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僕の物語  作者: ままごと
11/22

僕の訓練

戦闘訓練のために連れてこられた場所は床も天井も壁も真っ白だった。

高校の体育館ぐらいの広さ。

縦横無尽に駆け巡ることができそうだ。


「マサトは剣は使えますか?」


部屋の中心に来たところでロイが口を開いた。


剣。もちろん使ったことは無い。

それでも、叔父さんに武器も使えるようになりたいから、剣術を教えてくれと頼んだことがある。

両手に鉄パイプを持たされて、干した布団を永遠と叩き続けた。


2か月くらいで、断念したな。


よって、剣術の型などはいっさい知らない。

もしかしたら叔父さんも知らなかったのかもしれない。


「正直、自信ないな。まぁ、振るくらいはできるんじゃないかな。」

「そうですか。まぁ、いいでしょう。今日は剣術がメインじゃないですから。」


そう言って、ロイが木剣を渡してきた。


「実戦形式の訓練なので持っていて下さい。実際の一般的な剣の重さにしてあります。まぁ、異世界人のあなたには、あまり重くは感じないでしょう。」


確かにある程度の重さは感じたが、鉄パイプ程じゃない。


「うん。大丈夫そうだよ。」

「なによりです。さて、それじゃ始めましょうか。」

「何をするの?」

「さっきも言った通り、実戦形式で訓練をします。心配しないで下さい。マサトが異世界人でも武術の心得があるにしても、後れをとるつもりはありません。」

「へえ、さすがは副隊長。自信たっぷりだね。」


多少、武術の心得がある以上、やはり強い相手と手合わせできるのは何とも言えない昂りを感じる。


「まぁ、その理由もすぐにわかります。そして、それこそがこの訓練の目的でもあるんですよ。」

「それは、楽しみだ。」

「さぁ、始めましょうか。」


お互いに、距離をとってから向かい合う。


「聞き忘れてたことがあるんだけど。」

「なんですか?」


距離をとったので、お互い少し声を大きめに話す。


「何でロイだけ鎧着てるの?」

「その理由もそのうちわかりますよ。」


正直、あまり納得はしていない。


まぁ、しょうがないか。


ロイはいつも通り、目を細くしてニコニコしている。

それは、自分が構えても変わらなかった。


もしかして、ずっとあの顔のままなのかな…


「それじゃあ、マサト。一回だけ好きにさせてあげます。鎧を着ているとはいえ、兜はしていませんから、顔が狙い目ですよ。」


いつもの顔で、ロイが言う。

だいぶ、舐められているようだ。


「ロイ。自分で言うのも何なんだけど、身体能力も上がってるし、ただじゃ済まないよ?」

「私が大丈夫と言っているんです。遠慮しないでください。」


ロイの表情は崩れない。

あの、整った顔に一撃を喰らわせるのは気が引けるような気もするが、ロイがあそこまで言うのであれば何かあるのだろう。


「それじゃあ、遠慮なく。」


利き足で、地面を蹴りだし走り出す。

自分でも驚くほどのスピードがでる。

あっという間にロイの間合いに入った。

ロイは、相変わらず両手を下げたまま反応しない。


それとも、反応できてないのか?


「ロイ。ごめん!」


おもいっきりロイの顔に木剣を叩きつけた。


ロイの体が地面に叩きつけられワンバウンドして、跳ね上がる。

自分でやったこととはいえ、あまりの光景に動けなくなってしまう。

背中から、嫌な汗が出てくる。

襲ってくる焦燥感。


間違いなくやりすぎた。


「ロイ!」


やっと、声を出し駆け寄ろうとする。


「いやぁ、驚きました。純粋な身体能力だけで、あのスピードにこの威力。さすがは、異世界人だけありますね。」


ロイは何事も無かったかのように、すくっと立ち上がった。

あっけにとられる自分を見て、相も変わらずニコニコしている。


「な…何で…?」


その言葉をやっとのことで絞り出す。


強化魔法(レジスト)。」

「れじすと?」

「そうです。魔力を付加することで、自分自身や防具、武器に至るまで、強度を高める魔法です。腰に剣を携えるものは皆この魔法を会得しています。」

「今の攻撃、全然効いてないの?」

「はい。威力によって吹き飛ばされたもののダメージは受けてません。その証拠に顔に痕さえ残ってないでしょ?マサトの魔力の付加されてない木剣では、レジストを使用している相手には効かないのですよ。」


確かにロイの顔にはかすり傷一つ無い。


「そして、これこそがこの訓練であなたに学んでもらいたいものなのです。わかってもらえましたか?」

「まぁ…なんとなく。」

「なによりです。」


と言うや否やロイがいきなり懐に飛び込んできた。


早い。吹き飛ばしておいてなんだが、こんな重そうな鎧を着てこのスピード。


只者じゃない。


鋭く放たれた一撃を間一髪でかわす。

物凄い風切り音がした。

当たっていたかと思うとゾッとする。


「ビックリしたなぁ…いきなり何すんだよ!」

「何って…訓練ですよ。理解したってさっきあなたも言ったじゃないですか?」


ロイの笑顔が段々怖くなってきた。


「いや、だから何でいきなり攻撃してくるのさ。」


そう言うと、ロイは少し呆れた態度を見せた。


「やっぱり、わかってないじゃないですか。訓練の目的はあなたがレジストを習得することです。」

「それはわかってるって…」

「つまり、私があなたを滅多打ちにして、あなたがそれに耐えて、めでたくレジストを習得しようとしてるわけじゃないですか。」


はい?何だって?


まるで、笑顔の面をつけているかのごとくロイの顔は変わらない。


「それでは。」


また突拍子もなくロイが仕掛けてくる。


「ちょっと待った。」

「待ちません。」

「普通はちょっとしたコツとかを先に教えるものだろ!?」

「最初からコツを教えてもらおうなんて、考えが甘いですよ。」


ロイの攻撃をかわしながら、抗議するが一向に聞き入れられない。

そして、さっきからすでに感じてはいたことだが…


ロイのあの笑顔は危険だ…


今の自分にとってはロイの笑顔はすでに恐怖の対象でしかない。


「全く。避けないでくださいよ。訓練にならないじゃないですか。」


いくらロイの攻撃が早いとはいえ、眼がよくなっている分だけなんとか対応できる。

それに、東洋の武術特有の緩急を付けた動きに、ロイが着いてこれていない。


その分、休みなく攻撃が続いてはいるが…


「冗談じゃない。一方的に嬲られる訓練なんて!というか、それなら何で木剣持たしたのさ。意味ないだろ。」

「私はアンフェアな状態で一方的に攻めるのは嫌いなんですよ。フェアな状態で一方的に攻める方が好きなんです。」


結局、一方的に攻めるんじゃないか!このサディストが!


「とんでもないサディストだな。」


さりげに出した言葉に反応して、ロイの攻撃がピタリと止まった。


「サディストってなんですか?」


この世界で自分の言葉が通じるのはレナが魔法をかけてくれたからだ。

おそらく、こっちが普通に話しているつもりでも自動的に通訳されているのだろう。

しかし、こっちの世界に概念のない言葉を発しても通訳できないようだ。

当たり前といえば、当たり前だけど。

そして、どうやら『サディスト』という概念はこの世界に無いらしい。


「サディストって言うのは、相手より優位な立場に常に立つことを好み、時には相手をいたぶることに精神的または性的な快感を覚える性質の人間のことを言うんだよ。Sとも言うね。」


うまく説明できたかわからないが大体の意味はこんなものだろう。


「なるほど。意味がわからないながら興味を引かれただけありますね。私のことです。それ。」


自分で認識できて何よりですね。


「さて、再開しましょう。」


また、攻撃を連続で放ってくるロイ。それを避ける自分。


「大丈夫ですよ。痛みに体と魔力が反応して、自然とコツが掴めるはずです。『魔道書読むなら、まずねずみを殺せ』って言うじゃないですか。」

「何それ!?ことわざ?それを言うなら『習うより慣れろ』だろ。」

「あなたの世界ではそう言うのですか。単純明快ですね。ですが、少し味気ない気もします。やはり最初の方がしっくりきますね。」


味気っていうか…こっちの毒混じってるでしょ。てか、ねずみ可哀相だろ。


「まぁ、そりゃ自分の世界のことわざの方が親しみがあるんだろうけどさ。」

「確かにそれもありますが…」


また、ロイの攻撃が止まる。


「私、ねずみ嫌いなんですよね。」


…ねずみ…可哀相だろ。


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