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僕の物語  作者: ままごと
15/22

僕の就職先

「全く野蛮な人だ。いきなり攻撃してくるとは。」


物が散在している部屋の中、少し傾いた椅子に二人の男が自分の前に座っている。


「ロイが悪いんだろ。いきなり殺すなんて言うから。」

「まさか、言った瞬間に暴れだすとは思わなかったもので。」


部屋に舞う煙のような埃のようなものを訝しげに手で払っている。


「だけどさ、マサト。あれどうやったんだ?ほら、最初の魔法。」


ギルが突拍子もなく質問してくた。


「最初の魔法って?」


ロイが自分を殺すと言った直後に牽制として放った魔法のことだろうか。


「確かに、いくら魔力が強いとはいえ低級魔法しか習得していないあなたには、とても出せる威力では無かったですね。」


目眩ましのつもりで、火の魔法の中でも最も低級な火の玉をだし二人の直前でそこに風の魔法を送り込むことで急激に燃焼させ、小爆発を起こしたのだが。

それを、説明すると二人はかなりの動揺をみせた。

薄々感じていたことだが、この世界は科学の発展が全くといっていいほどない。

皆魔法は使えるが、それの原理をあまり理解していない。

よって、火が燃えるには酸素を要することなんて知らないのかもしれない。


なんて、考えていたのだが二人の驚きは全く別のものだった。


「マサト。お前、2つの属性魔法が同時に使えるのか?」


話を聞くに、魔法使いには二つのタイプがある。

単属性のものと多属性のものだ。

ギルやロイは単属性。ギルは雷。ロイは風。といったふうである。

それに対しレナのように水と光と地といった複数の属性を持つものを多属性というらしい。

お決まりのようだがこれら属性には優劣関係がそれぞれあり、簡単にいうとジャンケンみたいになっている。

火は風には強いが、水には弱いとかそういうものだ。

そして、その属性は強化魔法(レジスト)にも影響し優劣関係によっては、受けるダメージが半減したり、倍増したりといろいろある。

と、ここまではすでに自分も魔法を習う上で聞いていたことだった。

ちなみに自分は無属性。すべての魔法でみな同じようにダメージを受ける。

長所も短所も無い。非常に残念な状態。

では、多属性の者が圧倒的に有利かというとそうでもないらしい。

これは、知らなかったのだが多属性の者でもそう簡単にいろんな属性の魔法が出せないらしい。

つまり、火の魔法を使うとき自分は火の属性になり、同時にレジストも火属性になる。

もし、他の魔法を使おうとしてもどんなに熟練した魔法使いでも属性の変換を行うには10秒はかかるようだ。

つまり、違う属性の魔法を同時に出すことは出来ないということになる。

よって、多属性であったとしても、一つの属性を極めるものの方が多いそうだ。

そこにきて、無属性の自分は何の魔法を使っているときも属性は無し。レジストも同様である。

その代わり、異なる属性の魔法を同時に出すことが出来るわけだ。


「無属性にこんな長所があったとは、驚きですね。」


ロイはふむふむと、感心するようにうなずいている。

ちなみに、勇者の九条の属性を聞くと、光と火と雷といった。勇者三大属性が揃っているらしい。良いやつなんだが腹が立つ。


「話を元に戻すけど、何で殺されなきゃいけないんだ。」


壊れた窓から外を眺める。

城下といえ夜は静かだ。

そのかわりに空には星がこれでもかといわんばかりに輝いている。


「マサトにはある条件を呑んでもらわなきゃならない。それを拒否された場合俺達がマサトを始末しなければならなくなったんだ。」


ギルがまっすぐこちらを見て話し出す。


「条件って?」


呑まなければ殺されるような状態だ。ある程度のものなら快く受けよう。


「あなたには死んでもらわなければなりません。」


自分が行動を起こす前に、ギルがロイの頭を引っ叩いた。


これは、めずらしい光景だ。


「違うんだ。マサト。死ぬっていうのは、書類上で死んでもらうって事なんだよ。」


ギルは早口で言い終える。


「ふざけるのはやめにして、まじめに話しましょうかね。まず、この世界においてあなたの役割が無いということはわかっていますよね?」


はたかれた頭を摩りながらロイが話し出す。


「ああ、わかってるよ。普通じゃないんだろ。」


役割の部屋の「声」も相当驚いていたしな。


「そうです。普通じゃないんですよ。あなたが思っている以上にね。」


ロイの瞳がこちらを見据えている。

正直吸い込まれそうだ。


「あなたは、異世界から召還されたものに必ず役割が与えられるのだと思っていませんか?違うんですよ。この世界に生きるものは、生まれつきすべての人間が役割をもつシステムになっているんです。王の息子は王。騎士の息子は騎士。金貸しの息子は金貸し。パン屋の息子はパン屋ってね。」


パン屋の息子が皆パン屋になったら、町はパン屋で溢れ返ってしまうのではないだろうか?


そのことをそのまま口にしてみた。


「鋭いですね。確かにそうです。だから、次男から下は皆、傭兵団というものに所属することになります。そこで能力に応じて様々な仕事をするわけです。」


ロイの話を聞くに傭兵団とは要は元の世界の警察のようなものらしい。


「じゃあ、女の子はどうするんだ?」

「女性は一定の年齢まで自分の家で過ごしますが後に皆、巫女になります。」


そして、能力に応じて様々な仕事に就くわけか。

つまり、長男は家業を継ぎそれ以外は、男だったら傭兵に女だったら巫女になるってことか。

確かに、このシステムならすべての人間に役割があることになる。


「村人Aは死ぬまで村人Aってわけか、これじゃいよいよゲームの世界だな。」


壊れた窓から町を見た。

何故だかさっきと違うように見えてくる。


「何か言いましたか?」

「いや、じゃあ、役割を持たない人間は本当に一人もいないんだな?」

「いえ、いくつか例外があります。まず自由都市ソドム。ここに一歩入ればすべての人間は役割にとらわれず好きなことが出来ます。」


ロイが人差し指をたてる。


「自由都市っていうか、無法都市だけどね。」


ギルが口を挟んだ。


「まぁ、それはおいておきましょう。次に盗賊などの犯罪者たちです。彼らはほとんどが傭兵団出身者ですが、自らの役割を捨てて生きる選択をしたわけですね。」


まぁ、そういうやからがいてもおかしくわないだろう。


「そして、盗賊と似ているようで、似ていない。革命家達が居ます。これらは、今の役割制度に疑問を持ち各地でゲリラ戦などをおこない傭兵団や我々騎士団と戦っています。正直かなりの規模なので、盗賊とは比較になりません。」


・・・・まぁ、そういうやからがいてもおかしくはないだろう。


「今あげた三つのうち、盗賊と革命家はすでに戸籍を捨てていて、書類上死んだことになっています。そして、もうひとつ盗賊でも革命家でもなく書類上は死んだことになっていて自由を得ている者たちがいます。これが、あなたに関係してくることです。」


ロイの話が架橋に入ってきたことがわかる。


「それは・・・」

「それは?」


一拍の間がひどく長く感じた。


「ハンターです。」


ハンター・・・どこかで聞いたことがあるような。


「あなたが牢屋に入れられていたときに一緒に入っていた人たちを覚えていますか?」


覚えている。陽気な人たちで、ジンとかいう男と知り合いになった。

確かに彼らは自分のことをハンターだと言っていた。


「ハンターとは、傭兵団や騎士団が手の回らない仕事を引き受ける。要は何でも屋みたいなものです。仕事にはそれぞれの報奨金が定められており、ハンター達は自由に仕事を選んでいきます。」

「それは、いいとしてなんでハンターたちまで書類上死んだことにしなければならないんだ?」

「まず、そうしなければハンターを希望するものが増えてしまうということがあります。そして、もうひとつ傭兵団や我々が手に終えない仕事を負うわけです。それがどういうことだかわかりますか?」

「つまり、きれいな仕事ばっかりじゃないってことか。」

「その通りです。それ故にハンター達は他の人々から疎まれると共に畏れられています。彼らは、保険も年金も無い代わりに、自らのルールで生きています。国の法律は彼らの世界ではほぼ関係ありません。」


なるほど。自由の代わりに保障も無いか。


「それで、ハンターになればいいのかい?」

「そうです。最初から役割の無いあなたをどうするのか。国の出した決定は役割を捨てた者たちのところに入れることでした。」


まぁ、勇者のお供とか言われなくて良かったか。


「わかったけどさ、ハンターについてもうちょっと資料とか無いのか?」

「そういわれると思って、こんなものを持ってきたんですよ。」


渡された本には、「金髪の勇者」という題名がついている。


「およそ200年前の勇者なんですが、問題の多い勇者だったようで、決まっていたお供の者達とは旅をせずにハンター達のなかに入っていってしまい、しまいには腕利きにハンター達と魔王討伐に向かったらしいのです。」


何回も勇者をよんでると、とんでもないやつがたまにはあらわれるらしい。


「よって、その勇者の姿の正確な記録などは残っていないのですが、勇者がハンターについて述べている記述がその本に書かれていたんですよ。しかし、わたしたちには正直意味がわからなくてね。」


本にはご丁寧に栞が挟んであった。


「ちなみにその勇者。ほとんど記録が残ってないくせに、歴代最強の勇者とか言われてるんだぜ。わけわかんないだろ。」


ギルの言葉は、耳には入っていた。でもそのまますり抜けてしまった。

何故なら、その勇者の残した記述があまりに衝撃的だったからだ。




ハンター。

彼らは自らの方で自らを律し。自らの美学で動く。なにものにも縛られず。豪快でいて厳かな者達。独自の礼儀を重んじる。

一般の人から疎まれ、嫌われ、しかしながら畏れられる。こっちの世界でいう、道を極める人にそっくりだ。




間違いなく、この勇者は日本人だ。

なんで、金髪なのかはわからないが、おそらく染めていたのかもしれない。

そんなことはどうでもいい。

自分の頭から離れないのはこの記述。

「ハンターはこっちの世界でいう道を極める人。」


・・・・死んでしまったお父さん。お母さん。

今まで育ててくれた叔父さん。

初めての就職先が決まりました。


極道です。


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