僕のセリフ
「王に会う前にして頂くことが、2つあります。」
長くて、広い廊下を歩きながら、特務番外隊副隊長ロイター=ルア=ジーニアスが言った。
牢屋の看守なんかしてたから、下っ端なのかと思いきや、意外に偉かったようだ。
特務番外隊がいかなるものなのかは、良く分からないけど副隊長と言うくらいだから偉いのだろう。
それに、話していると非常に聡明な印象を受ける。
まぁ、名前に天才とかついてるしね。
「まず、シャワーを浴びて、用意した服に着替えてもらいます。」
まぁ、そうだろう。自分自身でちょっと臭うな、と思っていたところだ。
というか、この世界シャワーあったんだ。
「そして、その後に役割の部屋に入って頂きます。」
役割の部屋?なんだそれ?
意味が分からず、立ち止まってしまった自分をよそに、副隊長さんはスタスタと歩いて行ってしまう。
「あの、ロ…ロイターさん!ちょっと待ってくださいよ。何ですか、役割の部屋って?」
前を歩いていた副隊長が、歩調を緩めながら、こちらを向いた。
少し小走りして、隣に並ぶ。
「ロイでいいですよ。」
そう言って微笑んだ副隊長…ロイさんから、今までと少し違う印象を受けた。
「そうですね。シャワーを浴びた後、着替えている最中にでも話しましょう。」
ロイさんは、またもとの歩調で歩きだした。
驚いたことに、この世界のシャワーは元の世界のものと、ほとんど変りなかった。
やはり、魔法は使われているようだったが、違和感なくとても快適だった。
脱衣所でロイさんが服を持って立っている。
いつのまにか、鎧の上から赤いマントを羽織っていた。
「これが騎士の正装なんですよ。」
こちらが質問するより前に、答えが返ってきた。
「役割の部屋の説明でしたね。」
ロイさんの説明によると、その「役割の部屋」とは異世界からの来訪者のための部屋であり、その部屋に入ることで、魔力の覚醒やその属性の判明、さらにはこの世界に召喚された目的が知らされる。
つまりは、この世界においての自分の役割を知る部屋。「役割の部屋」
そのまんま。
「まぁ、通常は勇者として世界に希望をもたらすことが、召喚される異世界人の役割なのですが。」
人々に希望をもたらす=魔王を倒す。ってことになるわけか。
そしてその役割を全うしたものは、元の世界に帰ることができるらしい。
「しかし、あなたの場合は異例ですね。もうすでに勇者は存在してしまっている。」
そう、九条は勇者として迎え入れられたと聞いている。
ならば、当然彼もその役割の部屋に入ったはずだ。
「正直、私は楽しみなんですよ。あなたにどんな役割が与えられるのか。もしかして、2人目の勇者なんてことになったら、すごいことですけど。」
部屋を出て、廊下に出る。
「さぁ、いきましょうか。」
マントをなびかせ歩くロイさん。さっきよりも意気揚々としている。
「ここです。」
何回も角をまがり、ようやくたどり着いたその場所には。
「意外に普通なんですね。」
特に大きいわけでもなく、派手な装飾などもされてない鉄の扉があった。
「ここから、私は入れません。」
そう言ってロイさんが一歩下がる。
なんとなく、心臓の音が近い気がする。緊張しているようだ。
静かに息を吸い込み、そして吐く。
ちょっとだけ勢いをつけて、冷たい鉄の扉に手をかけた。
広がる真っ白な世界。期待を裏切らない王道な雰囲気。
「汝が力、目覚めの時なり。」
セオリー通り、頭に直接語りかけてくるような声。
力が流れ込んでくる?いや、湧きあがってきてるのか。
「火、水、風、地、雷、光、闇。魔の力、これら7つのいずれかに属し、火に近きもの水から遠く、光に近きもの闇から遠し。汝の力、これらの如何なるものに属するものか。」
この属性の判明が終わったら、次は役割。喉が鳴るほど唾を飲む。
「つまり、主には魔力の属性も無ければ、この世界における役割も無いと?」
今、自分は王の御前にいる。
「はい。」
なんと言っていいかわからず、ただ返事だけした。
属性の判明をしようとしたところで、一向に声が語りかけてこなくなった。
「…嘘。」
「へ?」
「うそぉ!無いよ。無い!属性無いよこの子。え?こんなことあるの?!いやでも…やっぱ無いよ。無い。ビックリだよ。ホント。」
ようやく喋りだしたかと思えば、さっきまでの厳粛な雰囲気はどこかへ吹き飛び、えらくその声はテンパっていた。
他人の頭の中で。
「あのぉ。無属性ってことですか?」
「無属性?無属性…そうだ!それでいこう。君…間違った。汝は無属性!」
「いや、もうなんか色々おかしいんですけど…まぁいいです。それで、役割は何なんですか?」
「え?」
「いや、だからこの世界に召喚された目的は?」
「…」
「?」
「そんなものは、わかりません!」
そうして、物凄い力に押され鉄の扉から転がり出てきた。
そのことを今、あらいざらい王に報告したところだ。
「信じられん…なんということだ。」
それは、こっちのセリフです。