指定されたのは空き教室のベランダだった。吹奏楽部も、防音を意識してか、中庭のベランダを利用しているのもあり、僕らの話し声は聞こえていない。
そういう、話しやすい心遣いができる人物であることが、僕には好印象だった。
「そう」
とだけ返した。付き合ってくださいとも言われてないから、ぼんやりと返す。
ベランダは、それなりの高さがあって、風が心地よい。教室越しの楽器とメトロノーム、下からは運動部の掛け声が聞こえてきて、沈黙がさほど辛くはない。
それが相手も同じかは分からない。返事待ちのような状態なのかもしれないが、とにかく僕は、たまたまだるい日なのが悪かった。
そういう意味でいえば、間が悪いのかもしれない。後日持ち帰ってから検討させてほしい。そう考えてしまうあたり、そこまで好きでもないのだろう。
顔はどちらかというとよい。少々、背が低いだろうか。見方によっては可愛らしい。
クラスメイト、という言葉よりもう少し掘り下げると、彼女とはたまに話すくらいの間柄だ。
少し前に席替えがあって離れてしまったのだが、たしか僕は窓際の1番後ろの席、彼女はその隣に位置していた。
唯一話しかけるポジションと言っていい。前の席でもいいが、こちらを見ていない相手に話しかけるのは少々おっくうだった。
かといって、何も話さないのも難しい。あー、とか、うーとか、声を出したくなる。
さすがにそのままでは不審者として孤立してしまうので、たまたま隣人となった相手にあいさつを続ける習慣が出来ていた。
そうすると、話す回数は自然と増えた。宿題を見せたり、忘れた教科書を見せてもらったり、そういう貸し借りが起こる度に、ちょっとしたお返しとして飲み物を奢りあったりした。
だからまあ、誰でもよかったのだけれど。そういう積み重ねが、たまたま彼女にとっては恋愛感情へと踏み出すきっかけになったのかもしれない。
「……うん」
たっぷり時間をかけた、彼女からの相槌。俯いた顔は、照れているようにも、泣き出すのを我慢しているようにも見えた。
僕はそこまで鈍感じゃない。自分がそれなりに魅力ある人間だと気付いている。そこそこに、なんでもできる。欠点がないとは言わないけど、言われたことをこなすくらいは出来るのだ。
そうして顔がそれなりだから、告白もこれが初めてというわけではない。もしそうなら、どれだけ緊張したことか分からない。
結果、今も彼女がいないのは、僕に執着心がそれほどもなかったからなのだけど。
居場所がいい場所を探しているのであって、わざわざ作ろうという意識は一つもない。
休みの日を先に家族や友人に誘われたなら、そっちを優先するし、毎日電話なんて考えられない。
ほどほどに、自分の時間を大切にしているわけだが、それはどうやら、「彼女を大切にしていない」ことになるらしい。
もちろん性欲はそれなり持ち合わせているのだけど。なんというか、言いふらされたくなかった。くだらない自己保身だとは僕も思う。
とはいえ、そんなもんだろうとも思う。
普通ではないのかもしれない。けどそれが僕で、気に入ったのは彼女の方。
振って仕舞えば、話しかけにくい人が増えてしまうのは、めんどうくさかった。
適当に付き合って、続けばいいし、だめだったら諦めよう。先延ばしともいう。
そんなわけで。
「うん。……僕と、付き合ってくれますか?」
今日、彼女が恋人となった。