僕の知り合い
「すごい。ホントに間に合ったよ。ありがとう。マサトはここで待っててね。」
そう言って、レナが背中を飛び降りた。
膝をつき倒れこむ。
洞窟の石畳を走り続けること1時間程。階段を上り続けて30分くらい。
レナが予想した時間の半分くらいで、目的地にたどり着いた。
いくら身体能力が上がっているとはいえ、正直なところ過酷だった。
息をするたびゼェゼェ音がする。
夜の澄んだ冷たい空気のせいもあり、汗だくの体から湯気が上がっているのがわかる。
とはいえ、こんなことを可能にしてしまう自分にも驚いていた。
自分の体じゃないみたいだ。
まぁ今回は、大きな不可抗力もあったけど。
背中の感触とか。
顔を上げてレナの向かった方向を見る。
この世界に来てから、驚かされてばっかりだ。
まさか、これほどの数だったとは。
レナと同じ格好をしている若い女の子たちが、ざっと千人くらいか?
なんにせよ相当な数だ。正直、圧倒される。
さすがに、その中に入って行くわけにも行かないので、木の陰に隠れながら遠巻きに観察させてもらう。
幸い、視力も上がっているようだ。よく見える。
勇者召喚の儀式。
それはつまり、自分以外の人間がこの世界に召喚されるということ。
何とも言えない気持だ。
30分ほどしただろうか。
巫女さんたちのよくわからない呪文が続いてる。
空を見上げるとすっかり月は消えていた。代わりに満天の星空。
元の世界では見たことのないような星の数。手が届いてしまいそうだ。
なんてベタなことを思いながら、それでも夜空に手を伸ばしてしまう。
届くわけない。なにやってるんだか。
少し、自嘲気味に手を下すと。
空に穴。
一面に広がる星空の中で、全く星のない場所がある。
まるですべてを呑み込んでしまいそうな穴。
自分の掌を見つめる。
いや、まさかね…
気がつけば、巫女さんたちの呪文のようなものも止まっていた。
広がる静寂。
そこで、自分が星を掴んでしまったのではなく、この空の穴は勇者召喚の儀式によるものだと理解する。
そりゃそうだよな。ちょっと、ビックリしてしまった。
空の穴の中の闇が渦を巻き、中心部から細い光が出てくる。
祭壇の中心を照らすように差し込むその光は、次第にその輝きを増していき直視するのがつらくなってくる。
閃光。
一瞬のうちに、そこにいる誰もが目を逸らすほど光がはじけるように広がり、消えていった。
視線を戻し、祭壇の上を見る。
祭壇の上に誰か立っている。
光で眩んだ目を凝らして見る。
身をおぼえのある上下黒の服。濃茶の髪。長身に小さな顔。
遠目に見てもわかる美少年の雰囲気。
そこに立っていたのは、
誰も関わりたがらない自分に話しかけ、進路調査用紙を渡してくれた男。
「九条…なのか?」
九条直哉。
「九条!」
たまらず、走り出している自分がいた。