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異端兄妹は日常に戻りたい  作者: 幽猫
third chapter 運命の歯車

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92章 クズ

 皮肉たっぷりに、嘲笑うように。


 普段の梶樹なら相手を挑発するようなことは例えおふざけであったとしてもここまで馬鹿にしたようにはしないだろう。


 しかし、相手の弱点、弱味をつくことほど効果的な方法はない。


 少年は手駒と思っている少女らを止められて少なからず()()()()()。それに加えてさっきの悪戯……もとい、くすぐりを交えたいちゃいちゃを見せつけられて相当に気が昂っているはず。


 梶樹自身もそこまで恋愛面においては秀でた陽キャ……というわけでもないが(事実、学校でも気軽に話せる女子は少ないし強いていうなら繭愛だけ)それを加味しても端から見た少年の印象としては二つ。


 ーー短気で、モテなさそう。


 そう考えれば目の前で自分たち(梶樹と繭愛)がいちゃつくのが面白いわけがない。


 確証はなかったが実際はめちゃくちゃに効果覿面だったらしく、少年は相当に苛立っていた。


 「お前じゃねぇ!そっちの女に聞いてんだっ!」


 今にも飛びかかっていきそうな勢いで繭愛を指差した。どうやらさっきまでの会話の全てを聞き取ったわけではないらしいが、それでも原因が梶樹でなく繭愛の方にあると踏んだのは流石というべきか。


 「……あなたにいわれたくない」


 静かに、繭愛が口を開いた。身体に纏う青白い光がどんどん激しさを増していく。


 「はぁっ?だからなんだ、命令してんのはこっちだろ!いいからさっさとーーー」


 言い繋ぎかけた刹那、耳をつんざくような爆音と眩しいまでの閃光が飛来した。閃光は少年の頬を掠め、背後にあった広告の張り紙がいくつも貼ってある駅地下の大きな柱をまるでベーコンに爪楊枝を刺すかのようにブチ抜き、貫通した。


 「…………!」


 柱からじゅうじゅうと白い煙が登っていく。熱で地下の空気中に漂う水分が蒸発したためだろう。野球ボール大にぽっかりと空いた穴から覗ける先は、一直線にあらゆるものが薙ぎ払われている。


 「ば……バケモノかよっ……!」


 狼狽する少年。それを無視して繭愛が煙たがるようにして言い放つ。


 「……うるさい」


 普段からは想像できない、凄まじい圧迫感。隠し切れない怒りの感情が、声から滲み出ていた。


 しかも、それだけではない。


 繭愛の身体に纏っていた青白い雷光が燃え上がるように隆起したかと思うと、白紙にインクを垂らしたかの如く、じわりじわりと()()()()()()


 醒めるような青から、おどろおどろしい紫へとーーー!




 「繭……それは…………」


 梶樹はその場に立ち尽くしーーー否、どうすることもできなかった。それほど繭愛の周囲にとぐろを巻く光と熱の帯は凄まじい変貌を遂げていた。


 紫電(しでん)、というのは鋭く尖った光のことを指すそうだがこれは良い意味で文字通りの現象だった。あの心優しい繭愛が間違いなく、相当に、めちゃくちゃ怒っている。拗ねたなんて可愛いものではなく、本気の、ガチギレだった。


 「おにぃにこんな……こんな怪我させて…………!絶対、絶対許さないから……」

 

 そのとき、天井から地下を照らしていた明かりが爆発音をあげた。ガラスの破片がそこらに飛散し、それが何度も起きる。おそらく、外部から異常な電圧がかかったために、中に入っていた電球が暴発したのだろう。


 熱はどうやら抑えてくれてはいるようで、この至近距離でも発火現象は起こっていない。逆にいうと繭愛が自分で熱を抑えてくれなかったら、今頃ここら辺りは一面火の海になっているはずだった。


 「…………」


 繭愛が無言で利き腕を上げ、相手目掛けて直線上になるように指を交差させた。バチバチ、と電気がほとばしる音。前髪から後ろ髪にかけてをベールのように包む。


 「…………っ!」


 何か、吹っ切れたような勢いで少年が駆け出した。短い距離を悠々と詰めてくるーーーかと思いきや、わずか三歩進んだところで停止した。


 足元に、電撃が降りかかってきたからだ。瞬きをするよりも早く、圧縮させた超高圧電流が足元を這いずり回る。


 「……動かないで」


 静かに喉を動かす繭愛。すっ転んで倒れた少年に銃でも突きつけるかのような冷徹な一声が浴びせられた。


 「いいよ、繭。もういい」


 荒ぶる彼女の手を取ったのは、慕って止まないおにいちゃん。一瞬、ほんの一瞬だったが電気の蛇たちが溜飲を下げた。


 「でも…………」


 「気持ちは分かるが、今は置いといてくれ。……別に、あいつの肩持つわけじゃないけどな」


 ぽん、と頭に手を置き、くしゃりと撫でてやった。繭愛は何か言いたげで不満そうなカオだったけれど、追い詰めているときよりかは幾分か和らいだような気がした。


 梶樹は一歩前に出て額を拭うと、手をついた少年めがけて宣言した。


 「どうした、お前。味方がいないと何もできないのか?」


 「……うるせぇ」


 「まぁもらったチカラの問題なんだろうけど、やっぱそうだよな」


 「…………うる、せぇ」


 「…………お前、今までここで会ったヤツの中でも最低のドクズだよ」


 「………………るっせぇんだよ!!このシスコンブラコン兄妹が!!!だったら、テメェらで一生仲良く殺りあってろ!!」


 あらん限りの声で叫んだ少年は、引けていた腰を無理やり動かして飛び込んできた。


 目の前でのことでつい反撃しようと身構えた梶樹は、彼が自分のほうへ向かっていないことに気づいた。


 そう、後ろの繭愛へとーー。


 「繭っ!」


 思えば、彼は最初から()()()()()()()()()()()。圧倒的な力の差を見せつけられても飛び込んで、()()()()()()()()()


 いや、近づく必要があった。何故なら少年に与えられた能力とはーーー。


 反応が遅れたぶん梶樹がフォローに入るのが一歩遅れ、繭愛に平手打ちが入る。少年のもともとの筋力のせいか、はたまた繭愛が纏う雷のせいか、ぺちん、という軽い音が鳴った。


 瞬間、少年は笑った。


 それは最初に見た、余裕に溢れた、ねったりとまとわりつくような笑みだった。


 「そんなに知りたいなら、教えてやるよ。ボクはクロガネ。黒鉄元(くろがねはじめ)だ」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


 


 

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