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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
third chapter 運命の歯車

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99章 ぶり返し

 事件より数十日前。ハジメは学校裏にある錆びれた廃墟にいた。そしてそこには、雑に接合された十字架を模った柱に縛られた夢花の姿があった。


 「どう……してっ……」


 何が何だがわからない。それもそのはず。夢花はここに連れて来られる間、麻袋を被せられていたのだから。周囲にはぼろぼろになった木片や金物が散乱しているが、この柱の周りだけは小綺麗に片付いている。


 そして、隣。一本の古い巨大な柱には見慣れないいくつもの傷がつけられていて、その下にはカートに山積みとなった()()()が陳列していた。


 「…………ここってさ、なんかいわくつきの場所なんだよ」


 隣の柱を愛おしそうに撫でていたハジメがぽつり、とつぶやいた。その顔には普段と変わらない、にこやかな笑みが張り付いている。……不気味なほど、自然に。


 「呪術師ってわかる?テレビ特集なんかでやってるから聞いたことぐらいはないかな?ほら、藁人形に金槌で五寸釘打ち込むやつ」


 「う、うん……見たことはないけど」


 「そうなんだ。じゃあ、体験してみようよ」


 「え……それって…………ひっ!?」


 夢花の全身の筋肉が一瞬で縮み上がる。ガツン、という痛々しい物音と共に右耳の数センチ隣に太い釘が打ち込まれた。横目で見た不気味に黒光りするそれは、長い間怨念を吸い続けた怨嗟の声が聞こえてきそうなほど深く突き刺さっている。


 「あはは……大袈裟だなぁ。ボクが本気で笹井さんを傷つけるわけないじゃん」


 「…………っ!?」


 どうして、何故ーー、


 そんなに笑っていられるの?


 夢花が感じたものは目の前に刺された釘よりもずっとずっと恐ろしいものだった。


 普通なら、痛いもの、忌避するものには近づかない。嘔吐した吐瀉物や糞尿を嫌うのと同じだ。人には罪悪感という途方もない呪いがある。どうしようもないことだろうと、それを意識するだけで心が支配される。


 しかしこのハジメは生まれ持ったモノ故にそれが一片も備わっていなかった。いや、というよりは感情受信の機能が他方よりも麻痺しているといったほうがいいかもしれない。


 他人に置き換えて考える、ということが実質的に困難となっているのがこの特性の最もマイナスな点である。


 痛い、嬉しい、辛い、悲しい、楽しい…………これらの感情は誰彼もが生まれ持ったものではなく、周囲の環境から……つまりは親族から教育的に獲得したもの。ひと昔前の調査で、ジャングルで育った子どもに簡単な読み書きを教えたところ、ひと月の時間をかけても単語のふたつ、みっつ程度しか身につかなかったというケースがある。


 幼少期の教育がいかに重要であるかを物語ると同時、この事実は後にある見解を導き出した。その最たるモノが現在、英才教育という名で知られている。


 だがーーー。


 「あぁ、それだよ。そのカオ。怖いよねぇ、辛いよねぇ、けどさ……仕方ないよね?」


 「え……」


 ハジメはこれ以上ないくらいのイイ笑顔で、夢花の頭をくしゃり、撫でた。


 「だってさ、()()()()()()()()()。最初っからボクを否定するなんて、どれだけ馬鹿なことしてるのか理解してないんだよ」


 このとき、夢花の感じていたものが恐怖から忌避、嫌悪とめまぐるしく色が変わった。


 (おかしい……おかしいおかしいっ!何、なんなの…………このヒト……!)


 「だからさ、教えてあげるよ。直々にね。……あ、そうだ。あんまり動かないほうがいいよ。もしかしたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ガツン!


 今度は右肩すれすれの位置に、太い釘が突き刺さる。長年に渡って五寸釘を叩きつけられてきたにも関わらず、柱はびくとも動かない。縛りつけられた夢花を藁人形と同じく捉えて離さない。


 「ひ、っぐ……えぐ……」


 泣きじゃくる夢花を無視し、ハジメはただたたまひたすらに釘を打ち込み続けた。叩きつけられる柱の悲鳴と、夢花の嗚咽により、小屋は異様なまでに不気味さを増していた。


 

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