97章 夕暮れ
翌日、堺が訪れたのは笹井の自宅だった。ここ数日の間タケルと夢花両方が登校しておらず、本人から話を聞けなかったためだ。
「すみません……今朝から二人とも出掛けていまして」
「……そうですか。お母さんの方では何か聞いていたりはしませんでしたか?」
「いいえ。あれからこまめに聞くようにはしていますが一向に耳を傾けてくれません」
これには堺も大きくうなだれ、肩を落とした。あくまで赤の他人である先生としての立場の自分はともかく保護者、つまり親子の間からなら何か分かるのではと踏んでいたからだ。
処分を決める前に経過が不明なのでは決定も何もあったものではない。
「……分かりました。何か分かったことがあれば連絡してください。それと、二人にはいつ登校しても大丈夫だと伝えてください。できる限り、力になります」
それを聞くと、笹井母は何度も感謝の言葉を述べ、申し訳ない、どうかよろしくお願いします、と定型文で締め括った。別れを告げいそいそと戻る母にどことなく違和感を覚えた。
帰り道。堺は腑に落ちないものを感じながら夕焼け空の下を一歩、また一歩と進んでいく。明日は学校の創立記念日。久方ぶりに仕事も終わり、心の休養を求める予定だったのだが、このようなことがあっては気が休まるどころではなかった。
大きくため息を吐き、俯きがちになっていた体を無理やり起こして空を見上げる。何も書いてない、雄大な天空は既に日が落ちかけ、最後の光が消えようとしていた。全くもって日常的に起こりうることではあるけれど、何故か今だけは自分の心が反映されているような気がした。
しばらくして、堺は目尻を拭って自らを鼓舞するように、二、三度ほど手を叩き合わせた。また明日に聞いてみよう、そうしようと心に決め、再び帰路につく。
笹井家は堺が下宿しているマンションのある地域からはそこそこ離れているため、街角にある無人駅から戻らなくてはならない。間の悪いことに車を車検に出してしまったため、電車を使うしか方法はなかった。
そのため普段では見ることのない景色を見ながらゆっくり歩いていたのだが、これが功を奏したのか意外なことが起きた。
ふとして通りかかった小さな公園のブランコに、誰かが座っているのが見えた。沈みゆく太陽の光が影を作って、地面に黒い染みを垂らしているかのようにたなびいている。
そして、その人物を自分がよく知っているということに気づくまで、さして時間はかからなかった。
「笹井……」




