にんにくを剥く(現代)
強烈な匂いが鼻についた。締め切った倉庫で、若人が出荷用のにんにくを処理している。
一人は皮を剥くための切れ目をつけ、一人は土の付いたひげ根を切り落とし、残った三人は汚れを落とすべく、皮を向いて土汚れを落としている。
これも前段階だ。後日に、出荷するための網詰や、土が付いてないかのチェックを再度行うことになる。
にんにくといっても、ねぎの一種である以上、切り込むたびに粘膜へのダメージを受ける。
最も過酷なのは、ひげ根をハサミで切り落とす男。本人も髪の毛がグリーンなのは、とくべつにんにくの葉を意識してのことではない。
彼はマスクを二重にすることでなんとか耐えていた。
そう、俺である。
アレルギーは辛い。まわりの奴らは平然とした顔でにんにくを剥いている。なんでなん?
みんなで請け負う業やないの? ノーマスクで済むダメージなん?
そんで俺がどうしてひげ根を切る係なん?
そりゃ最初に引き受けたのは俺やし、一回交代を持ちかけられたのを断ったけれども。
俺、なんでなん? いやまじで不思議。
今からでも変わってくれるかな。
どうだろう。ちょっと顔見るか。ロン毛やなぁ。顔が見えへんねん。きれやぁ!!
「そんでお兄ちゃんはレジ通す前にジュース飲んでて」
犯罪やん! 平気な顔して言ってるけど、ええのそれ!?
あ、レジでちゃんとお金払ったんや。でもそれ万引きした後に「金払うから許して」となにが違うん?
シンプルにやばいやつが身内におるなぁ。それにんにく作業中にする話やろうか。
「あんたのお兄ちゃん、パン屋でパン食べてたらしいで」
普通やん。でも話の流れ的に、レジ通してないやん。
こわない? お兄ちゃん常習犯やん。捕まってないの?
「いや、あれは俺が子供の頃の話やから」
お兄ちゃんおるやん。平気な顔で自分の犯罪歴を解説するやん。
あ、お父さんが謝ったんや。大変やな。まあ大変なお子さんを持って。
そんでいい加減つっこみたい。けどマスクが邪魔でなんもいえへん。
「モゴモゴ……」
「へー! そうなんや! はは……!」
つっこめやぁ! モゴモゴ言うてんねんぞ!
べつに言いたくて言ったわけやないけど、スルーはちょっと悲しいだろ!
嘘でもちょっとは構わんかい!
「そんでお父さん、新しく子供欲しいねんて」
十分や! 十分苦労してる!
そんでなお子供ほしいて、教育の失敗を確信してるやん!
次の子に全愛情注いだろうという気がありありやん!
ていうか元気やな! いくつやねん!
「子供の前に、結婚に向いてないのになぁ、ははは」
「ほんと、すぐ別れるのになぁ。母さんは今どうしてんのやろうなぁ」
「モゴ……っふう! センシティブやなぁ! 家庭の話が重過ぎんねん! レディコミか!」