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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
third chapter 運命の歯車

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96章 面会

 五日後、病院を訪れた(さかい)は受付の看護師案内のもと、黒鉄元(くろがねはじめ)の病室を訪れた。


 四つのベッドが規則正しく並んだ部屋は驚くほど殺風景で、窓ガラスには昨日降ったばかりの雨がまだ滴り、濡れている。唯一といっていい色味は申し訳程度に置かれてある花束くらいのものだった。


 そんな隅に、ハジメは雑誌片手にページをぺらぺらと捲っていた。頭にまだ包帯が残っているせいか、なんだか痛々しいものを感じる。


 「あ……先生」


 「……こんにちは。少し、いいか」


 先生ーーー堺はベッド脇に置かれている丸椅子に腰かけた。他のベッドにはいずれも人がいないため、病室はやけに静かに思えた。音を発するものが何もないので仕方ないことではあるが。


 「大変だったんですよ、この傷。鼻の骨を折って全治三ヶ月だっていうんだから。でも、怪我だから欠席にはならないんですよね」


 「……出席に関しては問題ない。特別欠席の扱いになる」


 「よかったぁー。こんなので欠席取られたらたまったもんじゃないし」


 ハジメはにこやかに笑った。ほっと胸を撫で下ろし、本当に安堵した、という具合に。


 しかし、堺が話しにきたのはそんなことではない。


 「本当に、それだけか」


 「それだけって…………あぁ、そうだ。ボクを殴ったやつ。あいつどうなったのか教えてくださいよ。あいつのせいでこんな怪我したんだし、相当重い罰でも食らったんじゃないんですか?」


 「もちろんだ。つい先日、処分が決定した」


 「へぇ……それでどうなったんですか?」


 うきうきした顔で尋ねるハジメに、堺は冷ややかな面立ちで答えた。


 「厳重注意、だそうだ」


 「…………は?」


 それを聞いた途端、ハジメはぽかん、と大きく口を開け、何か珍しいものでも見るかのように目を瞬かせた。あり得ない、嘘だろ、そんな馬鹿な、と慌てふためく。


 「な、なにかの冗談ですよね?ボクを驚かせようとサプライズのつもりですか?」


 「嘘でも冗談でもない。教育委員会からも、正式に認可が降りた」


 「ふ、ふっ……ふ……」


 堺はあくまで冷静にただただ受け答えだけを果たした。それが癪に触ったのか、あるいは他の要因なのか、ハジメは頭を掻きむしり、次の瞬間にはあらん限りの声で吠えた。


 「……っざけんなよ!!ボクにこれだけ怪我させといて、何が厳重注意だ!普通停学か退学処分だろ!」


 ベッドの柵に拳を打ちつけ、堺に向かって怒鳴りつける。それでも堺は表情ひとつ崩さず至って落ち着いた物腰で続けた。


 「黒鉄。お前、笹井夢花はわかるよな」


 「話をそらすなよっ!なんでそんな程度の罰しか降りなかった理由を聞いてるんだ!」


 「……本当に、身に覚えがないのか?」


 堺は内側からどんどん己が熱を帯びていくのがわかった。できる限り"大人"として振る舞おうと耐えに耐えてここまでやってきたが、今ここで確信した。


 (この子は…………いや、こいつは…………本当に()()()()()?)




 時を遡ること約二日。堺はこの日、放課後で五人ほどから面談をしていた。そのうち、仲が良いというグループの話によればあの事件の原因を作ったのは自分たちだと言い出したのだ。


 「ほんと、本当に遊びだったんです。ちょっとした悪ふざけのつもりだったのに、こんなことになるなんて…………」


 「俺たちがカマかけてなかったら、怪我人なんて出なかったかもしれないです………」


 あちらこちらから同時に喋るものだから、聞き取るも何もあったものではない。そこで、一人ずつ面談形式にマンツーマンで事情を聞いていってまとめることにした。


 結局二日丸々かかって退勤時間もとうに過ぎてしまったが、得られた結果を一通り見直してみると明らかにおかしい点がいくつも上がっていた。


 そもそも最初の原因となったであろう告白自体、罰ゲームだったらしいのだ。去年のことはよく知らないが、前の担任を受け持っていた教員に尋ねてみたところ、ハジメは多くのクラスメイトから友人関係で忌避されていたことがあったらしい。


 今年に入ってからは止んだように見えていたが、どうやらそれは一時的なものに過ぎず、体力にも体格にも劣るハジメは彼らスクールカースト上位グループの玩具となっていたそうだ。


 リーダー格の一人によると、夢花と親しくしていたようだったため、半ば強制する形で告白するよう押しつけたそうで、これが本当の原因ではないかと推測できた。


 「ただ、だとすると…………」


 今度はタケルの方が分からなくなってくる。あれほど我を忘れた発言、行動。どこをとっても違和感が残る。


 何が嘘で、何が真実なのか。それが一番重要なことに変わりはないが、堺では確かめる術を持ち合わせていなかった。


 「聞いてみる他ないか」


 堺は机周りの書類をあらかた片付け、戸締りを確認した後、誰もいなくなった職員室をあとにした。


 

 


 


 



 

 


 


 

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