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僕の物語  作者: ままごと
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僕の本

これは、ある男の物語。

かつて、まだヴァルハイトが帝国でエルマーが王国だったころ。

両国の間で争いは絶えず、国も民も疲弊するばかりであった。

ところが、突然魔族の王を名乗るものが人間に宣戦布告。

人間達に異形の魔物が襲い掛かるようになった。

これに抵抗するために両国は停戦協定を結び、共に戦うことを約束する。


人間と魔族の総力戦が始まった。


戦争を繰り返してきていただけの事はあり戦い慣れしていためかなりの抵抗をみせるも、守ることで精一杯だった。


そんななか7人の強きものが現れ魔族の王を倒すべく動き出した。

様々な戦いの末7人は魔族の王、魔王にまで到達する。

7人の強さと魂の気高さに心打たれた魔王は人間への攻撃を停止することと共に二度と人間に戦争を仕掛けないと誓った。


こうして、平和は訪れた。ように思えた。


愚かなことにまた争いが起こった。


エルマー王国で軍事クーデターが発生。王族は王の一人息子を亡命させ、それ以外は皆殺しにあった。

混乱に乗じて、ヴァルハイト帝国は帝国となったエルマーに攻め入ろうとするが、戦いに嫌気の差した民衆は、亡命していたエルマーの王家の一人息子を担ぎ上げ革命を起こした。


こうして、エルマー王国は帝国となり、ヴァルハイト帝国は王国となった。


立て続けに起こる争いに、人々の心は荒み治安は悪くなる一方だった。


そこに一人の男が現れる。


奇怪な身なりや言葉。その男は異世界から来た者だった。


ずば抜けた魔力と戦闘能力、この世界には無い知識。


それらを用いてその男は世界を変え始める。

治安は安定しだし、各地にのさばっていた盗賊たちは討伐され、土地は整えられていった。


人々はその男をいつしか勇者と呼ぶようになっていった。


時はたち、人々の生活は安定していたようにも思えた。

かつて、いたとされていた勇者のことも人々は忘れかけていた。


しかし、魔王が7人との約束を破り、人間に再び戦線布告をしてきたのだ。

また、世界は争いに満たされていくことになった。


絶望の中、人々が望んだのは希望の象徴である勇者の再来だった。


月が落ちてきそうなほど、大きく空に浮かんでいた夜。

一筋の閃光と共に、再び異世界から男が現れた。


人々は勇者の再来だと喜び、男は期待に応えた。


勇者となった男は、優秀な使い手と共に魔王討伐への旅路に出る。


その数ヵ月後。魔物の数が激減し、勇者が魔王を封印したのだと、誰かが言った。


そして、魔王の封印が解かれるたびに異世界から勇者が召還されそれは幾度となく繰り返されてきた。


もう何人目の勇者か誰も数えられなくなってしまった今。

再び勇者として異世界から召還された男と共になぜか召還された男が一人。


魔力の属性を持たず、役割も持たない。


その名を白上(しらがみ)雅人(まさと)と言うその男。


これは、その男の物語。




白い本を閉じる。

王に謁見したときに渡されたこの本には、ほとんど伝説に近い歴史が長々と書かれていて、まるでおまけのように自分のことが書き記されていた。


自動で記録される日記みたいなもなだと聞いていたが、物語風で書き進めていかれるようだ。

元の世界で見た白い本は文章は幼稚だったし、歴史も途中までしか書かれていなかった。


「わからないことだらけだな。」


部屋の椅子に深く腰掛けながら独り言をつぶやく。

毎日の過酷な訓練と魔法の練習に追われて心身共に悲鳴をあげている。

タバコを加えて叔父さんから貰ったライターで火をつける。

この世界に来て、タバコを吸うようになってしまった。

レナが「拾ったのを渡し忘れていた」と言ってライターを自分に届けてくれたのはロイと仲良く医務室で寝ていたときの話。


コンコン、とドアをノックする音がした。


「よう、ギルだ。疲れてるとこ悪いが少し話があるんだよ。」

「入ってもいいですか?」


どうやら、ロイもいるらしい。


「どうぞ。」


短く返事をする。


「よう。」

「やあ。」


二人がそろって部屋に入ってきた。


「何をしていたんですか?」


ロイがいつもの顔で話しかけてくる。


「これを読んでたんだよ。」


白い本を持ってギルとロイに見せた。


「おお、そうか。そうなんだ。そっか。いやぁなんというか。その、あれだな。あれだよ。」


ギルの様子が明らかにおかしい。


「一つきいていいか?」


椅子に座ったまま、見上げるようにロイに視線を向ける。


「なんですか?」


白い本からロイがこちらに視線を戻した。


「なんで、二人して完全武装しているんだい?」


ギルが下を向いていしまった。

ロイはまっすぐにこちらを見たままだ。

その目が開かれて深緑の瞳が顔をだす。


「今日の会議で正式に決定されたことなんですがね。」


ロイが淡々と話し出す。


「あなたを殺すことになりました。」


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