その体、いただきます(現代・少しSF)
「私の身体を返して!」
少年が叫んだ。背は高く、健康的だ。どこか幼く見えるのは、不安に揺れる表情のせいか。
受け止める少女は飄々としたもので、少年の主張の一切を気に留めていない。大人びた雰囲気を持つが、身体はベッドに預けたまま、口だけで返事をする。
「はて、何が不満なのかな。健康な体があればいいと、散々に言っていたというのに」
「あなたの体が欲しかったんじゃない! それに、このままじゃ、死んでしまうよ!」
「そうだね。でも大丈夫。ことの顛末は両親にも話してある。僕と君、両方のだ。生活のことに関しても、社会的な保障は受けられる。せいぜい頑張って」
ちょうどよかった。死にたいと生きたい。それぞれの利害が一致するであろうに。むざむざと手放そうとするのだから、変な話だ。
保護者や医師、弁護士といった大人たちは、なんと声をかけたものかを迷い続けている。
感謝はした。謝罪もした。保障の約束もした。
しかし本人が拒否をするとなると、それらが崩れる可能性もある。
なるようにしかならない。縋るように、願うように。沈黙を選び続けた。
少女は説得を続ける。
「運動でも勉強でも好きにするといい。自慢じゃあないが、容姿だってそれなりだ。……異性であることだけ申し訳ないね」
「いらない、いらない! 嘘つき……!」
そっと顔に触れる。そうでなくても痛む身体だと経験している。
それでなお触れたのは、少しでも生きるために、感覚を伝えるためだ、
「あなたが幸せにするって言った! だから私はうなづいたのに! うそつき! うそつきぃ!」
「……そこはまあ、騙される方が悪いんだ。ばーか」
弱々しく笑う息が漏れる。
「この先、そんなやつばっかりだ。それでも、君には素直でいてほしい」
わがままだけどね。
言い終えられたか、定かではない。頭が音を認識しない。泥に沈むように体が重い。
といっても、この体は砂遊びさえしたことがないのだが。さいごに笑って、人生を終えた。