けむりをはく(現代)
「キツネと女を夢に見るんです」
「へえ」
「そりゃ豪華な」
男と女と女。うしろ二人は、よく似ていた。
肌寒い季節、屋外にある喫煙所で、ふかしては寒さをまぎらわす。
「ソシャゲの話?」
「古文かもよ。玉藻前とか人気だよね」
「? ソシャゲじゃん」
三人以外にもひとはいる。会話もちらほら聞こえるが、お互いの話に耳をそばだてることもない。
半透明な壁があるように感じるのは、紫煙のおかげかもしれない。
吹けば飛ぶであろう空間が揺蕩っている。
「まあ、似たようなもんですよ。かわいらしいですね。ずいぶん」
「おやビンゴですって」
「それはまあ、縁起のいい夢じゃないですか」
「そうですね。といっても、人形なんですけど」
灰を生垣に落とす。さいしょこそ罪悪感をもっていたが、管理人まで落とすところを目撃した以上、だれに怒られていいのか分からなくなった。
せめて吸殻くらいは、中央の吸殻入れへと処理している。後ろめたさは1割くらい。
隣人へと目を向けると、不審者を向けるものへと変貌していた。
「ケモナー……」
「人形編愛症……」
たいへん不名誉な呼ばれ方である。いや、感じ方は人それぞれだけど。
どこに向けて謝っているのか。
「いいんですけどね。どうでも」
「「ひらきなおった……」」
二人の女はそれぞれ、携帯している小型の人形を守るように、体の後ろへと隠した。
まず守るべきはヤニくささではないのか。肺に溜めずに、煙を漏らす。
「お二人は金縛りにあったことはありますか」
「え、わたしはないけど」
「うそ、わたしはあるよ」
「綺麗に別れましたね」
ふたごですから。と胸を張る。おかしくなった。「ひ」「ひ」「ひ」。
「その話し方だと、そういう夢を見たんですね」
「結構怖いよなぁ。わたしだと、強盗の夢だったこともある」
「あるあるなんだ……どうせなら幸せな夢を見たいところだ」
「参考までに、どんな夢がお望みでしょう」
問いかけに、数秒の間が開いた。
魔がさしたようだ。
「ふー」
「うぇあ!? なにごと!?」
「はは、耳で吸うたばこはどんな感じ?」
「健康被害で訴えたいところ」
仲が良くてたいへん結構なことだ。
「それで、思いつきました?」
「全部吹き飛んだ」
「そうでしょうねえ」
クスクス、と笑い声が聞こえる。
予鈴が響く。休憩はおしまい。
「今日はよく、眠れそうだ」
起承転結とはなんぞや(吐血)。