プロフィールと暗黒(ファンタジー)
【あなたの情報を記入してください】
名前【【あなたの情報を記入してください】
というアナウンスに顔を上げる。なんならテロップが視界に浮かんでいる。
メガネに文字を書いたらこんな感じだろうか。視界情報をさえぎるので、まあまあ鬱陶しい。目を閉じても浮かび上がってくるので、このまま寝ようにもストレスがかかる。
……とはいえ、慣れてきた。
最初こそ戸惑ったものの、時間経つとそういうものというか、文字の羅列をぼんやりと認識してしまえばそこまででもない。慣れってすごいな。
ええ、というかなに? 役所ですか?
だだっぴろい空間もなにも真っ黒ですけど。自分の姿だけはやた鮮明に見えるのが気持ち悪いんですけど。
こういうところ、運営がさぼっちゃあかんよ。設計ミスだろ。
まあ黒いだけましか。白いと目がチカチカしそう。ちょっと落ち着く。
よく考えたら空腹感も眠気も感じないんだわ。え、疲労も? わりといい場所だな。
何もないことだけが不便だけど、どれくらい待機してられるのか気になるな。尿意とか便意とかもないんですか? それって完全体やん。死ぬこともない。これが不老不死か。
あーでも、おかしくはなるのかも。かな。でもストレスをそこまで感じない。そういう作りになってる。極論だけど、思考を停止したまま、むこう百年くらい過ごせそうじゃないか?
やってみるか。まあものは試し。
どうしても暇になったら、いちおう体は動かせるし、なんか記入形式だからか、メモ書きは出来る。
さすがに出たくなったら出るけど。どこまで我慢できるかな。それって辛い目にあったりするよりも選ぶべきかなぁ。ここが人間力の分水嶺だ。
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そうして、百年が経った。しらんけど。
太陽がないんだよな。酸素もない。呼吸も必要ない。生きる要素がない代わりに、死ぬ要素も排除されてる。がんばれば自傷で死ねるかもしれないけど、治るんだよね。
一度、爪がひっかかって傷が出来たけど、秒で元通りだもん。試してないけど死んでも生き返りそう。まさに生き地獄ではあるなぁ。なお痛みはある。しかしそれも最近ではぼんやりしてきた。
私はだれ? みたいに思うかもしれないけど、そうなったとてなのよ。
あ、あなたの情報を記入しろってそういうこと? 自我が薄くなる系? でも俺しかおらん世界で俺を記入しても差別化もなにもないのよ。どうしろってんだ。
【決定】を押せば変わるんだろうけどね。ちょっと暇つぶしにノートがわりに使っちゃったから、名前の項目がじゅげむどころじゃなくなってるんだよな。こんな裏目があるとは。上限つけときなよ流石に。ピカソがここに来たらまあ困りそう。そうでもないか。ピカソで通じるだろ。
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ありとあらゆる動きをしてみた。
というか年単位のフルマラソンですらできる。俺すごい。
四歩で一秒だと換算するなら、一万年を超えた。その間ずっと走ってた。頭の中が流石に歩数カウントで埋まってたけど、やれるもんだね。
寝てても走ってても変わらんし、重力もそこまで感じない。むしろ自分の動きを止めるのが一番面倒まである。そうなるともう、走ってる感覚ですらないんよね。自転車よ。
外の世界はどうなってるのかな。
そもそも外なんてあるのかな。
黒一色の世界が快適すぎて、苦労をした年月を優に越してしまった。
そろそろいいかもな。十分引きこもったし。苦労しても死んでもいい。ていうかこの世界でなんかいか死んでみた。多分死のうと思ったらいける。嫌な決意だな。我ながら。
このままだと外に出た瞬間、呼吸するストレスで死にかねんけども。無呼吸最高なんだが。
えーと、走り続けられる限界が、49.195キロだっけ。うわぁ人間て脆いなぁ。ごみじゃん。】
「まずはこれを消す作業から入るのか」
おおよそ一万年と二千年分のメモ。一括で消させてくれよ。なんでそこだけちょっと不便なのさ。
今に限ったことではないけど。UXが終わってるんだよね。




