僕の初陣
試しにティッシュにパジャマに付いた液体を擦りつけてみた。
そして、オイルライターの火を灯す。
ティッシュに近づけると、見事に火が燃え移った。みるみるうちに灰になるティッシュ。
やっぱり。
この覚えのある臭い。灯油やガソリン。つまり石油系の臭い。
これが、あのイモムシの体にどういう訳かべっとり付いてるってわけだ。
あいつの体液なのだとしたら、とてつもない弱点だけど…まぁこのさいなんでもいい。
要はあいつの体は燃える。
それで、十分だ。
パジャマの上下両方とも脱ぎ、ズボンを縦長に折りたたむ。
裾の方に結び目をつくり、重石にする。
つまり、ぶん回して投げやすいようにしたわけだ。
そして、未だ壁に突進を止めないイモムシに向かって叫ぶ。
「おい!イモムシ!どんなにデカかろうとなぁ。イモムシは人間様に虐げられるって決まってんだよ!」
イモムシがその意味を理解したのかは、わからない。
しかし、こちらに向かって低く唸り、威嚇している。
このとき、レナの目に自分はどう映ったのだろうか。
見上げれば月明かりを背にパンツ一丁で、巨大イモムシを挑発する男。
ズボンの結び目の方に火をつける。
何かを感じたのか、唸っていたイモムシが大きく咆哮した。
待ってたよ。そのでかい口を開けるのを。
飛び降りて、イモムシに向かって急降下する。
レナが手で目を塞いだのが見えた。
そんなものが目に付くほどに不思議と自分に余裕があるのがわかる。
タイミングを計り、火のついたズボンをイモムシの口にぶち込む。
かろうじて、口の中に入るのを避け、イモムシの体を転がり落ちる。
地面をごろごろ転がったけど、なんとか無事に着地できた。
口の中に火を入れられたイモムシは、一瞬動きを止め。高い声を出した。
さっきまでの咆哮とは違う。
これは、悲鳴。
この燃える液体がイモムシの中から出てるものなのか、それとも外部から付いたものなのかはわからない。
だったら、中と外。両方に火をつけるだけだ。
苦しみのためひどく暴れている。どうやら、こいつの中は火炎地獄のようだ。
気づいたことがもうひとつ。
こいつは頭の方はよく動くが、しっぽの方はほとんど動かない。
これなら、激しく動いている頭を遠回りすれば、難なく接近できる。
射程圏内に入らないように、注意しながら徐々にしっぽに近づく。
今度は、パジャマの上着に火をつけイモムシの体に、ふわっと被せるように掛ける。
一目散にイモムシから離れて距離をとる。
そして振り返ると、まさに火だるまになったイモムシが一度だけ大きく天に向かって体をピンと伸ばし、そして地面に倒れこんだ。
勝った。本当にできたよ。
正直、自分でもびっくりして、体が熱く感じた。
「マサト!」
岩陰に隠れていたレナが近づいてくる。
「やった。やってやったよ!あいつ丸焦げだ!」
「マサト!やばいって!」
「へ?」
「パンツ。燃えてる。」
体が熱く感じたのはパンツが燃えていたから。
あぁそうか、イモムシの体を転げ落ちたしなぁ。液体も付くよな。
火が移っちゃったんだんぁ…
………………
「やばいよ!どうしようレナ!」
レナが手を組み、ぶつぶつ言いだす。
「われの中に流れる命たる水よ。われの声にこたえ応じその力を示せ!」
「アクアレイド!」
突如、大きな水の塊が押し寄せ。体ごと吹っ飛ばされた。
「あの。レナ。火を消してくれるだけでよかったんだけど」
正直、イモムシに喰らった一撃より効いた。
「ごめん。なかなか、加減ができなくて。ほら、攻撃魔法だし。」
攻撃魔法使えたんですか。なぜ今まで岩陰にいらっしゃったんですか。
「でもすごいよ。マサト!本当にあの怪物倒しちゃうなんて。」
そう言ってキラキラした瞳で見つめられると、何も言えなくなる。
というか、すごい照れる。
無邪気に笑うレナを直視できずにいると、いきなりどこからか光の球が現れた。
レナが光の球を取り、耳に当てる。
「はい。はい。こちらは問題ありません。わかりました。すぐに向かいます。」
この世界の通信手段か。便利なもんだな魔法って。
「どうしたの?」
「あと、数時間で勇者召喚の儀式が完了するらしいの。それで、役割を終え次第、援助に来るようにって。」
「間に合うの?」
「う~ん。たぶん無理じゃないかな。さっきも言ったけど、ここを出るまでに3時間はかかるから。正直、この仕事を終わらせて、援助に向かうと点数高いんだけどね。」
「巫女さんの世界にも色々あるんだ。」
「まぁね。」
一拍の沈黙。そして、レナが何か思いついたような顔をした。
あまり、いい予感はしない。
「ねぇ。まだ体力余ってる?」
答える間もなく、レナが背中に飛び乗ってきた。
「走れー!マサトー!」
なるほどね。身体能力の飛躍的に上がった自分なら、確かに間に合うかもね。
……なんて素敵なアイディアなんでしょう!
背中にレナを感じる。
「残念だなぁ。マサトが勇者なのかと思ったのに。」
「なんか言った?」
よく聞こえなかった。かわりにレナがより強くしがみついてきた。
……生まれてきてよかったです。
やっぱり表現力が足りないせいか、うまく戦闘シーンが書けませんでした。